112.爵位授与式!!
改稿しました(2021年12月20日)
爵位を受け取る式を行う日。式に行く前に待機している部屋の中で、私はガチガチに緊張していた。今の私の格好は普段の真っ黒コーディネートではなく、薄水色ドレスを着ている。シンプルなドレスじゃ無くて、綺麗な装飾が付いているけど、派手さはない。ただ、こんな綺麗な服装は着たことがないので、ちょっと恥ずかしい。
「よくお似合いです。では、髪もやってしまいますね」
「は、はい」
私の衣装と髪を整えてくれるのは、シルヴィアさんとは違うメイドさんだ。王城に通う内に仲良くなったため、今回の衣装と化粧を担当してくれている。比較的早く仲良くなった理由に、年齢が近いっていう事もある。名前は、リマリーさんという。
「お綺麗な髪ですね。飾り付けがいがあります」
「そうですか? 自分ではよく分からないですけど……」
「このままの状態で放っておいたのは勿体ないと思います。少しでも、結ってみるのは如何でしょうか?」
「う~ん……」
リマリーさんの意見に、少し悩む。これまで、ほとんど戦い続きだったので、そういうことに無頓着だった。現実でも無頓着ではあるけど。こっちでの私は、戦闘することが多いだろうし、あまり気を遣うことはないと思う。
「面倒くさいですし、このままで良いです」
「そうですか。もし、やってみたくなったら、私に言って下さいね。すぐにやってあげますから」
「分かりました。その時になったら、お願いしますね」
そんな事を話している内に、髪を結い終わった。リマリーさんが結ってくれたのは、シニヨンと呼ばれる髪型だ。結構早く結ってるのに、バランスが取れていて雑な部分は一切無かった。そこに、髪飾りを付けていく。
「これで、完成です。やっぱり、良くお似合いですよ」
「ありがとうございます。ふぅ……」
「緊張なさっているのですか?」
「はい。大分緊張しています。シルヴィアさんから、色々な作法を習いましたけど、ちゃんと出来るかどうか」
現実ならこういう式で緊張はあまりしないんだけど、今回は何故か緊張してしまう。
(う~ん……いつもは、ソルとか友達がいたからかな?)
ソル達も呼びたかったけど、参列資格を持つのは爵位を持っている人だけらしい。ソル達は持っていないから無理だ。その代わり、ミリアは参列資格を持っているので、見に来ると言っていた。出来れば一緒にいて欲しいけど、見る事しか出来ないみたい。
「ルナさんでも緊張するんですね」
「私をなんだと思っているんですか?」
「だって、国王陛下や姫様とあんなに仲良くなさっているではありませんか。私でしたら、それだけ緊張してしまいますよ」
「シャル達は友達ですし、そうなったら緊張はあまりしないですよ。こういう失敗しちゃいけない場という方が緊張しちゃいます」
私がそう言うと、リマリーさんは苦笑いをする。この辺りの考え方は、私の方がおかしいのかも。でも、友達相手に緊張し続けるなんて事ないから、仕方ないよね。
「でも、一応、シルヴィア様が傍に付いているんですよね?」
「はい。側付きの騎士代わりだそうです。貴族になるので、一応格好だけでも付けておかないといけないみたいで」
「シルヴィア様の時も同じだったって話を聞いた事があります」
「一代貴族になるには、そういう伝手も必要って事ですね」
「そうかもしれないですね。髪飾りも終わりです。最後に、化粧を施しますよ」
「はい」
リマリーさんは、テキパキと化粧を施してくれる。あまり動いちゃいけないと思って、化粧を施されている間は喋ることが出来なかった。鏡の中で、私の顔が少しずつ変わっていく。
「これで終わりです! 元々可愛らしかったのが、綺麗に変わりましたね」
「凄いですね。自分じゃ無いみたいです」
化粧は薄めだった。ナチュラルメイク?って感じなのかな。普段化粧をしないからよく分からないけど。
「飾り付けがいがありました。素材が良さ過ぎると、台無しにしないか心配でしたけど、上手くいって良かったです」
「そうなんですか? リマリーさんなら、誰でも綺麗に出来るのかと思いましたけど。私ですら、こんな綺麗に出来るんですし」
「私は、まだまだですよ。姫様達の担当者は、もっと凄いです。私が出来る程度の化粧は、ものの数分でパッと仕上げてしまいますから」
