130.ジパングの地!!
改稿しました(2022年5月30日)
翌日、私はジパング側の港町に待ち合わせ時間よりも早くログインした。理由は、カエデと早めに合流しておくためだ。一人で待たせるって事は、あまりしたくないから。
「えっと、カエデの泊まっていた宿は、確か向こうだったかな」
カエデが泊まっている宿まで移動していくと、ちょうどカエデが出て来る時だった。
「カエデ!」
「あっ、ルナさん。おはようございます」
「おはよう。どう? ちゃんと休めた?」
「はい。お金を出して頂き、ありがとうございました」
カエデはそう言って、深々と頭を下げた。基本的に礼儀正しい子なのだ。
「別に良いって言ったでしょ? 一日遅れさせたのは、私達の都合なんだから」
「それでもお礼を言わない理由にはなりませんから。他の皆さんは……?」
「まだ待ち合わせ時間じゃないからね。広場で待っていよう」
「はい。分かりました」
私とカエデは、一緒に物見櫓の広場まで移動して、いつも通りベンチで皆を待つ。五分もしないうちに、皆が集まった。移動を開始する前に、ミザリーが仲間になった事を伝えておく。私とミザリーの関係は、前に学校で話していたから、すんなりと受け入れられた。
「回復役が仲間になるのは嬉しいね。今までだったら、大ダメージもらったら回復アイテムが必須だったし。まぁ、私達はあまり大ダメージを負うことはなかったけど。自分の技で気絶したりしているだけだったし」
確かに、ソルの言うとおり、私達が気絶とかしたのは、基本的に自分達の技の反動のせいだった。特に私とソルだけど。それを抜きにしても、回復役がいる安心感は大きい。
「まぁ、そういうことだからお願いね。じゃあ、出発しようか」
「そうですね。でも、どういう組み合わせで移動しますか?」
「私とネロが一緒に移動するよ。私達が一番遊撃に向いているから」
「オッケー。じゃあ、外に出よう」
「?」
私達の会話がよく分からないみたいで、カエデが首を傾げていた。まぁ、普通に聞いたら良く分からないよね。一般の移動方法は、徒歩か馬車だから。それだと組み合わせの話が出て来るはずない。
私達は、街の外に出て、少し先に移動すると月読を取り出し、プティを起こした。
「へ?」
カエデは、ぽかんと口を開けて驚いていた。驚くのも無理はない。だけど、私達は先を急ぐからプティに乗るように促す。
「えっと、大丈夫なんですか?」
「プティの事? 大丈夫だよ。乗っている間は、ソルが支えてくれるから安心して」
「うん。任せて!」
ニコッと笑ってソルが言うと、カエデは少し安心したみたい。プティの上にシエル、ソル、メレ、カエデが乗り、月読に私とネロが乗って移動を開始した。先頭は、カエデが乗ったプティが行く。カエデは、ソルに支えられながら、目的地の方向を指示している。私とネロが乗っている月読は、プティの背後に付けている。
港町の外は、左側が森で右側が平原となっていた。その中央に、軽く舗装された道が続いている。私達はその道を進んでいる。メレが沈静の歌を歌っているので、基本的に襲撃はないと思われる。ここのモンスターが、どのくらいの強さかによるけど。
「ミザリーは、いつ頃合流するにゃ?」
私の後ろでしがみついているネロが訊いてきた。
「えっと……船の移動で、三時間掛かるから、大体四時間前後くらいしたらかな。私が月読で迎えに行けば、早く追いつけるからね」
「なるほどにゃ。それと、敵が近づいているにゃ」
「え? でも、気配感知に反応がないよ?」
ネロの報告を聞いて、気配感知を意識したけど、何も反応がない。嘘を言っている感じではないんだけど。
「私の猫のスキルが感知系のスキルの効果を上昇させているんだと思うにゃ」
「だから、巨大樹の森でも、唐突にどこか行ったんだね」
「あれは、音が聞こえたからにゃ。普段はそうでもないけど、意識するとかなり遠くまで聞こえるにゃ」
「へぇ~って感心している場合じゃなかった! どっち!?」
「向こうにゃ」
「オッケー!」
私は、月読の進路を変えて、左にある森の中に入った。
「ルナさん!?」
後ろから驚いているカエデの声が聞こえたけど、私が答えるって事は出来なから、多分ソル達が説明してくれると思う。少し進んだら、気配感知に反応があった。
「四体と三体か」
「私が四体の方に行くにゃ」
「分かった。気を付けてね」
「にゃ」
ネロが月読から跳び上がって、四体のモンスターがいる方に向かった。私は、三体のモンスターがいる方に向かう。すると、正面に三体の人型のモンスターが現れた。それは、俗に言うゾンビだった。
「普通に倒せるのかな?」
私は、月読に内蔵されている銃でゾンビ達を撃ち抜いていった。銃弾で撃ち抜かれると、ゾンビ達の腕や脚が千切れていった。ただ、それだけだとまだ生きているようだったので、黒闇天で頭を撃ち抜いていった。すると、ようやくゾンビが倒れた。
「ただ傷を与えるだけじゃ倒れないんだ。まぁ、失血死の可能性がないから、当たり前なのかも」
私がそう言ったと同時に、背後からちょっとした衝撃が来た。敵を倒したネロが飛び乗って来たのだ。
「お帰り。敵はゾンビ?」
「そうだったにゃ。頭を切り離すか、潰すかしないと死ななかったにゃ」
「やっぱり? こっちも身体を撃ち抜いたくらいじゃ、死ななかったよ。頭を撃ち抜いて、ようやく倒せたから」
