126.ソル達と海賊の戦い!!
改稿しました(2022年5月30日)
ルナとネロが海賊船に向かっていくのを見送ったソル達は、海賊船が接近してくるまで待機していた。
「何か、海賊達が何人か宙を舞っているんだけど……」
少し先の海賊船で起こっているネロと海賊の戦いを見ていたシエルが、苦笑いになっていた。
「ネロちゃんも派手だね。いや、多分、ルナちゃんに暴れてって頼まれたのかも。ほら、ルナちゃんのスキル構成だと、奥への侵入に向いているから」
「確かに、それはあり得ますね。ただ、船の中だとそこまで隠れる場所がありませんし、今は夜でもありませんから、全く見付からない可能性は低いとも思いますけど……」
「まぁ、ルナなら心配要らないでしょ。並大抵の敵なら相手にならないだろうし。私は、それよりもネロの方が心配かな。多分、かなりの大人数を相手にしているでしょ? あの船の大きさなら沢山収容できるだろうし」
シエルの心配は、ルナよりもネロに向いていた。一対多の戦い程苦しいものはない。特に、人相手の戦いならば尚更だ。その点で言えば、ルナは何度もこなしているので、大丈夫であろうと判断できる。しかし、ネロの戦闘経験は未知数なので、シエルが心配するのも無理は無かった。
「海賊船が最接近します! 皆さん、よろしくお願いします!」
「分かりました」
既に海賊船が、真横付近まで来ていた。甲板にネロの姿がないので、既に船内に入った後のようだ。ネロという嵐が去った今、甲板にいる海賊は、定期船の方に集中できる。もちろん、船内に入り込んだ嵐の心配はあるが。
海賊達はフックを定期船に引っかけていく。それを取り外そうと、船員達が向かうがすぐに海賊が侵入してきた。
「ここは私達だけで大丈夫です! 冒険者の方々は、海賊船内の海賊の殲滅を!」
船員さんの声に頷いて、ソル達が船に飛び移る。そして、すぐにメレが増強の歌を歌う。定期船の上で歌っても良いのだが、仮に定期船から海賊船が離れていってしまえば、歌の効果範囲外になってしまうので、こっちに移動したのだ。
「シエルちゃんはメレちゃんの護衛をお願い!」
「オッケー! プティ! ガーディ! 付近の敵を倒して! それと、メリー!」
シエルはいつも通りプティとガーディを起こす。そして、さらにもう一体の人形を起こした。それは、白い毛をもこもことさせた羊だった。その大きさは大体一メートル前後だ。
メリーと呼ばれた羊の人形は、移動集落にて、作って貰った新しい人形だった。
「メリーは、私達の傍で待機!」
メリーがシエルとメレの前に立つ。
(……後で触らせてもらおう)
目の前にいる海賊を斬り捨てながら、ソルは決心していた。シエル達を守っているメリーに海賊達が襲い掛かる。
「羊人形術『ウール・ガード』!」
メリーが身に纏っている羊毛が増え、海賊達を絡め取っていく。ウール・ガードは、羊毛の強度を跳ね上げさせる効果もある防御術だ。
「な、なんだ!? この羊!?」
「う、動けねぇ!?」
捕まった海賊は、羊毛から脱出する事が出来ず、藻掻けば藻掻く程動けなくなっていった。
「羊人形術『エレキ・ウール』!」
メリーの羊毛が帯電していき、絡まっている海賊を感電させていった。これがメリーの特徴の一つで、何故か羊毛に帯電させる事が出来るのだ。
「メリー! 羊毛で私達を囲って!」
もう一つの特徴は羊毛の増毛が自由自在という事だ。羊毛が、シエルとメレを囲っていく。これで、海賊は容易に二人を攻撃する事が出来なくなった。
「ソル! 私達は大丈夫だから、暴れちゃって!」
「うん! 分かった!」
シエルとメレの安全が完全に確保されたため、少しだけ二人よりに戦っていたソルは、甲板を縦横無尽に駆け回る。
「刀術『繚乱』!」
五つの斬撃が、十人近くの海賊を戦闘不能に追い込む。そんなソルの背後から襲おうとしていた海賊をプティが殴り飛ばす。さらに、その近くでは、ガーディが海賊の喉を噛み千切っていた。
