117.イベントの報酬!!
改稿しました(2022年5月30日)
翌日。私は、日向と一緒に登校していた。
「修行……滅茶苦茶辛いよ……」
昨日の修行がどうだったか訊こうと思っていたら、日向の方から話し始めた。
「まぁ、修行だしね。昨日はどんなことをしたの?」
「ひたすら走ってたよ。全力でずっと、ずっと、ずーーっと走ってた」
「それだけ?」
「それだけって言うけど、本当に辛かったんだよ? ずっと、もっと速くって言われ続けたんだもん」
ため息交じりに日向がそう言った。確かに、そう言われ続けたら辛いかも。
「まぁ、実際もっと速く走れちゃったんだけど」
「そうなの? ああ、そうか。スキルレベルの上昇か」
「そういうこと。私は、素早く移動して斬るってプレイスタイルだから、まずは足の速さを鍛えるって事みたい。修行終わりに説明してくれた」
「修行終わりに説明するのは遅いね。でも、自分でしっかりと考える力を付ける事は重要なのかな。まぁ、今度からはシルヴィアさんとの修行になるみたいだから、別の地獄が味わえるよ」
サムズアップしつつ日向にそう言うと、珍しく絶望したような表情になった。
「シルヴィアさんの修行って、そんなに辛い?」
「え? う~ん、どうだろう? 私は、修行時間の半分ぐらいを気絶しているからなぁ。起きている時はかなり辛いけど」
「……さくちゃん、ちゃんと修行できているの?」
「うぐっ……で、出来てるよ……多分……」
確かに、そう言われてみると、私はちゃんと修行できているのか怪しく思える。でも、ちゃんとスキルレベルも上がっているし、大丈夫なはず……そう信じたい。
「大空と舞歌はどうだったんだろう?」
取りあえず、気を取り直して日向に訊いてみた。一緒の場所で修行しているはずだから、日向も少しは見ているはず。
「う~ん、二人に直接訊いた方が良いかも。ちゃんとレオグラス殿下から説明も受けていたみたいだから」
修行の意図も含めて訊いた方が良いって事かな。
「分かった。そういえば、今日は、とうとう優勝報酬が配られる日だよ」
「そうだった。どんなスキルが貰えるか楽しみだね。いや、スキルとは限らないんだっけ?」
「そうだよ。日向の場合、業物の刀とかかもしれないよ」
「え~……ジパングでも作って貰う気でいたんだけどなぁ」
日向は、ジパングにいるかもしれない刀匠に刀を打ってもらうつもりでいた。アーニャさんも本格的な刀は、専門の人に作って貰った方が良いって言っていたし、ずっとそのつもりだったのだろう。
「まぁ、二刀流みたいなスキルが手に入るかもしれないからいいじゃん。私なんて、何がもらえるか全く検討がつかないんだから」
「確かに、さくちゃんのスキル構成って、よく分からないもんね。暗殺系か銃系ってところかな? 体術系統もありそうだけど」
「何でも良いから、当たりのものが欲しい……」
私達は、そんな風に話ながら学校まで歩いていった。そして、教室に入ってからは、大空と舞歌も会話に加わる。私は、早速昨日の修行に付いて質問する。
「昨日の修行はどうだった?」
「ひたすら筋トレしてた」
「私は、叫びの強弱をつけられるようにしていました」
「舞歌の方は分かるけど、大空は何でそんな事になったの?」
舞歌の叫びが威力調整できるようになれば、かなり強いから、レオグラス殿下の意図も分かるんだけど、大空の方は全く分からなかった。何故、筋トレなのだろう。
「取りあえず、自分でも敵に抵抗できるくらいには力をつけておけだって」
「まぁ、プティ達と一緒に戦えたら、戦いの幅が広がるよね」
「でも、あまり筋力が上がったって感じはしないんだよね。どのくらい意味があるんだろう?」
「いや、筋トレなんだから、すぐに効果は出ないでしょ。続けていったら、どうなるかって感じじゃない?」
現実での筋トレもすぐに効果が出るわけじゃないし、ゲーム内でも同じだとしたら、大空の修行は長期的なものになるのかな。まぁ、いきなり大空がムキムキになったら嫌だしそうなることを祈るしかないかな。