私からしたら、リマリーさんの腕もかなり高いように思える。普通、着せ替え、結髪、髪飾り、化粧まで、三十分で完璧に終わらせる人はそうそういないと思う。そんな事思っていると、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
ノックの主は、シルヴィアさんだった。シルヴィアさんは、私の姿を見ると、一瞬だけ止まって驚いた顔をしたけど、すぐに平静のまま近づいた。
「お綺麗になられましたね」
「リマリーさんが、完璧に仕上げてくれました」
私は立ち上がって、シルヴィアさんに見せるように、その場でくるくると回転する。
「いつもと印象が変わりますね。誰が見ても貴族だと思われますよ」
「全部借り物ですけどね。シルヴィアさんも、いつもと違う服装ですね」
そう。シルヴィアさんの格好もいつものメイド服ではなかった。黒を基調としたきっちりとしている服装で、スカートではなくズボンになっている。男装の麗人という感じだ。綺麗でいて格好いい。
「今日の私は、ルナ様の騎士ですから。そろそろお時間になります。移動しましょう」
「は、はい」
シルヴィアさんが部屋の外に出る。私もリマリーさんに一礼してから、シルヴィアさんの後を追って出て行った。シルヴィアさんの先導で会場に向かっていく。
「緊張なさっているのですか?」
シルヴィアさんの目から見ても、明らかに緊張しているように見えたみたい。
「は、はい。ちゃんと出来るか分からなくて……」
「大丈夫ですよ。お教えしたとおりにやれば大丈夫です」
シルヴィアさんは、そう言いながら私と歩調を合わせて隣に並ぶ。そして、何も言わずに、私の手を取ってくれた。
「謁見の間まで、こうしています。ですので、ゆっくり落ち着いてください」
「は、はい」
別の意味でも高鳴りそうな心臓を落ち着かせる。シルヴィアさんは、ニコッと笑って前を向いた。化粧とは別の理由で、少しだけ顔を赤くさせながら、私も前を向いて歩いていく。十分ほど歩いていくと、謁見の間の扉の前に辿り着いた。そこに着くと、シルヴィアさんは手を解いて私の前に出る。
「準備はよろしいですか?」
「……は、はい!!」
「では、行きます」
シルヴィアさんが門の前にいる人達に目配せをすると、その人達が謁見の間の扉を開ける。私は、シルヴィアさんの先導の元、謁見の間へと足を踏み入れた。
「!!」
中に足を踏み入れて、すぐに私達に視線が集中した。入口から見えるだけでも、ずらっと大臣さん達が並んでいた。さらに、その後ろに貴族の方々が並んでいる。その数は、かなり多い。これだとミリアを探すのは無理だと思う。まぁ、そもそもそっちの方に顔を向けること自体ダメだから、最初から探せないけど。小さく深呼吸してからまっすぐ前を向いて、でも目線だけは少し伏しがちにしながら、謁見の間を歩いていく。こうして歩いている間に、国王様を視界に入れてはいけないのだ。
少し歩いたところで、シルヴィアさんが脚を止める。私は、その斜め一歩後ろで立ち止まる。そして、シルヴィアさんが片膝を突いて頭を垂れるのに、少し遅れて私も両膝を突いて、頭を垂れる。ここら辺は、私の服装や役割の違いらしい。
「面を上げよ」
いつもとは違う重々しい声で、国王様がそう言った。私は、ゆっくりと顔を上げていく。この時、シルヴィアさんは伏したままだった。シルヴィアさんは、私の側付きという体でいるので、シルヴィアさんは顔を上げる事が出来ないのだ。顔を上げた私は、まっすぐに国王様の目を見る。ここで、目線を外してしまうとやましいことがあると自白している事に等しい。
「此度の働き、そして、これまでの働き、誠に大義であった。褒賞として、其方に男爵位を与える。一代に限り、貴族と名乗ることを許そう」
「恐悦至極に存じます」
軽く頭を下げつつ感謝の意を伝える。
「紋章を持って参れ!」
国王様がそう言うと、控えていた親衛隊の人がトレイのようなものにネックレスのようなものを載せて歩いてきた。同時に、国王様が玉座から降りて、こちらに向かってくる。私は、軽く頭を下げたままにする。国王様が、ネックレスを手に取り、私の首に掛けた。
「貴族として恥をさらすような真似はせぬように。常に、貴族としての誇りを胸に抱き続けよ」
「はっ!!」
国王様と親衛隊の人が元の位置に戻っていく。二人が戻った直後、シルヴィアさんが立ち上がり、私の傍に来て手を差し伸べる。私は、シルヴィアさんの手を取ってゆっくりと立ち上がる。そして、国王様を視界に入れないように、一礼してからシルヴィアさんの後に続いて、謁見の間から退場した。
