135.次の遺跡に向けて!!
改稿しました(2022年5月30日)
翌日、私達は、松の里を後にして、東へと移動を開始した。移動の組み分けはいつも通りだ。
「次の遺跡は、今から行く街の近くにあるのかにゃ?」
「ううん。さらに、その先にある街まで行かないといけないんだ。だから、次の街は、ポータルに登録したら、そこをスルーして行く感じだよ。刀匠がいるわけでもないから、用もないしね」
次の遺跡は、今よりもさらに北東にある。そのため、先に東へと移動してから、北に移動する事にした。理由は、松の里の北が、また山だったからだ。東の方は、森となっていたので、こっちの方が、移動しやすいと考えた。森は、平面だからね。
「そろそろ森の中に入るよ。メレちゃんの歌が効かない敵に気を付けてね」
「分かってる。ネロ、異変があったら、すぐに教えて」
「それなら、さっきから変な音が、森の奥から聞こえるにゃ」
ネロの言葉に、私達の気が一気に引き締まる。私達に聞こえない音ということは、本当に森の奥からしている音なのだろう。
「どんな音?」
「何か大きなものが動いている感じだにゃ。ただ、その音が聞こえる範囲が広すぎるにゃ。複数体もしくは超巨大な敵と考えた方が良いと思うにゃ」
「巨大な敵か……エリアボスかもしれないし、立ち止まって戦う事も視野に入れておこう。メレの沈静の歌は継続して、敵が襲ってきたら、増強の歌に変更で」
私がそう言うと、メレは歌いながら頷いた。その確認が済んだところで、森の中に侵入していった。
そのまましばらく進んで行くと、私達の耳にもネロの言っていた音が聞こえてきた。それは、重い音というよりもでかいものが移動する風切り音のようだった。
「何これ? 何の音なの?」
シエルが、少し不安そうにしながら、首を傾げる。
「分からないけど、ほぼ確実に敵のものだと思うよ。問題は、敵が巨大な可能性が高いってことだね。場合によっては、メレの音の砲撃で倒すのが一番かも。瞬間的な攻撃力だったら、私の爆発かメレの砲撃だから」
敵の種類によっては、私の爆発よりもメレの音の砲撃の方が、効果的な可能性がある。最悪、私の爆発を最大威力まで上げて放つ事になるかもだけど、絶対に気絶するから、なるべくなら使いたくない。そんな相手が出ないことを祈るだけだ。
「左方向から来るにゃ!!」
ネロの言葉に、私達は左を向く。すると、木々の隙間から大きな百足が、木々を薙ぎ倒しながら進んでくるのが見えた。
「さっきまで、木を薙ぎ倒してなんかなかったでしょ!?」
「獲物を見つけたからにゃ」
「ともかく! 攻撃範囲から逃げるよ!」
「ガーディ『起きて』! 『人形合体──プティ──』!」
プティが、青黒い毛皮を纏う。ガーディと合体したプティが速度を上げて移動し始めた。私も、月読のギアをもう一足入れて速度を上げる。急に速度を上げたため、大百足の攻撃は空振りに終わる。私は、月読で後部射撃を行う。だけど、その弾は、大百足の外殻によって、全部弾かれてしまった。
「硬っ!」
「銃弾を弾いたにゃ。あいつの外殻は、鉄かそれ以上ということにゃ」
まずは、大百足の外殻をどうにかする必要がありそう。
「『戒めの光よ』『輝く杭の抑圧』!」
ミザリーが出した光の鎖と光の杭が、大百足の動きを阻害する。しかし、大百足の大きさが規格外過ぎて、完全に束縛することは出来ないみたい。私達を襲っている大百足の大きさは、大体二十メートル以上、幅は二メートル程ある。
「ミザリー! どのくらい保つ!?」
「後、五秒くらいで解かれると思う!」
「シエル! このまま走り続けて!」
「分かった!」
走り続けて、五秒後に大百足の束縛が解かれる。そして、真っ直ぐ私達を追ってきた。それも、巨体からは想像出来ない速度を出していた。
「やば……想像以上に速いや……」
「大丈夫かにゃ?」
「う~ん……まぁ、長いから平気でしょ」
私がそう言った直後、大百足の身体の下から爆発が起きる。その爆発によって、大百足が空に打ち上がった。
「ソル!」
私の呼び掛けに答えてくれたのか分からないけど、声を出すのと同時に、ソルがプティから飛び出し、さらに周囲にあった木を蹴って跳び上がった。
「抜刀術『一刀両断』!!」