(殲滅は順調に出来そう……ただ、でかい気配が近づいて来てる。もしかしなくても、この海賊達の頭首だよね)
ソルがそう考えた瞬間、船内と船外を隔てる壁が吹き飛ぶ。中から出て来たのは、ネロだった。
「にゃあ……手強いにゃ」
「はっ! 女のくせにやるじゃねぇか!」
ネロに続いて出て来たのは、他の海賊よりも一回り大きい髭面の男だった。他の海賊よりも、豪華な衣装を身に纏い、より頑丈なカトラスを持っている。どこをどう見ても、この海賊達の頭首だ。さらに、その後ろから、新たな海賊達が出て来る。ネロは、頭首と海賊の集団をまとめて相手にしていたのだった。
「ネロちゃん! 大丈夫!?」
ソルが飛び出してきたネロの傍に来た。ソルがネロの状態をサッと見たところ、完全に無傷だった。
「大丈夫にゃ。ただ、あのでかいのが、他の海賊と連携をしてきて厄介にゃ」
「……じゃあ、私が頭首をやるよ。周りの海賊を任せてもいい?」
「にゃ。分かったにゃ」
ソルとネロは頷き合ってから、互いに行動を開始する。ソルは、一足飛びに頭首に突っ込む。
「刀術『一角』」
ソルが突き出した刀を頭首はカトラスで受ける。しかし、ソルの技の威力を完全に受け流すことは出来ず、やや押された。
「さっきの女よりも力は上か。面白い!!」
ソルは、すぐに追撃する。上下左右様々な角度から剣を振い、頭首にぶつけていく。しかし、頭首も弱くは無い。ソルの攻撃を、次々に防いでいった。
「親分!!」
そんなソルと頭首の戦いに、海賊達が割り込もうとした。
「させないにゃ」
海賊達の身体を青白い光の爪が斬り裂いた。
「くそ! 猫擬きが!」
海賊のその言葉に、ネロは青筋を立てる。ネロが生やしている光の爪が、それに呼応したかのように瞬く。
「にゃ~……覚悟するにゃ」
ネロは、目の前に集まっている海賊に向かって駆け出す。
「『キャット・インパクト』!」
爪を突き刺した相手を中心に、猫型の衝撃が撒き散らされる。その衝撃で、海賊達が吹き飛んでいった。ネロは、そこで止まらずに駆け回りつつ、海賊達を斬り裂いていった。
ネロが周囲の海賊を倒していっている間も、ソルと頭首の戦いは続いていた。ソルの連続斬りに対して、頭首もギリギリで反応して防いでいる。剣速においては、ソルの方に分があるようだ。だが、それでも頭首を倒す事は出来ていなかった。
(さすがに、海賊の頭首という事もあってかなり強い。でも、倒せない事はないかな)
ソルは一度強く打ち合った後、距離を取った。
「はっ! これで終わりか!?」
頭首は、ソルが打つ手無しと悟って後退したと勘違いした。当然、そんな事はない。ソルは、刀を鞘へと収める。
「何だ? 降伏か? 今なら、俺のおん──」
「『鳴神』」
激しい雷轟と稲光が辺りに撒き散らされ、それが消える頃には、身体に刀による斬り傷と火傷が刻まれ、白目を剥いた頭首の姿と、その後ろに立つソルの姿があった。ソルの手には、金色の鞘に収められた刀があった。
「ふぅ……」
ソルが息を吐くのと同時に、頭首が倒れた。
「良かった。もう終わったみたいだね」
船内への入口の方から、解放した人達を連れたルナが現れた。ソル達は、その姿を確認すると安堵した表情になった。ルナなら大丈夫だと思っていても、やはり少しだけ心配していたみたいだ。
「誰も怪我せずに終わって良かったですね」
海賊との戦いが完全に終わったので、メレも歌を終えていた。ソルとネロが頭首とその周りにいる海賊と戦っている間に、プティとガーディ、メリーによって他の海賊は全滅していた。
そして、定期船に乗り込んだ海賊は、船員によって捕まっていた。定期船への被害も軽微で済んでいた。完全勝利と言って問題ないだろう。
だが、ルナの心には、少しもやっとした感覚が残っていた。それは、捕まっていた全員を助けることが出来なかったからだった。