114.これからの予定!!
改稿しました(2021年12月21日)
貴族達をどう躱すか考えていると、不意に周りの貴族達がざわめき出した。どうしたのだろうと思い、貴族達の目線の先を辿る。すると、そこには、少し不機嫌なシャルの姿があった。
「シャル?」
「ルナこっち」
シャルは、私の手を引いて階段の方に向かう。シルヴィアさんも私達の後ろに付いてくる。貴族の人達は、それを呆然と見送っていた。
「どうしたの、シャル?」
「全く、あんなに貴族達に囲まれたら、迷惑だったでしょ。さすがに、シルヴィアも貴族に強く言うことは出来ないから、追い払うことも出来ないし。ダンスをしていた時は、うまく考えたなって思ったけど、逆効果だったみたいだし。レオグラス兄様に許可を貰って降りてきたの」
私が踊っているところを上から見ていたみたい。そのままさっきの状況も見て、駆けつけてくれたみたい。
「そうなんだ。ありがとう、助かったよ。さすがに、シルヴィアさん以外の人と踊れる気がしなかったから」
「だと思った。上から見てても、少しぎこちなかったもん。シルヴィアに助けられているなぁって思ってた」
シャルから見てもあまり上手く見えなかったみたい。それは、多分貴族の人達も同じだろうけど、シルヴィアさんが出来るんだから、自分達も出来ると思ったのかな。私がシルヴィアさんと踊れたのは、シルヴィアさんがリードしてくれていたというのもあるけど、それ以上に、シルヴィアさんとの修行の日々があったからだ。諸々の信頼関係が無ければ、満足に踊ることも出来なかったと思う。
「でも、私が二階に上がっても良いの?」
シャルに連れられて二階へと上がっているけど、さっきのシルヴィアさんの話から判断するに、二階に行っても良いのは王族の関係者だけだ。だから、シルヴィアさんに上がる権利はあっても、私に上がる権利は無いんじゃないかと思った。
「大丈夫だよ。私が自分で連れて行くんだし。もし心配なら、私が渡した指輪を付けておくと良いよ。多分、周りの貴族がギョッとすると思うけど」
確かに、今日貴族になったばかりの新参者が、王族の指輪を持っていたらびっくりするだろう。王城の外から来た貴族なら尚更だ。あれは、宴の会場では付けてこない方が良いと思う。
「面倒くさい事になりそうだからやめておく」
「そうだね。ルナは、トラブルを引き寄せやすいから」
もう周りの認識では、私はトラブルを引き寄せやすい体質って事になっているみたい。まぁ、いい加減私も自覚し始めてはいるけど。
「……シャルに呼ばれて上に上がる事で、トラブルが起きないかな?」
「それは平気。ルナが私と仲が良いのは、王城内じゃ有名な話だし。王城内に勤務している大臣とかが、地方貴族とかに教えると思うよ。全体的に広まったら、指輪をしても問題ないと思う」
「なら、良いけど」
そんな事を話しながら移動していく。シャルに連れられて来た場所には、国王様、メアリーさん、アリスちゃん、レオグラス殿下ともう一人、女性がいた。
「ルナは、会うのは初めてじゃのう。王妃のカタリナじゃ」
「お初にお目にかかります、カタリナ・ファラ・ユートピアです」
「初めまして、ルナです」
王妃様はシャル達と違って、赤めの茶髪をしていた。とても優しそうな人だ。シャル達の容姿は、国王様譲りみたい。
「ほら、ここに座って」
シャルに促されるがまま、ソファに座る。私の隣には、シャルが座った。シルヴィアさんは、私の後ろで立っている。いつものポジションみたいだ。
「まずは、爵位授与おめでとう。改めて、この前はすまなかったな」
座ると同時に、レオグラス殿下が謝罪をしてくる。
「いえ、不用意に近づいた私も悪いですから、お気になさらないでください」
「そう言って貰えると助かる」
「あら、ルナさんは、レオグラスとも知り合っていたのですね?」
王妃様が意外そうな顔でそう言った。
「そうですね。ついこの間の騒動の時に知り合いました」
「そうだったのですね。あの時は、お力をお貸し頂きありがとうございました」
「いえ、私もこの王都を守りたかっただけなので。そんな頭を下げないでください」
ここの王族の人達は、簡単に頭を下げすぎな気がする。もう少し、王族らしくふんぞり返っても良いんじゃないかな。そう思いつつも、これがこの人達の良いところなのかもしれないとも感じていた。
「そうだ。ルナちゃんから預かっている天界言語の本だけど、少しだけ手掛かりを見つけたよ」
「本当ですか!?」