爵位を得る式は、これだけ。たったこれだけ?と思われるかもしれないけど、この間で、他の大臣さんや貴族の方々と眼を合わせてはいけないし、国王様の顔を必要以上に見てはいけない。これらをやらかすと、貴族として相応しくないと思われてしまう可能性がある。そして、それは私に爵位を与える国王様への不敬にも繋がってしまうのだ。
取りあえず、今回の式は乗り切った。ただ、この後もやることがある。それは、この騒ぎの解決を祝う宴だ。この宴は貴族の位を持つ人しか参加出来ない。その代わり、この宴の期間は街の至る所で、お酒が振る舞われるようだ。これは、国王様の意向によって決まった事だ。今回の騒動では、王都の民にも迷惑を掛けたので、その詫びというわけだ。
「宴までは、まだ時間があります。待機室で待っていましょう」
「宴がまだということは、まだ式の続きがあるということですか?」
「はい。今回の騒動で活躍したのは、ルナ様だけではありませんので、他の方々にも褒賞を与える事になっています」
「シルヴィアさんもですか?」
「私は、ほとんど何もしていないので何もありません。リリウムやレオグラス殿下が対象になるでしょう」
言われてみれば、シルヴィアさんはシャル達の傍にずっといたから、何も出来なかったはず。唯一やったのは、国王様を襲った刺客の排除だけだった。それだけでも、十分な働きだけど、褒賞には届かなかったみたい。
「それとルナ様は、これから休憩をしつつお着替えです」
「ふぇ!?」
「そのままの格好でも良いのですが、もう少し動きやすいドレスになってもらいます」
「動きやすい?」
式の後に宴があって、それに参加するということは知っていたけど、その他の事は聞いていない。まさか、ダンスをする事になるんじゃ!? そんな風に思っていると、シルヴィアさんが小さく笑った。
「一応、ダンスホールでやりますが、踊る事はないと思います。そこまで詰め込むことは出来ませんでしたし、いきなり誘いを受ける事は、あまり無いでしょう。ルナ様は、王城内で知られているとはいえ、元々は部外者でしたから」
「親睦を深めるという意味合いで、誘われるということは?」
「……ありそうですね。その時は、私と踊りましょう。それでなんとか分かって貰えれば良いのですが」
シルヴィアさんと踊って、ダンスが苦手だという事が知られれば、誘われる可能性が減るかもしれないって事かな。確かに、効果があるかどうか分からないけど、やらないよりマシかも。
「ただ、動きやすいドレスに着替えて貰うのは、これが理由ではありませんよ」
「あっ、そうですよね。ダンスをする予定はなかったわけですし。でも、そうしたら、なんで動きやすいドレスに?」
「この宴の間で、色々と動き回ることになるかもしれないからです。ルナ様からお話を訊きたいと思う貴族の方々がいるかもしれません。特に同じ場所にずっといると、すぐに集まってきてしまいますからね。少しずつ移動しておいた方が良いです。あまり動き回りすぎるのもダメですが」
「色々と難しいですね」
「はい。ですが、この宴でも私が一緒にいますので、何かあればお申し付け下さい」
今日は、ずっとシルヴィアさんが一緒にいてくれるみたい。心強さが半端じゃない。ただ、少し気になる事がある。
「今日は、シャルに付いていなくても良いんですか?」
そう。シルヴィアさんは、シャルの側付きなので、私とずっと一緒にいて不都合は無いのかと思ったのだ。
「はい。これも姫様からのお申し付けですから。それに、姫様方の傍には、レオグラス殿下が付くご予定です。護衛という面で言えば、かなり心強いでしょう」
「それなら、安心ですね」
レオグラス殿下の強さは、シルヴィアさんと近いと思う。戦乙女騎士団と並ぶ最強の騎士団を率いているしね。それなら、普通に安心出来るわけだ。そんな話をしている内に、待機室に着いた。
「私は、所用で外します。宴の時間が近づいた頃にお迎えに来ますので、お待ちください」
「分かりました」
シルヴィアさんと別れて、待機室の中に入る。中には、リマリーさんが残っていた。
「式は無事に終わったようですね。では、次のドレスを決めていきましょう」
リマリーさんは、鼻息荒く沢山ドレスが掛かったハンガーラック持ってきた。これから、私は、一番合うドレスを見つけるために、一時的に着せ替え人形になる。少しだけ疲れそうだ……