119.出立前の話し合い!!
改稿しました(2022年5月30日)
アーニャさんとアイナちゃんと王都で再会してから、五日が経った。
その間に、シルヴィアさんから修行を受けた。今回の修行は、銃を一切使わずに体術と黒影のみの戦闘だった。おかげで、接近戦に関わってくるスキルのレベルが上がった。まぁ、何度も気絶したから、気絶耐性も上がっているんだけどね。
ソル達とは修行の時間が合わなくて、あまり一緒に出来なかったから、どこまで強くなっているのか分からない。次に会うときに、どのくらい強くなっているのか楽しみだ。ちなみに、イベントの報酬についても、次にユートピア・ワールドで冒険をする時に、見せることが出来るタイミングで見せるという事になった。それぞれ皆をびっくりさせたいと思ったからだ。多分、私の月読が一番びっくりされると思うけど。
それと、この間にメアリーさんにジパングで使われた古代言語である『黄金言語』を習い始めた。黄金都市で使われていたから、黄金言語って呼んでいるみたい。向こうの古代兵器を調べるのに、絶対に必要になるかもしれないから、教えてくれるのは有り難かった。
そして、今日は皆で集まってジパング方面に向かう日だ。私は、先にログインして国王様やシャル達に会っていた。
「今日、出立するのであったな」
「はい。時間がある時に、ジパングまでの道を繋いでおきたいので」
平日よりも休日の方が移動時間を長く出来るので、ジパングまで向かうのは休日にしようとソル達と決めた。
「修行は続けるという方向で良いのじゃな」
「はい。転移ポータルを使えば、街から王都に戻る事は出来ますので、強くなれる修行は、続けていきたいと思っています」
「うむ。こっちも、レオグラスとシルヴィアがいる限り、いつでも歓迎できるようにしておく」
「ありがとうございます」
私達がジパングに向かった後も修行を続けられるのは、かなり有り難い。シルヴィアさん達との修行は、確実に強くなれる方法の一つだ。モンスターと戦うよりも安全に強くなれるしね。
「それとは別に、一つ提案があるのじゃが」
「提案ですか?」
提案と言われても、あまりピンとこない。一体、何の提案なんだろう。
「うむ。王都に屋敷を持ってみる気はないかのう?」
「屋敷……ですか?」
「実は、諸々の罪でイルランテが処刑されて、王都にあった別荘が空き家になったんだよね。だから、その屋敷をルナが貰わないかって事」
私が戸惑っていると、シャルがそう付け足してくれた。つまり、王都に屋敷が余っているから、貰い手を探しているって事だと思う。そのままだと、土地が勿体ないって事でもあるのかな。
「でも、私は、ずっとこっちの世界にいるわけじゃないし、家を持っても維持出来ないと思うけど」
「それなら大丈夫。屋敷を管理してくれるメイドを用意しておいたから。それも、ルナの知り合いらしい子をね」
「私の知り合い……らしい? どういう事?」
シャルの言い方だと、私がよく知っている人というわけでは無さそう。ということは、爵位授与式の時にメイクなどをしてくれたリマリーさんではないだろう。
シャルは、近くのメイドさんに合図をした。すると、メイドさんが近くの扉を開けた。中に入って来たのは、確かに私の知っている人だった。でも、会ったのはたった一度きり、イルランテ卿の屋敷の中でだ。
「あの時のメイドさん?」
「は、はい!」
国王様やシャル、メアリーさん、アリスちゃんがいるからか、メイドさんは凄く緊張していた。
「彼女は、元々イルランテのところで雇われていたから、時々別荘の仕事もしていたみたいなの。だから、その屋敷の管理もある程度は出来るはずよ。とはいえ、一人だと厳しいだろうから、通いのメイドを何人か派遣する事になるかもだけどね」
メアリーさんがそう言うと、メイドさんは首が取れんばかりに頷いた。
「でも、私よりも屋敷を欲している人がいるんじゃないですか?」
「いや、事が事だったからのう。あの屋敷を手にしたいと考える者はいないんじゃよ。その点、ルナは今回の事件の解決した張本人だからのう。屋敷を得ていてもおかしくはないのじゃ。褒美として、イルランテの別荘を与えても、誰も文句は言わんよ」
反旗を翻した人の屋敷だから、あまり住みたいと思う人はいないって事なのかな。まぁ、なんか縁起が悪そうとかそういった感じだと思う。