ゾンビは、これまでの敵と違って首を切り離すか、潰すか、撃ち抜くかしないと死なないみたい。身体に攻撃するのは、敵を倒すという意味では無駄だ。
「でも、移動速度は遅かったにゃ。これだとあまり脅威とは思えないにゃ」
「確かにね。カエデが、徒歩での移動を考えていた事にも頷けるよ。ただ、他のゲームみたいに、夜になると凶暴化するのかもしれないね」
「それはあり得るにゃ」
ゾンビの移動速度は人の徒歩よりもかなり遅い。攻撃も鈍そうなので、倒しやすくはあると思う。後は、夜にどうなるのか確かめる必要があるかな。カエデに訊いてみよう。
「てか、ここ日本みたいな場所だと思っていたのに、敵は妖怪じゃなくてゾンビなんだね」
「確かに、河童とか一反木綿とか出てくると思っていたにゃ」
「まぁ、これから出てこないとも限らないけどね。じゃあ、さっさと合流しよう」
「にゃ」
月読を飛ばして、ソル達と合流する。
「どうだった?」
シエルが、そう訊いてきた。
「敵はゾンビだった。動きは緩慢。頭を攻撃しないと倒せない。正直、あれだけなら、沈静の歌無しでも大丈夫そう」
「どうなの、カエデ? 敵はゾンビだけ?」
「ここら辺にいるのは、大体そうです。ただ、今から行く場所の近くには、鎌鼬がいます」
「エリアボスかな。メレはそのままで。鎌鼬に関しては、警戒しておこう。十中八九襲ってくるから」
私がそう言うと、皆が頷いた。
「ネロの感知が頼りだよ」
「任せるにゃ」
そのままカエデの案内で、先へと進んで行った。途中から、道なき道を通ることになったので、走る道が舗装されていない道に変わっていった。ちなみに、カエデによれば舗装された道をそのまま進んでいけば、ジパングの首都に着くみたい。かなり長い間進まないといけないみたいだけど。
このジパングは、ユートピアがある大陸よりも小さい島国だけど、街の間隔は向こうよりも長いみたい。
段々と、私達の周りが森に覆われていった。豊かな土地に近づいているような感じがする。そんな最中、後ろから声が響いた。
「来るにゃ!」
カエデ以外の私達の警戒が一気に強まる。
「ネロ、どこ!?」
「場所が定まらないにゃ! 凄い速度で移動しているみたいにゃ!」
「気配感知がうまく作動していない……敵の場所が転々としてる?」
私達全員困惑していた。ソルが言っている通り、気配感知で感じる敵の位置が転々としている。この気配に翻弄される分、気配遮断よりも厄介かもしれない。
「一旦止まろう! カエデとメレの周囲を囲むよ!」
私の指示に、皆が即座に動いた。月読とプティを止めて、カエデを囲む。戦闘能力の無いカエデを守るための布陣だ。メレも、気配感知のスキルが無い以上、相手の不意打ちを受ける可能性が高い。だから、メレも内側に入れる。
「『着せ替え人形・狼』!」
シエルがガーディの姿を纏う。速度の速い敵なので、対応できるように速度重視のガーディにしたんだと思う。
「ネロ! 感知はどんな感じ!?」
「私達の周りを回っているにゃ!」
大分接近してきたおかげで、ネロの感知には引っかかっているみたい。私には、まだ途切れ途切れの感知になっている。恐らく、ソル達も同じだろう。感知は、ネロ任せにするしかない。
「……ソルにゃ!」
その言葉に反応して、ソルが刀を振う。金属が打ち合うような音が聞こえたが、鎌鼬が倒れることはなかった。
「手応えは!?」
「ないよ! 相手の鎌に当たっただけみたい!」
ネロのおかげで、攻撃を合わせる事は出来るけど、敵を倒すには至れない。
「どうする!? 敵が視認できないなら、倒しようがないよ!」
「鎌鼬なら……もしかしたら風を纏っているのでは?」
「メレちゃんの言うとおりだと思う。鎌鼬と打ち合ったら、風を感じたよ」
「風? 風……なら、煙幕を使おう」
私は、爆発物精製の新しい能力である煙幕爆弾を生み出す。これは、爆発の威力の調整がない代わりに、煙を撒き散らす効果を付加できる。
「皆、準備はいい!?」
皆が頷いたのを確認して、煙幕を生み出す。私達の周り三十メートルを、少し薄めの煙幕が覆う。その煙幕を切り裂くように鎌鼬が動き回っている。
「見えた!」
ガーディを纏ったシエルとネロが、鎌鼬に向かって飛びかかる。二人の爪が、鎌鼬を捉えて斬り裂いた。さっきまでの速度を出せなくなった鎌鼬が落ちてくる。その身体目掛けて、銃弾を撃ち込む。ゾンビと違い、身体に二発程撃ち込むと鎌鼬は動かなくなった。シエルとネロの攻撃が大きかったかな。
「ふぅ……パック・ウルフ・リーダーよりも厄介だったね」
「うん。それに、敵が速すぎると、気配感知がうまく作動しないって事も分かったね。カエデちゃんは大丈夫?」
ソルは、後ろにいるカエデに怪我がないか確認していた。
「大丈夫です。守って頂き、ありがとうございます。いつもは、素通り出来るんですけど……」
「私達を狙っていたはずだから、これからもカエデを襲うって事はないと思うよ。でも、巻き添えを食らうこともあるから、異界人の戦闘には、あまり近づかないようにね」
「は、はい!」
取りあえず、このエリアボスは倒せた。このままカエデの案内で、先に進んで行く。すると、森が開けて、小さな村が見えてきた。
あれが、カエデが住んでいるところみたい。ジパングの最初の目的地に着いた。ただ、私の思考は、別の事で一杯になっていた。
(私、またあの鎌鼬と戦わないといけないんだよね……がんばろ)
これも修行だと割り切って頑張る事にした。