123.ジパングへの船旅!!
改稿しました(2022年5月30日)
翌日、私は港町の噴水広場にいた。ソル達との待ち合わせをしているからだ。待ち合わせ時間よりも早めにログインしたので、少しだけ待ち時間がある。その間に、港町の周辺の地図を見ていた。
(この港町は、西と北にしか陸地がないんだ。大陸の中で一番出っ張っている場所なのかな。ここから北は平地だけが広がって、次の街に繋がっているんだ。それ以上北に行ったら、雪国みたいになっているのかな? 南に砂漠が広がっている以上、地球の北半球みたいに考えておいた方が、動きやすいかも?)
そんな風に考えていると、ソル達がログインしてきた。
「それ、ここの地図?」
私が見ているものを見て、シエルがそう訊いた。
「そうだよ。ここに売っていたんだけど、ジパングの地図は手に入らなかったんだ。こればかりは、現地じゃないといけないみたい。後、船の数も限られているから、早く定期船の方に向かおう」
「そうなんだ。分かった。ここには転移で来られるし、探索は今度でもいいしね」
私達は、昨日見つけておいた定期船の小屋に向かう。そこで、船のチケットを買い、定期船へと乗り込んだ。
「帆船みたいですが、蒸気船のようなものはないんでしょうか?」
「潜水艦だと魔力エンジンみたいなのを使ってたよ。多分、帆の部分は予備の動力みたいな感じなんじゃない?」
メレとシエルが、船を観察してそんな事を話していた。
(あの潜水艦って、そんな動力が使われてたんだ。初めて知った)
シエルとソルは、船大工のマイルズさんから話を聞いていたから知っているんだろう。私は、そのときミリアを助けていたから知らなかった。
「もう出発みたいだね」
「うん。無事にジパングに向かう事が出来て良かったよ。いつもなら、この間に騒動があってもおかしくないし……」
「この前の騒動から、トラブル自体起こってないし、珍しいといえば珍しいのかな?」
「まぁ、そんなトラブルが頻繁に起こっても困るんだけどね。本当に」
ソルとそんな事を話していると、船が動き出した。
「問題なく出発して良かった」
「最近、ルナちゃんも自分のトラブル体質を自覚してきたね」
「不本意ながらね」
ユートピア・ワールドをやり始めて、立て続けにトラブルに巻き込まれていたら、嫌でも自覚する。本当にトラブルがないときの方が少ないもんね。
船が陸から離れ始めたとき、陸の方から大声が響く。
「待って~~!! 乗せて~~!!」
桟橋の上で、巫女服を着た女の子が手を振って走っている。どうやら、出航時間に間に合わなかったみたいだ。待ってと言われても、船を止める事は出来ない。出航時間は決まっているわけだから、それに間に合うように行動しなかったあの子が悪いという事になる。
「ちょっと、行って来る」
「ル、ルナちゃん!?」
私は船から飛び降りて、ハープーンガン取り出して桟橋に引っ掛けて、身体を引っ張り、桟橋に着地する。
「えっ!? えっ!?」
「船に乗りたいんでしょ? 口を閉じておかないと舌噛むよ」
「へ!? えええええええええええええ!!?」
巫女服の女の子の腰を抱えて、ハープーンを船の欄干に引っ掛け、引き戻す。船の床に降り、女の子を降ろす。
「ふぅ……上手くいって良かった」
「上手くいかない可能性もあったの?」
「いや、それはない……と思う。さすがに、ハープーンガンの取り扱いには慣れているし」
「え!? へ!? どうして!?」
女の子は、床で女の子座りになって目を白黒させていた。
「船に乗りたかったんでしょ? 何か見ていられなかったから、連れてきてあげたんだよ。余計なお世話だったかな?」
あんなに叫んでいたから、余程、この船に乗りたいと思ったんだけど。
「い、いえ! ありがとうございます!」
女の子は床に座ったまま、頭を下げた。傍から見たら、土下座しているようにしか見えない。すぐに頭を上げてって言おうとしたら、背後で何かが着地する音が聞こえた。私は、黒闇天を握って後ろ振り向く。急に背後を取られたから、敵かと思って、すぐに黒闇天を取ってしまった。革命派との戦いで、そういうものに敏感になったのかもしれない。気配感知に反応がなかったのも要因の一つかも。
そんな感じで黒闇天を構えたんだけど、すぐにそれを降ろすことになった。それは、相手が味方だったからとかそういう理由じゃない。突然現れたその少女のシルエットに、人間ではあり得ないものが付いているからだ。そう。それは……
「猫耳……?」
その少女から、猫耳と猫の尻尾が生えていた。自分の理解を超えたものを見たら、人は固まってしまうものなんだと実感した。私同様、ソルと女の子も固まっていた。すると、猫耳少女が口を開いた。
「美少女に土下座させてるにゃ……」
「違う! 違う! させてるわけじゃないよ! お礼を言われてるだけだよ! てか、ちょっと待って! 色々と処理が追いつかなくなるから!」
巫女服の女の子の話を聞こうとしたら、今度は猫耳少女も現れて、土下座をさせていると勘違いされて、色々と起こりすぎ。
「取りあえず、君は立って」
