125.捕まっている人達の元へ!!
改稿しました(2022年5月30日)
定期船の外に出た私達は、それぞれの得物を確認する。私達の視線の先には、定期船と同じくらい大きな船が迫ってきていた。その帆には、でかでかとドクロマークが付いている。
「なんというか、見るからに海賊船だね」
見たままの感想が口から出る。
「確かに、もう少し目立たない感じにすれば良いのににゃ」
「そんな事言っている場合? てか、その子は誰なの?」
ネロとは、シエルとメレがいないときに知り合ったので、二人ともネロのことを知らない。
「ネロにゃ。この船で、ルナとソルに知り合ったプレイヤーにゃ。よろしくにゃ」
「そうなんですね。私はメレです」
「私はシエル。よろしくね」
二人とネロが友達になった。その間にも向こうの船とこっちの船の距離が縮まってきている。
「もうすぐ海賊船が突っ込んできます! 皆さん気を付けてください!」
船員さんが単眼鏡を覗きながらそう言う。
「……態々、突っ込んでくるまで待つ必要はないよね?」
「へ? ああ、そういうこと」
一瞬、ソルが首を傾げたけど、すぐに納得した。シエル達も同様に納得した顔をする。ネロだけは首を傾げたままだったけど、私がハープーンガンを取り出すと、ああっという顔をした。ネロはハープーンガンを知らないはずだって思ったけど、私がカエデを船に乗せたところを見ていたかもしれない。
「一々戻るのもだるいから、ネロだけ連れて行くよ。ソル達は、あの船が突っ込んできてから、こっちに来て」
「分かったよ」
私は、連係し慣れているソル達では無く、一人で戦い慣れているネロを連れて行くことにした。その理由は、海賊船内をくまなく探索するためだ。船長さん達の話から、ここに奴隷にされるかもしれない人がいるかもしれない事が分かっているので、それぞれで探す方が早いと判断した。
「行くよ、ネロ」
「分かったにゃ」
ネロの腰に手を回して、ハープーンガンを撃ち出す。この前、アーニャさんに頼んで改良を加えて貰った結果、ハープーンを撃ち出せる距離が増加した。私が撃ち出したハープーンが、海賊船のマストに突き刺さる。そして、私とネロの身体を引っ張る。
「おお……」
ハープーンに引っ張られて移動する感覚に驚いている感じだ。メレは、結構怖がっていたんだけど、ネロは全然大丈夫みたい。
「私は、すぐ船内に侵入しようと思う。ネロは、どうする?」
「私も中に入るにゃ。手分けして、船内をくまなく探すにゃ」
ネロは、私がネロを連れてきた理由を完全に理解していたみたい。
「出来れば、ネロは、上で派手に暴れていって欲しいんだけど」
「暴れるにゃ? ああ、なるほどにゃ。手前側は任せて欲しいにゃ」
「ありがとう」
ネロは察する能力が高いみたい。出会ってすぐなのに、私の考えをここまで理解してくれるとは驚きだ。さっき、互いのスキル確認をしたのが大きいかな。私が、奥に潜入しやすいって考えてくれた。そのつもりで、派手に暴れて欲しいって言ったから助かる。
「そろそろ降ろすよ。着地の準備をして」
「了解にゃ」
海賊船の真上に来たところで、ネロの腰に回していた手を離す。定期船を襲う準備をしていた海賊達の真上に、ネロが落下する。ネロは、着地の寸前に、手の甲から青白く輝く光の爪を五本生やした。あれが、ネロの武器みたいだ。道理で、ネロが武器を持っていないわけだ。
「『キャット・インパクト』」
ネロの爪が刺さった場所から、大きな衝撃が広がる。上から見ていて気が付いたけど、その衝撃は猫のような形で広がっていた。辺りに衝撃を撒く便利な技だとは思うけど、衝撃の広がり方が独特なので、少しだけ使いにくいそうだ。でも、使い慣れているネロからしたら、便利なだけなのかも。
ネロは、そのまま甲板の上を駆けていった。その間にすれ違う海賊達は、全て爪の餌食となっていった。
「私も頑張らないと」
