118.王都に来た理由!!
改稿しました(2022年5月30日)
唐突に王都に現れたアーニャさんとアイナちゃんの二人に混乱していると、アーニャさんが思わずという風に吹きだした。
「ぷっ……ふふふふ。凄く驚いているわね。色々訊きたいこともあるでしょうけど、それは場所を移動してからにしましょう」
「は、はい」
私は、先に進んで行くアーニャさんの後を追っていく。横には、アイナちゃんが並んだ。
「ルナちゃん、大活躍だったみたいだね。王都の中で、噂が流れていたよ。異界人で初の爵位持ちだって?」
「えっ……噂で流れてるの……? 全然気にしたことなかったよ」
「さすがに、貴族になったら噂になるわよ。貴族が増える事なんて、そうそう無いことのはずだもの」
つまり、爵位を貰える程の功績を挙げた人が少ないということかな。私の前に爵位を貰った人はシルヴィアさんらしく、その前は何十年も昔の人みたいなので正しいという事になる。
「さてと、ここからは路地裏に入るわよ。しっかりとついてきてね」
「はい。分かりました」
ヘルメスの館があった場所のような路地裏に入っていく。
「そういえば、どこに向かっているんですか?」
アーニャさんは、迷いなく移動をつづけているので、確実に目的地があっての移動のはず。でも、どこに向かっているのか全く分からない。
「内緒よ。でも、きっと驚くと思うわ」
「?」
アーニャさんの言葉に首を傾げる。
(驚くってどういうことなんだろう? 何か珍しいものでもあるのかな?)
さっきとは別の意味で混乱していると、アーニャさんとアイナちゃんの二人が笑う。結局目的地の分からないまま、一分ほど歩いていくと目的地が見えてきた。
「え? 何で……?」
私は目の前に見えたものに、思わずそう呟いた。だって、それはそこにあるはずがないものだから。呆然とした私を見て、アーニャさんとアイナちゃんにやにやと笑う。
「どうして、ここにヘルメスの館があるんですか!?」
そう。何故か、ユートリアにあるはずのヘルメスの館が王都の路地裏に存在したのだ。しかも、ユートリアにあるヘルメスの館そのままの姿だ。
「びっくりした? ようこそ、ヘルメスの館本店へ」
アーニャさんがそう言って、ヘルメスの館に入っていった。私も後を追って中に入る。中もユートリアにあるヘルメスの館と同じ間取りだった。
「……中も全く同じなんですね?」
「そうね。全く同じものだから」
「???」
よく分からない返事に、また首を傾げる事になってしまう。
「アーニャ様、少し言葉足らずですよ。それでは、ルナちゃんを混乱させてしまいますよ」
「ああ、それもそうね」
「? どういうことですか?」
「簡単な事よ。ルナちゃんがユートリアで通っていたヘルメスの館と、ここ王都にあるヘルメスの館は、全くの同一のものなのよ」
「へ?」
理解は出来る。出来るんだけど、やっぱり疑問に思ってしまう。今いるこの場所が、ユートリアでも通っていたヘルメスの館って、どういうことなんだろうか。
「私が最後に出入りしたヘルメスの館の扉が、ここに通じる扉になるって事よ。だから、今、ユートリアの扉を開けても、ここには来られないわ。何も無い空き家に通じるだけよ」
「そ、そうなんですか……でも、なんでそんな風にしているんですか?」
便利と言えば便利だと思うけど、何故そんな事をしているのか分からない。
「色々と本業以外にする事があってね。どこでも同じ作業を出来るようにしたかったのよ」
「本業以外に? それってやっぱり……」
「そうね。秘密よ。まだ話せないわ」
やっぱり秘密だった。アーニャさんに秘密があることは知っているから、特に問い詰めるような事はしない。
「でも、なんで王都に?」
「さっきの疑問ね。私達が王都に来たのは、ユートリアでの予定が全部終わったからね」
アーニャさんはそう言いながら、いつもの席に座る。私も同じように席に座った。アイナちゃんは、カウンターでいつも通りお茶とケーキを用意してくれる。
「短い時間で結構な修羅場をくぐり抜けてきたみたいね。武具のメンテナンスをしておいた方が良さそうよ」
アーニャさんは、私の夜烏と黒羽織を見て、そう言った。結構、色々な戦闘を経てきたので、消耗している。
「それも頼もうと思っていたんです。お願いします」
私はササッと着替えて、武具一式をアーニャさんに手渡す。
「黒闇天も消耗しているけど、夜烏と黒羽織の方が、かなり消耗しているわね。明日には直しておくわ」
「ありがとうございます」
このタイミングで、アイナちゃんがお茶とケーキを持ってきてくれる。
「ルナちゃんは、これからどうするの? どこかに行くの?」
「うん。王都でシルヴィアさん達から修行を受けて、ジパングの方に向かうんだ。いつ頃ジパングに行くかは分からないんだけどね」