そんなこんなで授業の時間になったので、この話はここで終わった。
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学校が終わり、私達はそれぞれ帰宅した。私は、いくつかの家事をこなして、夕食を食べてからユートピア・ワールドにログインした。すると、すぐにウィンドウが現れる。
『第二回イベント優勝者報酬の授与
プレイヤー:ルナ様 報酬:ユニークアイテム 魔力炉内蔵型多機能バイク『月読』』
ウィンドウにはそう書かれていた。予定通り、イベントの報酬が配られたみたい。ただ、一つだけ疑問があった。
「これは……武具ではないんじゃ……てか、バイクって。まぁ、銃がある時点であれだけど。そもそも、私ってバイクに乗れるのかな……?」
バイクを手に入れたのは良いけど、乗れる自信がない。現実でも一度も運転したことないし。まずは、これに乗れるかを確かめに一度外に出る事にした。
(念のため、街から少し離れた場所にしておくかな)
私は、王都から離れた場所に来た。気配感知には、モンスターの反応しかないので、周りには誰もいないはず。
「よし。早速出してみよう」
私は、手に入れた月読を実体化させる。現れたのは、真っ黒に塗装された大型のバイクだった。無骨な印象はなく、流線型となっている。見るからに速そうだ。
「これ、本当に私でも運転できるのかな……?」
報酬を見てから、ずっと抱き続けていた不安が大きくなるのを感じた。
「いや、頑張って運転できるようになろう! まずは、説明書を読もう」
私は、月読に付属された説明書を手に取る。中身は、そのまま月読の運転の仕方だった。しっかりと読んでいくと、ある事が分かった。
「うん。やることが多くて難しそう」
ギアやらクラッチやらと動かすタイミングが難しいと感じたのだ。初めてバイクに乗るんだし、こう思っても仕方ないよね。
「なんとなくのやり方自体は分かったから、取りあえず動かしてみよう。何事も実践あるのみ!!」
私は説明書をアイテム欄に仕舞って、月読に跨がる。
「オートバランサー機能があるみたいだから、盛大に転ぶことはないと信じよう。えっと、エンジンを掛けて……」
説明書で見たボタンを押して、エンジンを掛ける。すると、すぐにエンジン音がする。
「クラッチを握って、ギアを一速に入れる。ここでアクセルを捻って、クラッチをゆっくり離す……」
恐る恐る操作していくと、月読がゆっくりと進み始める。
「おお……進んだ……」
そこからギアを少し進めて、走る速さを上げていく。初めて運転するけど、何とか操れる。まっすぐ進んだり、曲がったり、止まったり、再発進したりと色々と試していった。
「ふぅ……何とか運転は出来る。問題はエンストとニュートラルってやつかな。エンストは、クラッチの操作が上達すればいいとして、ニュートラルに綺麗に戻すには慣れが必要な感じかな」
取りあえず、運転自体に問題はなかった。それから、一時間程月読を運転する練習を続けた。その結果、『騎乗Lv1』のスキルを手に入れた。おかげで、少しだけ運転がやりやすくなった。とはいえ、運転技術が格段に上がったというわけではない。
「練習は欠かさないようにした方が良さそう。でも、大分扱えるようになった。これなら、皆と一緒に移動するときにも使えそう。後は、運転以外の機能も使いこなせるように頑張らないと」
ある程度練習を済ませた私は、王都へと戻った。今日は、久しぶりにヘルメスの館に顔を出そうと思っている。ここ最近、別の事で忙しすぎて全然顔を出せていないからだ。
「アーニャさんとアイナちゃん、元気かな?」
「うん。元気だよ」
「うわっ!?」
いきなり背後から声がしたので、驚いて背後を振り返る。すると、目の前にアイナちゃんとアーニャさんの姿があった。
(ここは王都なのに、なんで二人がいるんだろう?)
二人はユートリアのヘルメスの館にいるはずだ。それなのに、二人の姿は、王都にあった。