ソルの抜き放った刀が、大百足の顔に命中し、顔を裂いた。その傷は、顔だけに留まらず、大百足の身体に伝播していく。ただ、そのまま真っ二つとはいかないみたいで、外殻に大きな罅を入れるだけに終わった。これで倒せれば良かったんだけど。
「ミザリー! 束縛!」
「『戒めの光よ』『輝く杭の抑圧』!」
ミザリーが再び、大百足を拘束して地面に縫い付ける。ソルの一撃で、かなり弱ったため、今度はすぐに抜け出せない。
「メレ!」
大百足までの直線上から私達が退いたのを確認して、メレがメガホンを構えた。
『わあああああああああああああああああ!!!!』
メレの音の砲撃が大百足を襲う。砲撃が、大百足の外殻の罅をさらに深くさせ、身体中から黒っぽい緑色の血が噴き出た。そこに、中規模の威力に設定した爆弾を投げる。投擲のスキルを持っているおかげで、結構遠くまで投げる事が出来る。投げた爆弾が、大百足の頭の上で爆発する。散々攻撃を受けた大百足は、もう既に、爆発に耐えきれるような耐久力ではなかったようで、その爆発によって頭が吹き飛んだ。しばらく、身体が波打った後、大百足は絶命した。
「よかった……思っていたよりも頑丈だったから、もっと苦戦するかと思ったよ」
これは、本音だ。大百足の硬さを見た時は、少しヤバそうだと思ったんだけど、皆で力を合わせたら、予想外に余裕だった。
「私達の連携も、良い感じになってきたって感じだね」
「まぁ、私とネロは何もしてないけどね」
「にゃ」
ソルの言葉に、シエルとネロが少し落ち込んでいた。今回の戦いで活躍できなかったからだと思う。
「まぁ、そんなときもあるよ。前に戦った時には、私が何も出来なかったし」
「人数が増えると、戦略が増えるのは面白いですね」
メレは、ニコニコとしながらそう言った。ゲームをやったことないメレからしたら、色々な戦いが出来る今が楽しいんだと思う。
「じゃあ、移動を再開しよう。どうせ、この大百足がエリアボスなんだろうし。はぁ……解体が大変そう……」
「あはは……頑張って、ルナちゃん」
あれからも、倒した敵は毎回アキラさんに教わりつつ、解体して皆に渡していた。この大百足もアキラさんに教わって解体しないと。
私達は、月読とプティに乗って移動を再開する。真っ直ぐ森の中を進んで行く。すると、二十分程で、エリアが変わった。その証拠に、私達の目の前がピンク色に染まる。
「うわぁ……」
「すごい……」
ミザリーとソルが声を出して感動している。シエルとメレも声には漏らさないけど、感動していた。私の後ろにいるネロも目を輝かせて、月読の上で立っている。危ないからやめて欲しい……
「一面桜ばかりだね」
「すごい景色にゃ。でも、こんな桜の森の中に、街があるのかにゃ?」
「一応、地図の上ではそうなっているよ。このまま真っ直ぐ行けば着くはずだけど」
地図では分からなかったけど、このエリアは桜の森みたいだ。その中央付近に街があると書いてあるから、真っ直ぐ進んで行けばあるはず。多分だけど。私達は、景色を楽しみつつ先に進んで行った。
「ねぇ、何か変じゃない?」
シエルが、何かに気が付いたみたいでそう言った。
「変って?」
私は、何を言っているのか分からなくて、聞き返した。
「気配感知に何も引っかからなくない? 前みたいに舗装されているところを走っているならまだしも、森の中を突き進んでいるんだよ? そこら辺にいるゾンビが引っかかってもおかしくはないと思うんだけど」
気配感知を持っていないメレ以外が、気配感知に集中する。すると、メレの言った通り、気配を感じなかった。
「本当だ。何も感じない。でも、そんな時もあるんじゃない?」
私が気楽にそう言った瞬間、私にしがみつくネロの力が強くなった。
「どうしたの?」
そう言いながら振り向くと、ネロが脂汗をかいて震えていた。
「ネロ?」
「ヤバイにゃ……」
「え?」
「ヤバイのが来るにゃ!! 右に曲がって速度を上げるにゃ!!」
ネロの言葉に、私とプティが瞬時に反応して、右折して速度を上げた。サイドミラーで背後を確認すると、桜の木々の間から、恐ろしいものが見えた。こっちに移動してくる巨大な骸骨。このエリア全体のボスである餓者髑髏の襲来だ。