(う~ん、どうしよう……さすがに屋敷を貰ったところで、活用できる気がしないし、断るのが一番だと思うけど)
そんな風に考えて悩んでいると、国王様が咳払いをしてから話し始める。
「実を言うと、この案を出したのはアリスでのう。お主の帰る場所を王都に作りたいと考えたみたいなんじゃ」
国王様の言葉を聞いて、アリスちゃんの方を見る。
「そうなの?」
アリスちゃんに問いかけると、アリスちゃんはこくりと頷いた。
「今のままだと、ルナお姉ちゃんが遠くに行って帰ってこないと思ったんです。だから、ここにお家を持てば、絶対に帰ってくるかもしれないって」
アリスちゃんは、恥ずかしそうに目線を逸らしながらそう言った。確かに、他に拠点とする場所を見つけたら、王都に来る回数は減ると思う。アリスちゃんは、それを危惧しているみたい。
「う~ん……分かりました。一応、貰っておく事にします」
「うむ、分かった。では、中の掃除から初めて貰うとしよう。マイア、頼むぞ」
「は、はい! か、かしこまりました!」
国王様に指示されて、メイドさんが返事をする。メイドさんの名前はマイアさんと言うみたいだ。
「お願いします」
私もマイアさんに一礼してお願いする。すると、マイアさんは、ぱあっと笑顔になって頷いた。
「はい! 任せてください!」
マイアさんはそう言うと、深くお辞儀をして部屋を出て行った。
「今日は、もう出立するのであろう? 屋敷を見るのは後日にするといい」
「分かりました。では、失礼します」
「そこまで見送るよ」
「私も行きます!」
「じゃあ、私も」
シャルが見送りに来てくれると言うと、アリスちゃんとメアリーさんも立ち上がった。私達が部屋の外に出ると、後ろからシルヴィアさんもついてきた。五人で王城の通路を歩いて行く。外に出た瞬間から、アリスちゃんが私の手を取ったので、手を握って歩いている。すると、何故かシャルが反対側の手を取ってきた。そのため、私は今二人の間に挟まって移動している。
「まずは、イーストリアに向かうんだっけ?」
私の手を取ったままのシャルがそう訊いてきた。
「そうだよ。東に向かうからね。そこからさらに東に行って、港からジパングに船で渡るって道のりだったかな」
「イーストリアは、少しだけ治安が悪化しているみたいだから、気を付けてね。今は、騎士団が対応してくれたから、前と変わらなくなっているはずだけど」
メアリーさんが、イーストリアの現状についてそう教えてくれた。あんなことがあった後じゃ、治安が一時的に悪くなっても仕方ないのかな。まぁ、そうなった原因の私が言うことじゃないと思うけど。
「黄金言語は、ほぼ読めるようになってるから、ジパングでも情報収集は出来ると思うよ。ただ、向こうの人達は気難しい部分もあるから、色々と気を付けてね」
「気難しいですか?」
「そう。確か、向こうにある宗教関係で、色々な決まりがある地域があるから。前に外交で行った時に、そういう話を聞いたの」
ジパング探索は、少し慎重に行った方が良いかもしれない。色々と面倒くさい事になるかもしれないしね。
「あの……」
私がメアリーさんやシャルと話していると、小さくそんな声が聞こえた。私のすぐ傍で聞こえたその声は、アリスちゃんのものだ。
「どうしたの?」
「もしで良いのですが、向こうに動物の図鑑があったら……」
アリスちゃんは、そこで少し言い淀んだ。多分だけど、ちょっと遠慮しているのかもしれない。
「動物の図鑑が欲しいんだね。向こうにあったら、お土産で買ってきてあげるよ」
私がそう言うと、アリスちゃんは満面の笑みになった。
「ありがとうございます!」
「うん。シャル達にも何か良いものがあったら、お土産で買ってくるね」
「ありがとう」
「出来れば、古代言語の本が良いかな」
メアリーさんはちゃっかりと自分の要求を伝えてきた。まぁ、それなら最初から渡すつもりでいたから良いけどね。
そんな風に話をしていると、王城の出口まで着いた。
「では、行ってきますね」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
私は、シャル達に手を振って別れる。ここから、ジパングへの旅の始まりだ。