108.王城内での戦闘(2)!!
改稿しました(2021年12月17日)
吉祥天を硬く握って、目の前にいる敵に向かって駆けだしていく。確実に敵なのに、黒闇天を使わない理由は、相手の蘇りを防ぐためだ。ゾンビアタックなんてされたら、面倒くさくてたまったものじゃないからね。
「お前! 宵町だな!?」
敵の一人が急に私に向かって叫んだ。ということは、あれは、私に絡んできたクラスメイトで確定だ。周りにいる五人もそうなのかもしれない。私の名前が出た事で、全員がビクッと反応していた。
「……ったく、現実の名前を出すのは、マナー違反でしょ」
思わずぼやいてしまう。相手の言うことをガン無視して駆けていく。私と会話をする気でいたのか、向こうは、私が接近してきてからようやく剣を抜いて構えた。
「銃技『複数射撃』」
問答無用で放った麻酔弾が、六人の敵に向かって飛んでいく。
「うぐっ……」
「あがっ……」
「く……」
六人のうち、三人に命中し眠らせることが出来た。他の三人はギリギリで逃げる事に成功したみたい。本当に邪魔だ。早く眠ってくれないかな。
「てめぇ!! よくも!!」
「うるさいな……」
クラスメイトらしき男が剣を持って迫ってくる。私は、腰に差していたナイフを投げる。そのナイフも剣で弾かれた。
「銃技『一斉射撃』」
マガジンに残っていた四発の弾を、敵の一人に撃ち込む。さすがに、四発動時に撃たれたら、対応することが出来なかったのか、眠りについた。
「くそが!!」
もう一人のクラスメイトらしき敵が剣を振う。その剣が身体に到達する前に、その懐に潜り込む。
「んなっ!?」
「体術『衝波』」
敵の鳩尾に向かって掌底を打ち込む。勢いよく突き出されたためか、手首の半ばまで身体に埋まった。敵は呼吸が出来なくなり、膝を突く。その間に、もう一人の敵が、剣を突き出してくる。その剣の軌道を黒影で逸らす。そして、その首元に麻酔弾を撃ち込む。これで、五人の敵を無効化した。一人は、その五人を手早く縛っていく。
「くそ……」
最後の一人は、ようやく息をする事が出来たみたい。顔を真っ赤にしている。手放した剣を、また握ろうとしていたので、麻酔弾を首に撃ち込んだ。
「作戦を吐かせた方が良かったかな? でも、私に素直に話すことはないだろうし、完全に縛っておこう。はぁ、また向こうで絡んでくるんだろうなぁ」
これで、気配感知に反応した敵は全て倒し終えた。でも、他の敵を炙り出す事が出来ない。気配遮断を突破する感知が必要になる。でも、そんなに都合良くスキルを得ることは出来ないかな。
「さてと、取りあえず、こいつらも今までと同じように吊しておこう」
この敵達も窓の外に吊していく。高さは、王城の三階。落ちれば上手く着地しない限り、重傷もしくは死に繋がるはずだ。
「侵入したのは、全員プレイヤー。本当の作戦を教えられている可能性は、低いかな。でも、一応聞いた方が良いかも」
私はクラスメイト避けて、プレイヤーを起こす。それは、あのクラスメイトの仲間だ。シスター服を着ている。あの時トラウマになったって子だと思う。というか、トラウマになったらしいのに、何でクエストを続けているんだろう。もしかしたら、ここにつけいる隙があるかもしれない。
銃弾精製で作り出した気付け弾を直に突き刺す。
「うぅ……」
シスターが、ゆっくりと目を開ける。そして、私の事を視界に入れた瞬間、身体を捩って逃げていこうとした。
「待って! 話を聞きたいだけ。私は、この国と大切な人を守りたいの」
「…………」
まだ怯えているけど、少しだけ落ち着いてみたい。本当は攻撃しないとか言いたいけど、この状況でそんな事言ったら、敵対した時に困る事になる。
「ごめんね。さっきも言った通り、話を訊きたいの。そうしたら、眠らせるだけにしてあげるから」
「…………」
「この作戦の指揮官はどこ?」
「…………」
シスターは、目を泳がせている。何か情報を知っているって事だろう。
「お願い答えて。皆を助けたいの」
「……国王の近くに」
「!? ありがとう」
もう一度、麻酔弾を撃って、シスターを眠らせる。一応、縛る強さを緩めて、廊下の端に寝かせておいた。寝かせるだけって約束したからね。
「敵は国王の側近。シルヴィアさんがいるから問題ないと思うけど……」
国王様達がいる部屋まで戻ろうと振り返る。すると、どこに潜んでいたのか。武器を携えたメイドや執事がわらわらと現れた。国王様の元まで戻らせないという意味かな。