「ジパングに?」
これには、アイナちゃんよりもアーニャさんが食いついた。
「はい。そこに古代兵器の情報が眠っている可能性があるので」
「……なるほどね。それなら、しっかりと準備した方が良いわね。黒闇天の方には改良を加えておきましょう。韋駄天も持っているって事は、ルナちゃんものになっているのよね?」
「そうですね。国王様から頂きました」
韋駄天も一緒に渡したから、アーニャさんは、少し驚いていたけど、すぐに察してくれた。
「使いやすさはどう?」
「普通に扱うことは出来ます。反動が黒闇天と違うので、そこら辺が難しいですが」
韋駄天は、黒闇天よりも反動の感じが違う。連発の反動と単発の反動の違いなのかな。
「まぁ、銃の種類も違うからね。ルナちゃんならすぐに慣れるわよ。こっちも強化しておくわ」
「ありがとうございます」
「後は……敵の強さが、こことは違うから、それも気を付けた方が良いわね。別の危険で言えば、火山が危ないわね。あそこは今も活動しているからね」
「へぇ~、そうなんですね。古代兵器がそこら辺にないと良いんですけど」
ジパングに火山があるのは知らなかった。出来れば、古代兵器に関わっていないと良いんだけど、私がこう思ったら嫌な方向で的中しちゃうんだよね。当たらないで欲しいけど。
「そうだ。アーニャさんってバイクの調子を見る事出来ますか?」
「バイクは……ちょっと専門外ね」
「そうですか……」
月読が傷付いた時とかに見てもらおうと思っていたけど、さすがにアーニャさんでも、バイクは扱っていなかった。
(てか、バイクって、こっちの世界でも通じるんだ……)
自分でバイクって言ってから、この世界に本当に存在するのかって思ったけど、杞憂だった。でも、絶対ユートピアの中にはないから、ディストピアにある感じなのかな。
(月読の整備……どうしよう……)
月読の整備について考えていると、アーニャさんが口を開く。
「でも、アイナなら見る事が出来るわよ」
「へ?」
まさかの言葉に、アイナちゃんを見る。
「うん。一応見れるけど……」
アイナちゃんは頷きながらそう言った。アイナちゃんがバイクを見る事が出来るなんて驚きだ。
「じゃあ、壊れちゃったら、アイナちゃんにお願いしても良い?」
「うん。でも、先にどんなものか見せて貰っても良い? どういう仕組みだとかを知っておかないといけないし」
「良いけど、どこに出せばいい?」
月読は大型なので、さすがに店中に出すわけにはいかない。
「じゃあ、裏の工房で出すと良いわ。使ってないスペースがあるから。ついてきて」
アーニャさんについていって、ヘルメスの館の奥に向かう。初めて、ヘルネスの館の奥に入った。今まではカフェスペースにしか用がなかったから、当たり前だけどね。
中は、色々な器具が置かれていた。机の上には沢山の資料が散らばっており、一部の床にも落ちていた。
「また散らかして……きちんと片付けてくださいね!」
「わ、分かってるわよ」
アイナちゃんが工房の状態を見て、アーニャさんを叱ると、アーニャさんは視線を逸らしてそう言った。片付けは苦手みたい。
「それよりも、そっちのスペースを使って良いから」
アーニャさんが指さした方には、少し広めのスペースが空いていた。所々に器具が置いてあるから、何かしらが置いてあったのかもしれない。私は、そのスペースに、月読を取り出して置く。
「結構格好いいデザインね。初めて見るわ」
「そうですね。動力は……内蔵型の魔力炉?」
「うん。そうだよ」
アイナちゃんは、月読を軽く見ただけで動力を見抜いた。本当にバイクを見る事が出来るみたいだ。
「…………」
アイナちゃんは真剣に月読を見ていく。私とアーニャさんは、邪魔をしないように、その様子を黙って見ていた。
「うん」
アイナちゃんは一つ頷いて、私の方を見た。
「大丈夫そう。汎用パーツが結構あるし、形さえ保っていれば修復する事は出来るはずだよ」
「本当!? 良かった。それなら、安心して乗れるよ」
アイナちゃんが月読の状態を見てくれるなら、有り難い。壊れる事を気にせず……は言い過ぎだけど、ビクビクと運転はしなくて良さそう。
「でも、安全運転は心掛けてよ。危ない運転や悪路でも、普通に走れるようなバイクみたいだけど、壊れないわけじゃないんだから」
「うん。分かってる」
「ルナちゃん、色々と無茶するからなぁ」
「あははは……」
否定できなくて空笑いしか出来ない。
「さぁ、そろそろお茶に戻るわよ。積もる話もあるだろうしね」
「そうですね。アイナちゃん行こう」
「うん」
私達は、いつも通りお茶をしながら楽しくお喋りをした。やっぱり、ヘルメスの館でのお茶は楽しい!!




