105.革命の狼煙!!
改稿しました(2022年1月21日)
さっきの部屋に戻ると、国王様だけではなく、黒羽織を被ったアリスちゃんがいた。
「ルナお姉ちゃん!」
アリスちゃんは、私が部屋に入ってきた瞬間、すぐに駆け寄ってきた。そして、そのままの勢いで抱きつかれる。アリスちゃんが小さいこともあって、軽く受け止められる。
「アリスちゃん、ごめんね。すぐに追いつけなくて」
「いいえ、おかげで助かりました。ルナお姉ちゃんも無事で良かったです」
アリスちゃんは、笑顔でこっちを見る。
「あっ……これをお返ししますね」
アリスちゃんが、黒羽織を脱いでこっちに手渡す。
「ありがとう、アリスちゃん」
渡された黒羽織を羽織る。アリスちゃんは、私に黒羽織を渡した後も離れない。なので、アリスちゃんを抱き上げて、国王様とシルヴィアさんの近くに向かう。アリスちゃんは嬉しそうな顔をしていた。凄く懐かれたみたい。
「リリさんに、お伝えしてきました」
「ああ、ありがとう。アリスにも懐かれたみたいじゃな。シルヴィアと一緒にシャルロッテの執務室に向かっておくれ。すぐにメアリーゼも向かう。三人の娘を守って欲しい」
「私は身軽ですから、動き回った方がいいのでは?」
「今回の戦いでは、ルナ自身も標的になる可能性がある。それに、元々の標的はアリスじゃ。いや、王家と言った方が良いじゃろうな。だからこそ、最大の戦力で娘達を保護するのじゃ」
確かに、今回の事件の目的は、王政の廃止だった。となれば、王家の人達が狙われる可能性が高くなるはず。それは、王様も同じだと思うけど、王様は親衛隊の人達が守ってくれるって事かな。後は、王族の血が途絶えるのを防ぐためのリスクヘッジって事もあるのかもしれない。
「分かりました。何かあれば、すぐに知らせてください。出来うる限りの事をします」
「うむ。その時は、任せるとするわい」
私達は、シャルの執務室に向かう。アリスちゃんは、抱き上げたまま連れて行く。
「シルヴィアさんも一緒に来て良いのでしょうか?」
「陛下は、ご自身の宝物を一番に守りたいのだと思います。陛下の意思を強制的に変えるなら、姫様達を利用することが一番ですから」
「それはそうですが……」
私とシルヴィアさんが話していると、私に掴まるアリスちゃんの力が強くなる。実際に人質にされていたから、その時の事を思い出してしまったのかもしれない。
「大丈夫だよ。ごめんね、怖い話をしちゃって。皆は、絶対に守るから」
私がそう言うと、アリスちゃんはこくりと頷いた。そんなアリスちゃんをジッと見つめる。相手の目的が分からなかったけど、アリスちゃんは、その相手の話を聞いている可能性がある。
「シルヴィアさん。イルランテ卿の尋問は?」
「やっていますが、成果はないそうです」
「そうですか……」
色々と考えられる事がある。黒幕の一人は、確実にイルランテ卿だ。それと、あのクラスメイトの男子達もそうだ。プレイヤーは、自殺をして生き返っている可能性がある。未だに、ログインしてこないということは、その可能性が高い。運が良いのは、目隠しをして地下牢に運んだことだ。城内の道を把握されていないはず。つまり、中に侵入された場合でも、相手は場所を探す事から始めないといけないということだ。
「目標が分かれば、もっと正確に動けるはず。アリスちゃん、思い出したくないかもしれないけど、捕まっていた時に、あいつらが話していた事を聞いてない? 何でも良いんだけど」
私は、意を決してアリスちゃんに訊いた。アリスちゃんのトラウマに触れるかもしれないけど、この事態も早く終わらせることが出来るかもしれない。罪悪感があるけど、なんとか押し殺す。
「……分からないです」
アリスちゃんは、首を振ってそう答えた。
「何か些細な事でも良いんだ」
「うぅ……」
アリスちゃんは、難しい顔になってしまう。
「ごめんね。何もわからないならいいや」
「あっ……『革命には火が必要だ』って言っていた気がします」
「革命には……火が必要……シルヴィアさん、国王様に伝えてください。安直かもしれませんけど、火事に気を付けるようにと。もしかしたら、王都に火を放つつもりなのかも」
「分かりました」
シルヴィアさんが、すぐに引き返して部屋に戻っていく。私は、シャルの執務室に急いだ。