まずは、巫女服の女の子を立たせる。
「えっと……自己紹介からやろう。私の名前は、ルナ。こっちは、ソル。あなた達は?」
「わ、私は、カエデです!」
「ネロにゃ」
カエデは、茶髪を背中まで伸ばした茶眼の少女。私達よりも背が低いし、年下だと思う。ネロの方は黒髪黒眼黒耳黒尻尾の少女だ。こっちも私達よりも年下だと思う。
「ネロはどこから来たの? 上のマストからじゃないよね?」
「桟橋から飛んできたにゃ。まだ離れてない段階で助かったにゃ」
ネロも乗り遅れたみたい。てか、飛び乗れたって事は、ステータスがかなり高いはず。見た感じだと、そこまで強いって雰囲気はないけど、人は見かけによらないよね。そんな風に思っていると、ネロが私の耳に口を近づける。
「私も同じプレイヤーにゃ。そこまで怪しまなくても大丈夫にゃ」
ネロはそれだけ言うと、船内に入っていった。警戒していた事がバレバレだったみたい。まぁ、黒闇天を持っている時点でそう思うよね。ネロがいなくなったので、私とソルは、カエデの方に視線を向けた。
「カエデは、ちゃんと時間を見ないとダメだよ。キャンセル料とか掛かるかもしれないんだから」
「は、はい。すみません。本当にありがとうございました!」
「うん。気を付けてね」
カエデは、最後に一礼してから、船内に入っていった。
「何というか、すごい子達だったね」
「カエデはジパングに住んでいる子だけど、ネロはプレイヤーらしいよ」
「へぇ~、でもなんで猫耳が付いているんだろう? そんな設定できなかったよね?」
「う~ん、新しく設定できるようになったのかな?」
元々のキャラ設定で、猫耳とかのオプションパーツみたいなものは付けられなかったはず。なので、ネロが付けている猫耳と猫尻尾に、違和感を覚えたのだ。
「アクセサリーならあり得るんだけど、ネロちゃんのあれは、何だか生身みたいだったもん」
「うん。時々ピクピク動いていたし、尻尾も振っていたしね。特殊な装備かスキルかな?」
「仲良くなれたら、訊いてみるのも良いかもだね。ジパングまでは、どのくらい掛かるの?」
「大体三時間くらいだって。もしかしたら、海上戦闘のイベントが起こるかもね。一応、油断せずにいよう。ところで、シエルとメレは?」
私とソルは、甲板を見回して二人の姿を探す。しかし、二人の姿はどこにもない。
「会話に入ってこないから、おかしいと思えば、二人ともどこに行ったんだろう?」
「船の中を探索してるんじゃない? 私達も船内に入ろう」
「そうだね」
私とソルも船内へと入っていった。船内は、意外と広い構造をしていた。いくつもの部屋があるので、本来はもっと多くの人を収容できるようになっている感じだ。
「私達の部屋も割り当てられているんだよね?」
「うん。四人部屋があてがわれているよ。もしかして、二人とも先に部屋の方に行っているのかも」
「そっち方が可能性は高いね」
私達は、扉に刻まれている番号を見ながら、自分達の部屋を探す。
「あった。ここだ」
部屋を見つけたので、中に入る。すると、さっき話していた通り、シエルとメレの姿があった。
「やっぱり先に来てた」
「遅かったね。何かあったの?」
「まぁ、少しね。船の中は探索した?」
「ううん。探索した方が良いかな?」
シエルがそう訊く。
「う~ん、正直別にする必要はないと思うけど。じゃあ、ジパングまでの三時間ゆっくりしてようか。何か起こるかもだけど」
「ゲームでありがちなイベントね。そういうこともあり得るんだ。でも、私とソルは何も出来なくない? ルナとメレに任せるしかないよ?」
シエルの言葉に、私はあっという顔になった。海から来るモンスターなんて、遠距離攻撃持ちしか出来ないよね。
「何で、私達のパーティーって魔法使いがいないんだろう?」
「全員、ユニーク持ちだからじゃない?」
「その時点で、色々とおかしい気もするけどね。ところで、メレちゃんは、ずっと外見ていて楽しいの?」
ソルが窓に張り付いているメレにそう訊いた。メレは、私が入ってくる前から窓に張り付いていたみたい。
「はい。すごく速いことが分かりますし、何だか見たことないモンスターが見えるんですよ」
「モンスター?」
私は、襲われたら嫌だなと思いつつ、メレが覗いている窓に近づいて外を見る。ソルやシエルも同じように窓の外を見に来た。そして、三人揃って唖然としてしまった。なぜなら、メレが言っていたモンスターが、超巨大な海蛇みたいだったからだ。
「あれって、リヴァイアサンみたいなヤバいやつじゃないよね?」
「いや……むしろ、それしかあり得ないんじゃない? こっちに向かってきていなさそうだから、そこまで敵意が強いわけじゃないんだろうけど」
「あれとどうやって戦うんだろう? 私の刀じゃ、小さな傷しか付けられないだろうし」
「…………戦わないのが一番だね」
私がそう言うと、ソルとシエルはこくりと頷いた。
「そんなすごいモンスターだったんですね」
メレだけは、いつもと変わらなかった。まぁ、あまりゲームやっていなかったみたいだし、ピンとはこないよね。そんな風に外の景色も楽しみながら、ジパングへの船旅は続く。