メアリーさんからの突然の報告に驚いて目を見開いてしまう。とうとう天界言語解読への糸口が見えてきたのかも。
「ルナちゃんが黒騎士の住処から持ってきた本の一つにジパングのものと思わしき、挿絵を見つけたの。念のため、ジパングについての本を確かめてみたけど、その挿絵に似ている絵を見つけたんだ。十中八九、ジパングの事を言っているんだと思う。まだ、言語の解読までは至っていないけど、ジパングって文字だけは分かったような気がするんだ」
「ジパング……黄金都市ですか?」
「そうだよ。ここから東、イーストリアの更に東にある島国。多分、そこに何かしらの手掛かりがあると思う」
ジパング。多分、日本みたいな島国なのかな。現実でも、日本のような島国をジパングと呼んだみたいな事を習った気がする。
「じゃあ、そこに向かう事にします。他に、何か手掛かりはありますか?」
「それだけだね。ただ、ジパングも結構多いから、手掛かりを探すのは時間が掛かるよ」
「それでも、探さないといけない。そんな気がするんです。まだ、色々な真実が眠っている可能性が……」
「ルナ?」
言葉を途中で途切れさせた私に、シャルが首を傾げる。
「あの、メアリーさん。何故、ジパングという文字が分かったんですか?」
そう。例え、本の中に頻出するような文字があっても、それが本当にジパングの事を言っているかなんて判別出来ないはずだ。ジパングのことを語るときに、何度もジパングという文字を使うかどうかは分からない。
「挿絵に描いてある文字が、本に書かれていたんだ。挿絵は、街の看板みたいな場所だったかな。でもね、似ているだけで、細部が異なっているんだ。今度、執務室に来て、それを見せるから」
「分かりました。国王様、もしかしたら、ジパングの古代兵器の情報かもしれません」
「なんじゃと!?」
国王様は、驚いて腰を上げた。
「あの黒騎士が残したものに書いてあって、尚且つ天界言語だった。天界言語は、古代兵器について回っています。アトランティスとアルカディア。そのどちらも天界言語が関わっていました。メアリーさんが見つけた挿絵に天界言語が書かれていたということは、それも古代兵器絡みの可能性が高いかと」
「ふむ……ジパングは、この国の外。儂らの権力は届かん。サポートは出来ん」
「はい、分かっています」
今までは、国王様やシャル達のサポートのおかげで、かなり動きやすかった。でも、向こうではそうもいかなくなるかもしれない。
「じゃが、準備は手伝うことが出来るじゃろう。出発は、もう少し後にするといい。ルナの友人達も一緒に向かうのであろう?」
「恐らくは」
「なら、少し鍛えていかぬか? ルナも情報をもう少し集めたいじゃろう?」
「う~ん、そうですね。ソル達にも伝えておきます。でも、誰が鍛えてくれるんですか?」
ソル達もかなり強いプレイヤーだ。だから、並の人じゃ鍛えることは難しいと思う。
「俺とシルヴィアでやろう」
レオグラス殿下がそう言った。
「シルヴィアもそれでいいか?」
「はい。構いません」
「では、お願いします」
「うむ。レオグラスも、一ヶ月はここにいる予定じゃ。友人達には、王城に来る様に伝えておいておくれ。後は、他に何かあるかのう?」
国王様は、私に訊く。私は、他に気になる事などがないか、少し考え込む。すると、ある事柄が浮かんできた。
「ええっと……そうだ、メアリーさんは、泳ぐことは出来ますか?」
「へ? 一応泳げるけど」
「メアリーさんに渡した本があった場所に行きましょう。あそこの壁にも色々と書かれていました。もしかしたら、情報を手に入れられるかもしれません」
「なるほど……」
そう。レイク・クラーケンを倒した後に見つけた遺跡。あれが、何か鍵を握っている可能性がある。
「うむ。それなら、シルヴィアも一緒に連れて行くと良い。それならば、メアリーゼも外出が可能じゃ。いつ行く?」
「明日にでも」
「では、メアリーゼとシルヴィアも、その準備をしておくのじゃ」
「分かりました」
「かしこまりました」
「さて、この話は、ここまでにして、宴を楽しむとしよう」
国王様がそう言った瞬間、大人しくしていたアリスちゃんが私の膝に飛び乗った。
「ルナお姉ちゃん、お話ししましょう?」
「いいよ。何を話そうか」
それから、宴は続いて行く。私は、シャルやメアリーさん、アリスちゃん、国王様、王妃様、レオグラス殿下、シルヴィアさんと楽しく談笑していった。そこに、ミリアを連れたリリさんも合流した。ミリアは、生きた心地がしなかっただろう。それでも宴は、平和に終わる。何のトラブルも起きずに……