「ありがとう、アリスちゃん。ごめんね、嫌なことを思い出させて」
「いいえ、必要な事なんですよね?」
「うん。多分だけどね。でも、これが分かっても無駄かもしれない。相手の目的は分かっても、これからの行動については全く分からない。だから、何かが起こってから行動する事になるね。でも、大丈夫。さっきも言った通り、何があっても守るから」
私は、安心させるようにアリスちゃんに微笑む。アリスちゃんは、こくりと頷いた。そして、シャルの執務室に辿り着く。扉を開けて中に入ると、既にメアリーさんの姿があった。
「ルナ、アリス?」
「アリスを連れて、ルナちゃんが来たって事は、私達の護衛をしにきたって事ね」
「はい。後で、シルヴィアさんも来ます」
「そう。父上は、ここを守り抜きたいのね」
メアリーさんは、国王様の意図をすぐに理解した。まぁ、私の他に、シルヴィアさんが来ると言われたら、誰でもそう思うか。
「シャルも、部屋の中央に来て。もし敵が来ても対応出来るように」
「窓際の方が良いんじゃないの? 部屋に入ってくるわけでしょ?」
「窓際から来るかもしれないでしょ? 実際に私はやった」
「ルナお姉ちゃん、窓から飛び込んできていました」
私とアリスちゃんがそう言うと、シャルとメアリーさんが「えっ?」という顔でこっちを見た。そこまでおかしいことを言ったかな……いや、普通窓から侵入はしないか。
「私が出来るということは、他の人達も出来る可能性があるってことだよ。特に異界人にはね」
私は、中央に用意されたソファに、アリスちゃんを降ろす。アリスちゃんは、少し名残惜しそうにしていたけど、ちゃんと離れてくれた。その後に、窓の傍に移動した。そして窓を開けて、周囲の地形を把握する。
「うん。やろうと思えば登れるだろうし、離れた場所にいた方が良さそうだね」
窓を閉めて、鍵を閉める。これで、すんなりと侵入されるということはない。
「これから何が起こるか分からないので、なるべく部屋から出ないようにしてください」
「分かった」
仕切りなどを集めてきて、シャル達の周りに置く。窓から見られないようにするのと、障害物としてだ。そうして準備をしていると、シルヴィアさんが帰ってきた。
「陛下に伝えて参りました。対策を取りようがないため、消火班をすぐに動ける状態にする事になりました」
「それで良いと思います」
シャルの執務室に全員揃った。後は、何かが起こるまで、待機するしかない。
「なぜ、いきなり動き出したのでしょうか?」
アリスちゃんが、そう言った。
「いきなりって、どういうこと? 今まで、革命派が行動を起こした事はなかったの?」
「小さな事をしてきたことはあった気がするけど、ここまでの事をしたことはないと思うよ。報告書によれば、ここ数ヶ月の間に活性化したみたい」
メアリーさんが教えてくれた。ここ数ヶ月の間……何だか身に覚えがあるような気がする。
「それって、私達がこの世界に来たからって事なんじゃ……」
「ルナ達が?」
「うん。異界人が協力しているから、動きが活性化しているんだと思う。異界人は、依頼を出されれば、簡単に動く人達だから。それこそ、お金さえ払えば何でもする可能性だってある。それが何を壊して何を生み出すのかも知らずに。実際、私だって同じだから」
私達は、この世界をゲームの世界だと思っている。実際、ここはユートピア・ワールドというゲームの世界の中だから間違ってはいない。でも、私は、ここ最近の出来事から、少しだけ違和感を感じている。特に、黒騎士のところにあった日本語が引っかかって仕方ない。それに、黒騎士そのものにも引っかかる部分がある。
でも、他のプレイヤーは違う。私みたいに、何かを知る機会がなかったんだと思う。アトランティスで出会ったというよりも殲滅したプレイヤーも、アトランティスについての知識は全く無かった。調べようともしていない可能性が高い。
「なるほど。異界人をメンバーに入れたことで、行動に移りやすくなったということですか」
「はい。つまり、敵の戦力は多くなるでしょう。最悪の場合、王都内で戦争になるかと」
私がそう言った瞬間、少し遠くで大きな爆発音がした。私は、すぐに窓に飛びつく。窓から見える先、王都をぐるりと囲む壁から煙が上がっている。そして、次の瞬間、その内側から火の手が上がった。革命派の攻撃が始まったのだ。