128.新しい仲間(1)!?
改稿しました(2022年5月30日)
途中で、海賊に襲われてしまったけど、私達は無事にジパングの地を踏むことが出来た。桟橋に立つと、船長さんに呼び止められた。
「この度は、ご協力ありがとうございました」
「いえ、私達にとっても危険な問題でしたから。それより、あそこに捕まっていた人は、どうなりますか?」
私が救出した人達がどうなってしまうのか、少し気がかりだった。
「ジパングに住んでいた方々ではなかったので、ユートピアに戻ってから、役所に任せることになるかと」
「そうなんですか。私達は、もう何も出来ないので、後の事は頼みます」
「はい。お任せ下さい」
船長さんとそう話していると、船の上の方から声が聞こえた。そちらに目を向けると、助けた人達が手を振っていた。私達は、皆に向けて手を振り返す。
「ルナ殿」
私は、助けた人達から船長に視線を移す。
「今回、助けられなかった人がいることは知っております。ですが、そのことをお気になさらないでください。これは、仕方のなかったことです。私達と遭遇する何時間も前に、既に亡くなっておられましたので」
「はい。ありがとうございます」
多分、海賊船で亡くなった子供の遺体を見たんだと思う。私が、そのことを気にすると思っていたんだろう。実際、その通りなんだけど。
「では、良い旅を」
「どうも」
船長さんは、敬礼をしてから船の方に戻った。私達も一礼して、港町の方に歩いて行く。
「カエデが案内してくれる場所までは、ここからどのくらい掛かるの?」
「えっと、歩きでしたら三時間程です」
「三時間……う~ん、皆は時間大丈夫?」
ジパングまで三時間くらいの予定だったけど、思わぬ邪魔が入ったせいで、予測よりも二時間オーバーになっている。そのせいで、もう夕方になっていた。
「さすがに、ご飯の時間がなぁ」
「私も同じだよ」
「私もぎりぎりです」
「私は、大丈夫にゃ」
シエル、ソル、メレは、そろそろ落ちないといけない時間みたい。ネロは大丈夫なようだ。
「悪いんだけど、案内は明日にしてもらっても大丈夫? 実は、私達は異界人でね。ちょっと戻らないといけない時間なんだ」
「そうなんですか。でも……えっと……その……実はお金が……」
「それなら、私が出すよ。こっちの都合なんだし。ジパングの貨幣って、ユートピアと同じ?」
「いえ、でも、あっちに両替所があります」
「じゃあ、そこに行こうか。皆、明日は、今日と同じ時間でも大丈夫?」
私がそう訊くと、皆オッケーサインを出した。明日は祝日だから、普通に今日と同じようにログインすることが出来る。
「じゃあ、今日は解散で。ネロは、まだ時間があるんだよね? 少しだけ貰っても良い?」
「大丈夫にゃ」
取りあえず、今日はこれで解散となった。私とカエデ、ネロは、両替所まで移動した。
「取りあえず、二十万くらい変えとこう」
「ひゃっ、二十万!?」
「ルナは、お金持ちにゃ?」
「まぁ、色々とクエスト受けてるしね」
これでも私は、金欠な方なんだけどね。このお金も、修理費や新しい武器とかをアーニャさんが作ってくれたら吹っ飛ぶし。
「二万くらいあったら足りる?」
「お、多すぎます!」
「安全性が高い場所だったら、そのくらい掛かるでしょ?」
「そ、それは、そうですけど……」
「じゃあ、多くないよ。きちんと、安全な宿に泊まること。いいね?」
私がそう言うと、カエデは渋々という風に頷いた。カエデが泊まる場所まで送った後、私とネロは噴水広場的なところまで来た。でも、そこに噴水はなく、物見櫓があるくらいだった。一応、ポータルがそこにあるので、噴水広場と同じ役割だと思う。無事にポータルに登録出来たので、ユートピアまで転移した。
「ユートピアまで戻ってきて、どこに行くにゃ?」
「王城」
「!?」
行き先が王城だと知って、さすがのネロも驚いたみたい。