ハープーンを抜いて、甲板にある扉の前に着地する。ネロが暴れ回っていることもあって、私の着地に気が付いた海賊はいなかった。すぐに扉の中に入る。すると、目の前に海賊の一人がいた。
「あ!? なん……!?」
海賊の言葉は途中で終わった。それは、私が海賊の頭を撃ち抜いたからだ。息の根を止めた海賊を、近くの部屋の中に入れる。その中にも海賊がいたけど、すぐに頭を撃ち抜いた。
「気配感知のおかげで、敵がいる場所が分かるから、不意打ちとかは大丈夫……気配遮断さえ持ってなければだけど」
海賊達は、近くのタンスに突っ込んで隠しておいた。まぁ、潜入が目的ってわけでもないから、隠す必要はないんだけど、念のため隠しておいた。すぐに部屋の外に出て、廊下を走っていく。途中、部屋の中から出てこようとする海賊がいたけど、喉に黒影を突き刺してから、部屋の中に突き飛ばしておく。そんな風に、敵を倒して進んで行くと後ろで大きな音が響いた。ネロが船内に入ってきたんだ。
下の方にある沢山の気配が動き出した。下に控えていた海賊が上に上がってきているみたい。私は、海賊がいない部屋に入って、上に上がってネロに向かっていく海賊達をやり過ごす。
(下の方にあった敵の気配が薄れたから、少し感知しやすくなった。おかげで、敵じゃない気配が分かる)
船長さん達が危惧していた通り、この海賊船には人が捕まっているみたい。
「早く助け出さないと……」
海賊が通り過ぎたのを確認して、部屋を出る。まっすぐ進んで行くと、下り階段を見つけた。すぐに、階段を駆け下りる。気配で、降りたすぐ先に海賊が一人だけいるという事は分かっているので、そいつの背後を取る。
「体術『衝波』」
海賊の背中に掌底を打ち込む。
「ぐはっ!?」
膝を突いた海賊の首に黒影を突きつける。
「捕まえた人はどこ?」
「なん……ぐううううう?!」
ちゃんと答えないので、肩に黒影を突き刺す。
「しっかりと答えて。捕まえた人はどこ?」
「ぐぐぐぐ……この下の牢屋だ……」
「そう。ありがとう」
答えてくれた海賊の頭を撃ち抜いて、息の根を止める。
「この下にいるのか。早く下り階段を見つけないと」
情報を得る事が出来たので、ここからは大人しくしている必要もない。ただ、ここからは黒闇天を仕舞っておく事にした。段々と船底に近づいているので、穴を開けないようにするためだ。私は、下り階段を探すために駆け出す。
「おい! ここに敵がいるぞ!!」
少し先の方にいる海賊に私の姿を見られた。そのせいで、仲間を呼ばれてしまう。私は、腰に差してあるナイフを取り出して、海賊に投げつける。
「ぐっ!」
海賊はギリギリのところで、腕を前に出して首に当たる事を防いだ。その間に、海賊の近くまで近づいた私は、姿勢を低くして海賊のお腹に黒影を突き刺す。
「ぐふっ!」
「体術『衝波』」
黒影の柄に対して、掌底をぶつけてより深くまで刺す。さらに、そのナイフより伝わる衝撃が、相手の内臓により深いダメージを与える。そのダメージで海賊を倒す事が出来たので、黒影とナイフを回収して駆け出す。すると、正面から多くの海賊が出て来る。同時に、甲板の方にソル達が来る気配を感じた。ようやく定期船の近くに来たみたい。
「上は大丈夫。私は、このまま捕まった人を探そう」
「何ぶつぶつ言っていやがる!?」
「別に、何でもないよ!」
私は、海賊達に向かって突っ込んでいく。そして、腰からナイフを二本抜いて、投げつける。
「ちっ! うぜぇ!!」
ナイフが腕に刺さった海賊は、煩わしそうにナイフを抜こうとする。その影に黒影を投げつける。
「うぐっ」
黒影の効果によって動きを止められた海賊がつんのめる。そこに後ろから走ってきていた海賊がぶつかっていき、足並みが崩れる。そこにつけ込む。まず、黒影によって動きを止められている海賊に近づいた。
「体術『貫手』」
突き出した手刀で、海賊の首を刎ねてしまう。
(うえっ!? 首を刎ねちゃった!? 前はそんな威力なかったのに!?)