「……これ全員暗殺者か何か? 全員が気配遮断持っているとか地獄でしかないんだけど」
私は、吉祥天を仕舞って、韋駄天を取り出す。
「言っておくけど、武器を携えたら、明確に敵と認識するから、容赦なんてしないよ。全員倒させてもらうから」
私がそう言うと同時に、王城からかなり離れた場所から大きな轟音が鳴り響く。外周でも何か動きがあったみたい。それが好転している事の証拠である事を祈りつつ、目の前にいる敵に向かって駆け出す。向こうもこっちに向かって駆け出してきた。
まず、正面に走ってきた短剣を二本持った敵が飛びかかってくる。その身体を韋駄天で撃ち抜く。十何発もの銃弾を受けた敵は、それで絶命したようで空中で力をなくし、落ちていく。その課程で、手からこぼれ落ちていく短剣を掴み、近くの敵に投げつける。
「うぐっ……」
短剣が刺さった結果、その敵は怯んで動きを止める。そいつの頭を撃ち抜き、流れるように隣にいる敵も撃ち抜いていく。
「アサルトライフルは、どうやって使えばいいかよく分からないな。もう少し、現実の方で勉強しておくんだった……」
私は、近づいてくる敵を次々に撃ち抜いていく。そして、弾が尽きる直前でリロードをしようとすると、空マガジンを外した瞬間、左腕に鎖が巻き付いてきた。
「何なの!?」
その先端には、重りが付いている。そのせいで、私の腕に簡単に巻き付いてきたみたい。もう片方の先端を持ってる敵は、ニヤリと笑う。動きを封じたと思っているみたい。
「リロード術『次元装填』」
空中に現れたマガジンを韋駄天に装填して、鎖を持っている敵を撃ち抜く。片手で撃つから、狙いが若干怪しかったけど、ちゃんと当てる事が出来た。
「やっぱり、次元装填だと安定しないなぁ。黒闇天は、ハンドガンだからやりやすいってだけかな?」
次元装填でのリロードは、韋駄天よりも黒闇天の方がやりやすかった。韋駄天は、手に入れて日が浅すぎるので、まだ上手く取り扱えていない感じだ。だけど、この集団戦でなら、銃弾を広くばらまけるこっちの方が使えるはず。
新たな敵が、素早く近づいてくる。その相手に対して、左手に巻き付いてままの鎖を振り回す。使った事もないものをいきなり使いこなすことなんて出来ないから、ただ単に、鎖が半円状に振り回されたに過ぎない。でも、たったそれだけで、相手は距離を開けざるを得なかった。鎖がぶんぶん振り回されていたら、近づきづらいからね。
鎖を振り回した結果、こっちの間合いになった。左手で鎖をぶん回して、敵を退けつつ、右手に握った韋駄天で撃ち抜く。
この作戦の問題点は、韋駄天を片手で使うため、狙いが甘くなってしまう事だ。現にさっきまで正確に狙えていた銃弾を外しまくっている。後ろに控えていた敵に流れ弾が当てられたりもしているから結果オーライだけど、正直あまりやりたくない方法だ。王城の廊下という広いが動きが制限された場所だから成功しているだけにすぎない。
だけど、この攻防も長く続くことはなかった。私が振り回した鎖が相手の剣に巻き付く。敵はそれを好機とみたのか剣に巻き付いた鎖を引っ張る。私は、掴んでいた鎖を離して腕を回転させる。
「なっ!?」
「邪魔だからあげる」
私という重りを失って、バランスを崩した敵の身体に銃弾を撃ち込む。その流れで数人の敵を倒す。だけど、鎖の威嚇が無くなった今、相手は簡単に間合いへと踏み込んできた。剣を振りかぶって、そのまま降ろしてくる。
「っ!」
まっすぐ私の頭目掛けて降りてくる剣に対して、韋駄天のストックを横から当てて、軌道を逸らす。
「んなっ!?」
「体術『円月』!」
敵の腰に向けて放った蹴りで、壁に向かって敵が吹っ飛んでいく。そして、その後ろから来ていた敵に銃弾を撃ち込む。
「もう面倒くさい。こっちから突っ込んでやる」
私は、自ら敵に近づいていった。敵は、自分達の間合いに入ると、容赦なく攻撃を繰り出してくる。短剣や剣、中にはフォークを使ってくる敵もいた。その攻撃を韋駄天のストックや細かい動きで翻弄し、銃弾の撃ち込んでいった。そうして、戦闘の全てが終わる頃、綺麗だった王城の廊下の一端が、血みどろの廊下へと変貌した。
「はぁ……はぁ……これで……全員……早く、国王様達の元に行かないと!」
私は戦闘で疲れているにも関わらず、全力疾走で国王様達がいる部屋を目指した。