「お、王城って、そんな簡単に入れるものなのかにゃ!?」
「まぁ、プレイヤーの中だったら、私くらいしか、自由に出入りしないと思うけどね」
一応、ソル達も出入りしているのかな。多分、修行で、何度か行っているけど、中までは行っていないと思う。私は、メアリーさんの古代言語講座があるから、ほぼ毎日通っているけどね。
「ルナは謎にゃ」
「う~ん、ただ単純に、お姫様や国王様と友人になったって、だけなんだけど」
「それ自体が、おかしいにゃ」
「あはは……」
シャル達と知り合って友達になった私は、他のプレイヤーから見たらおかしく見えるみたい。まぁ、どう考えても人脈が異常だから仕方ない。
そんな事を話していたら、私の腕を誰かに掴まれた。
(こんな事、前にもあったような……)
メレとの出会いを思い出しつつ、新たなトラブルの予感が胸を過ぎる。私は、用心しつつ掴んでいる人を確認する。
「あれ?」
そこにいたのは、この前の騒動で二回会ったシスターさんだった。ということは、あのクラスメイトがいるのかも。私は、サッと周りを確認する。
「わ、私一人です。その……えっと……」
シスターさんは、おどおどとしながら何かを話そうとしている。私とシスターさんの奇妙なやり取りに、ネロが首を傾げる。
「気まずい関係にゃ?」
「まぁ、そこそこね。立ち話もなんだし、あっちにカフェがあるから、そこで話そう」
「わ、分かりました」
シスターさんは、何故かすごく緊張している。まぁ、二回も一方的な戦闘をしているし、仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。三人で、カフェまで移動して、席に着きお茶とケーキを頼む。注文したのもが並び終わると、ようやくシスターさんが話し始めた。
「その……あの時はごめんなさい!」
シスターさんは、そう言って頭を下げた。
「いや、別に敵対関係だったんだし、そこまで気にしてないよ。それを謝るために、捕まえたの?」
「い、いえ! あの……」
どうやら、まだ何かしらの用があるみたい。一体何だろうか。
「私も一緒に冒険したいなと思い……まして……」
段々と尻すぼみになりながらそう言った。
「一緒に? でも、あの人達は?」
「抜けてきました。あなたを倒そうとか、色々と言っていたので」
「ああ……まだ、そんな事を言っているんだ」
そういえば、あのクラスメイト達は、教室で睨み付けてきていたような気がする。まさか、これが原因か……
「まぁ、返り討ちにするからいいけど。でも、一緒に冒険か……」
「だ、だめですか?」
「う~ん、私達、今ジパングにいるしなぁ」
「ジ、ジパング……!?」
シスターさんは、見るからに狼狽える。そして、顔を俯かせる。まだ、ネロの事も国王様に相談していないし、シスターさんを仲間にするメリットも分からないし、古代兵器のこともあるしで、色々考えないといけない。
「問題があるにゃ?」
「う~ん、まぁ、ネロと似たようなものだけどね。他にも、ここからジパングに向かうのに、船が必要になるから。私達よりも一足遅れての到着になると思うんだ。そこら辺は、どうにか出来なくはないんだけど」
「じゃあ、大丈夫じゃないのかにゃ? 国王様の元に行くのも、私について話をするためじゃないのにゃ?」
確かに、国王様への報告のために来たから、シスターさんの事もついでに報告すれば良いと言えなくもないんだけど。
「……よし! じゃあ、国王様と話をしに行こうか」
私は、このシスターさんも連れて行くことに決めた。ああいうことがあったけど、この人なら、少し信用出来るとは思う。
「え?」
私が言った言葉にシスターさんは、ぽかんとしていた。
「それで、あなたの名前は?」
「ミザリーです」
「私はルナ、こっちはネロ。ため口で良いよ」
「わ、分かった」
「んじゃ、行こう」
私達は、カフェから出て王城へと向かった。