134.最初の遺跡!!
改稿しました(2022年5月30日)
それからの一週間は、黄金郷の周辺で情報収集をしつつ、シルヴィアさんとの修行とメアリーさんの古代言語講座に費やした。
黄金郷の周辺の調査では、特に古代兵器と繋がるようなものは無かった。メアリーさんが見つけた挿絵の場所も探しているけど、全く見付からない。挿絵に描いてあった文字は、天界言語なので、もう人が住んでいない可能性の方が高い。
だから、人気のない場所を重点的に探したんだけど、影も形も無かった。元々大した手掛かりもないから、仕方ないけどね。
それと、周辺にいたモンスターは、またゾンビばかりだった。他のモンスターは、見付からなかった。別行動していたソル達も同じくゾンビしか出会わなかったらしい。もう一つ分かったのは、夜になるとゾンビが活性化するということ。活性化すると言っても、攻撃的になると言うだけで、素早く動けるようになるというわけではなかった。そこだけは助かった。
そして、皆で北に向かう土曜日になった。物見櫓にあるベンチで待っていると、ソルがログインしてきた。
「ルナちゃんは、やっぱり早いね」
「まぁ、こればかりは癖だね」
「今日はどこまで行くの?」
「ここから北にある街だよ。エリアボスと戦うのは一回だけ」
「それしか移動出来ないの?」
ソルとしては、早く刀匠の手掛かりがある遙か北の街に行きたいんだと思う。でも、そうもいかない理由がある。
「街と街の距離が、ユートビアとは段違いっていうのと、その街の少し東側に行ったところに一つ目の遺跡があるから」
「確かに、それじゃ無理かぁ……」
「ごめんね。待って貰うことになっちゃって」
「ううん。皆で一緒に行きたいし、全然良いよ」
ソルは、笑ってそう言った。
「それならよかった。ちょうど皆も集まったみたいだし、早速移動しよう」
「そうだね」
私達は、物見櫓の方から来るシエル、メレ、ネロ、ミザリーの姿を見て、ベンチから立ち上がった。
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今まで通り、私とネロ、シエルとソルとメレとミザリーの組み合わせで移動する。黄金郷の北側は、鉱山とは別の山だった。つまり、今、私達は山登りの最中だった。
「本当に山登りも出来るんだね。そのバイク」
ソルは、プティの上から月読で山を登っている私を見てそう言った。
「まぁ、舗装されていない道だから、凄くガタガタするけどね」
「いつもよりもお尻が痛いにゃ」
今、通っている道は、山道で一切舗装されていないので、小石や凹凸が沢山ある。そのせいで、月読に乗っている私達は、細かく上下に揺さぶられていた。
「それより、このまま真っ直ぐで合ってるの?」
シエルが、私の方を振り返ってそう訊いた。
「うん。そのまま真っ直ぐでオッケー。呪術師の村みたいに、秘境って感じじゃないからね」
「それなら良いんだけどさ。全然、頂上に着かないから少し心配になったよ」
シエルの言うとおり、黄金郷の北にある山を登ってから、一時間くらい経っているけど、未だに頂上へと辿り着いていない。
「遠目からも、かなりでかい山だったからね」
「ルナさんの持っている地図は、等高線とか書いてないの?」
「書いてあるけど、かなり大雑把だから、参考になるか分からないよ?」
私は、月読の上から手を伸ばして、ミザリーに地図を渡す。
「本当だ。えっと……うん、周辺の山と比べると、ここが一番高いかな。でも、頂上の範囲は狭いから、すぐに下り坂になると思うよ。ただ、山の頂上が、ちょうど黄金郷と先の街の間ぐらいにあるっていうのが気になるかも」
ミザリーが、地図から山の情報を読み取って、伝えてくれた。私よりも地図を見るのがうまい。
「ってなると、その頂上でエリアボスと戦う可能性が高いね。警戒はしておこう。多分、大狒々よりも強いだろうから」
私がそう言うと、皆が頷いた。それから十分程で山の頂上に着く。すると、私達の目の前にいきなりお婆さんが現れた。本当にいきなり現れたので、急ブレーキも間に合わず、プティが撥ね飛ばしてしまう。
「あっ……やっちゃった……」
これには、さすがのシエルも顔が青ざめていた。私達もいきなりの出来事に呆然としてしまっていると、プティが撥ね飛ばしたお婆さんが、起き上がった。
「ぐ……ぐ……き、貴様等……何故……バレた……」
よくよく見てみると、お婆さんの手にはギラリと輝く包丁が握られていた。実は、このお婆さんこそ、ここのエリアボスである山姥だったのだ。私は、すぐに黒闇天を引き抜く。
「銃技『一斉射撃』」
「ぐあっ……!!」
山姥の身体に十発の銃弾が命中する。先程のプティによる不意打ちのダメージがあるからか、山姥は避ける事も出来なかった。
「リロード術『クイック・リロード』銃技『一斉射撃』」
今度は爆破弾をリロードして、一斉に撃ち出す。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!」
山姥は塵と化した。
「鬼にゃ……」
「えっ? でも、エリアボスだし……」
「まぁ、仕方ないよね。ただ、何だか後味の悪い敵だったね」
「それに、大して強くはないよね? それこそ、ミザリーでも倒せそうだし」
シエルの言うとおり、山姥自体の強さはミザリーでも倒せるくらいだったと思う。強さだけで言えば、エリアボスらしくはない。