シルヴィアさんとの修行の成果が、こんなところで露わになった。体術ばっかりやっていたせいかな。一瞬狼狽えちゃったけど、すぐに我に返り攻撃を続ける。
「体術『二対衝波』」
いつもは片手で撃つ掌底を、両手揃えて一人の海賊に打ち込む。両手で打ち込まれた衝波は、打ち込まれた海賊だけでなく周囲の海賊にも衝撃を伝える。
「ぐあっ!?」
海賊達が通路の奥に押し込まれる。その間に、黒影とナイフを回収する。回収したナイフはすぐに押し込まれた海賊に投げつける。態勢を崩した海賊は、防ぐ事も避ける事も出来ず、喉にナイフが刺さった。二対衝波の衝撃が抜けきらないうちに、再び接近する。
「短剣術『ピアース・エッジ』」
手前にいる海賊の心臓に、黒影を突き刺す。突き刺した黒影の延長線上に白い光が突き抜け、背後にいた海賊二人に刺さる。その二人は、急所から外れているので、それで倒す事は出来なかった。でも、ダメージを与えるだけでも充分。
「舞踏術『幻灯の舞』」
先程ダメージを受けて、より動きが鈍っている方に進む。幻灯の舞は、私の姿を朧気にさせつつ移動する技だ。装備の認識阻害も含めて、私の姿は海賊から認識されにくくなっている。そして、すれ違う海賊の首を黒影で斬っていく。海賊達の後ろに抜けると、海賊は残り五人まで減っていた。
「くそが!」
海賊達が五人一斉に突っ込んでくる。私は、相手にせず下り階段を目指す。
「なっ!? てめぇ! 待ちやがれ!」
後ろから海賊達が追ってくる。
(五人か……普通に戦っても勝てそうかな。少しだけ技は温存しておこう)
この先にある牢屋に、強い相手がいないとも限らないので、ここで五人とも倒す事に決めた。私は急反転して、海賊に突っ込む。そして、瞬く間に海賊五人を倒した。
「ふぅ。早く下に行こう」
下り階段進んで行くと、上二階よりも薄暗い空間に出た。まぁ、私は暗視を持っているから関係ないけどね。
「……」
降りた先を見た私は、言葉失った。なぜなら、そこにはいくつもの牢屋があり、その中に人が捕まっていたからだ。人数は二十人前後くらい。そして、捕まっているのは女性と子供だけだった。
(気配感知で感じているよりも多い……気配遮断を持っている人もいるのかな?)
私は牢屋の一つに近づく。
「ねぇ、大丈夫?」
捕まっている人達が、あまり動かないので、声を掛ける。すると、中にいた子供達が壁際まで下がっていった。
「あっ、大丈夫だよ。私は海賊じゃないから」
私がそう言うと、子供達は恐る恐るこっちを見てくれた。薄汚れた感じの子もいれば、まだ綺麗な子もいる。一気に捕まえてきたとかではないみたい。
「皆を助けに来たんだ。扉を開けるけど、まだ外には出ないで。海賊がいなくなったわけじゃないから」
私は牢屋全体にそう声を掛けると、子供達がこくりと頷く。鍵が見当たらないので、黒闇天で鍵の部分を壊して開けていく。皆、さっきの約束通り、この部屋に留まったままでいてくれた。
「あの子達は……」
まだ牢屋の中で横になっている子供がいたので、近くの女性にそう声を掛けると、女性は無言で首を振った。
「そう……」
何人かの子供は、もうダメみたい。私は、首を振って意識を切り替える。
「私が先導するから、皆付いてきて」
私は、捕まっていた皆を上まで案内していく。私達が外に出る頃、ちょうど上の戦いも終わるところだった。