「山姥ということは、私達を騙して不意打ちしようとしていたのではないでしょうか?」
「確かに、山姥のお話って、そんな感じだったね。私達は、その山姥に意図せず不意打ちをしてしまったけど」
「まぁ、結果オーライにゃ。このまま次の街まで行くにゃ」
私達は山を降り、次の街まで移動した。街の名前は、松の里。街のあちこちに松が生えているから、それが由来かな。中に入って、ポータルを登録する。
「このまま、近くにある遺跡に向かうって事で大丈夫?」
街に着いたので、遺跡に向かいたいけど、まずは皆の予定を確認する。
「私は大丈夫だよ」
「私も平気」
「大丈夫です」
「大丈夫にゃ」
「私も大丈夫」
全員予定は空いているみたい。私達は、すぐに街を出て、遺跡がある方に向かって移動した。
「遺跡はエリアから出る場所にはないよね?」
「多分ね。結構、街の近くあるから心配はないと思う。一応、メレは鎮静の歌を歌っていて。ここから、ゾンビ以外のモンスターが出る可能性もあるから」
「わかりました」
周囲にゾンビ以外の気配は、あまり感じていないけど、もしもの事を考えて、メレには鎮静の歌を歌っていてもらう。そうして移動を続けていくと、遺跡を発見した。
「ここが遺跡?」
「位置的に考えてね。それらしきものもちゃんとあるし。まぁ、思っていたよりもボロボロだけど」
私達の目の前にある遺跡は、湖のものと違い、かなりボロボロで崩れていた。
「まぁ、これが普通だよね。あの湖の遺跡が綺麗すぎだったってだけで」
湖の遺跡は、水の中に沈んでいたので、地上のものよりも風化が遅かったのかもしれない。
「一応、中に入れるみたい。どうする? 外と中で手分けして探索する?」
「う~ん、そうしようか。ソルとメレとシエルは、外をお願い。ネロとミザリーは、中を手伝って」
私は、皆の戦い方を考えて組み分けした。メレは沈静の歌を歌い続けないとだし、シエルは、プティ達を扱うなら狭いところより広いところの方が良い。二人を守るなら、ソルが適任だ。
私とネロ、ミザリーは、今にも崩れそうな入口から遺跡の中に入る。
「『照らせ』」
ミザリーがそう唱えると、光の球が現れて辺りを照らす。いつもは暗視頼りの探索だけど、ミザリーが出した光のおかげで隅々まで普通に見える。
「ありがとう、ミザリー。さてと、何があるかな……」
通路を進んで行くと、湖の遺跡のように少し広めの部屋に出た。
「特に何もなさそうだけど?」
周りを見回してミザリーがそう言った。そして、ミザリーの言うとおり、ここには壁画もなければ文字もない。ただ、中央に何かを置く台だけはあった。
「この台に秘密があるのかも」
そう思って、台を隈無く調べるけど、特に何の変哲もない台だった。隠しボタンとかがないかとも思ったけど、全く見当たらない。
「何も無い……? でも、ここで行き止まりだし……」
この遺跡は空振りに終わりそうだと考え始めたその時、ネロが奥にある壁を叩きだした。適当に叩いているような感じではなかった。
「ネロ、どうしたの?」
「この辺りから、風が抜けるような音が聞こえるにゃ」
ネロの言葉に私とミザリーは顔を合わせる。すぐに、ネロの傍に移動した。そして、ネロが叩いていた壁に耳を当てる。すると、本当に風が抜けるような音が微かに聞こえた。
「この奥に空間がある?」
「でも、どうやっても開きそうにはないにゃ」
「その答えが台にあるのかも」
私は、再び台を弄ってみるけど、やっぱり、うんともすんとも言わない。
「どうするの? 無理矢理壊す?」
「ううん。出来れば、ちゃんと開けたい。適当に開けたら、罠があるかもしれないし。一度、外に出よう。そっちにヒントがあるのかも」
「分かったにゃ」
私達は、一度遺跡の外に出た。遺跡の外では、ソル達が戦闘した後だった。足元には、痩せこけた人が倒れていた。
「何? こいつら?」
「餓鬼ってモンスター。メレちゃんの沈静の歌でも逃げなかったんだ」
「へぇ~、強い?」
「いや、弱い。ただ、こいつらが持ったものは、燃えるみたいだから、そこだけ注意って感じ」
餓鬼の傍には、焦げた棒が転がっていた。シエルの言うとおりならば、近くにある棒を握ったら燃えたって感じだと思う。
「外の調査は、うまくいかなかった感じ?」
「うん。別れたら、すぐに襲ってきたから。そっちはどうだったの?」
「手掛かりとは言えないけど、隠された空間があるみたいなんだ。中には、開ける方法がなかったから、外を見に来たって感じ」
「あの……これはどうでしょう?」
私達が話していると、周りを見回していたメレが一つの柱を指さした。私は、その柱に近づいていく。その柱には、文字が刻まれていた。
「……うん。これは、黄金言語だ。『……の祝詞を……新月……命の篝火……儀式……生贄…………復活……』?」
柱の一部が擦れたり、崩れたりしていて、その言葉しか読めなかった。
「参考になったにゃ?」
「全然……まぁ、こればかりは、仕方ないけどね。この遺跡に、これ以上の情報はないね。明日は、別の遺跡に行こう」
「そうだね。じゃあ、今日は解散?」
「皆の予定があるならね。私は、もう少し調べてみる。無駄だと思うけど」
「まだ時間はあるし、私も手伝うよ、ルナちゃん」
「ありがとう」
結局、これで解散とはならず、皆で遺跡を隈無く調べた。しかし、新しい情報を見つける事は出来なかった。