101.イーストリア脱出!!
改稿しました(2021年12月14日)
メイドさんと別れて、西館に向けて進んでいく。途中で見つけた革命派の敵は、頭を撃ち抜いたり、喉を裂いたり、首をへし折ったりして進んで行った。やっている事は、洋画で良くある傭兵だとか、シークレット・サービスがやっている事と変わらない。不謹慎だけど、少しだけ楽しくなってきた。
「あの部屋だ……」
気配感知とメイドさんの証言から、アリスちゃんがいると思われる部屋を見つける事が出来た。気配感知で感じる敵は、外から感知したときよりも多い。少し敵を排除しすぎたかな。相手を警戒させてしまったのかもしれない。
このまま扉から入るのは、愚策だと思うので、その二つ横の部屋に入る。中に誰もいないので、好都合だった。窓を開けて、壁に張り付きつつ移動していく。目的の部屋の一つ横の部屋の外から、屋根の方にハープーンガンを飛ばす。そのまま壁を蹴って、振り子の要領で勢いをつける。そして、アリスちゃんがいると思われる部屋の窓から勢いよく侵入する。
「んなっ!?」
いきなりの窓からの侵入なので、相手の反応も遅れている。超集中と精神統一で、一気に思考を研ぎ澄ます。時間の流れがゆっくりになった空間で、まずアリスちゃんの居場所を探す。すると、窓の横に綺麗な服を着た幼い女の子が縛られていた。そして、部屋のあちこちに敵がいる。
「銃技『複数射撃』!!」
部屋のあちこちに散らばっている敵の頭に、銃弾を撃ち込む。敵の数は、十五人。黒闇天の装填数は十発。つまり、後五人残っている。
「敵だ!!」
敵も馬鹿じゃないので、撃たれてからすぐに動き始めようとする。生き残っている五人の内、一人だけ装備が全く違う人がいた。多分だけど、その人は、異界人だと思う。厄介な事に全身鎧を着けているので、頭を撃ち抜くわけにもいかない。面倒くさい。
「リロード術『クイック・リロード』」
敵の行動が私を害する前に、すぐにマガジンを入れ替える。
「銃技『複数射撃』!」
入れ替えたマガジンの中身は、爆破弾。つまり、命中した相手を爆発で吹き飛ばすことになる。
「がっ!!」
五人中四人を吹き飛ばして、異界人……プレイヤーの一人だけが生き残った。全身鎧のため、爆発の衝撃で倒しきる事が出来なかったんだ。
「全身鎧は、本当に厄介だね……」
吹き飛ばしたプレイヤーに、もう一発撃ち込む。
「ぐあっ!」
全身鎧のプレイヤーは、壁際まで吹き飛んでいく。それでも倒せていない。つまり、あの鎧とプレイヤー自身は、かなりの耐久力を持っているということだ。けど、運の良いことに、今は気絶しているみたい。激しい音が鳴ったから、他の敵もここに集まってくる。すぐに脱出しないと。
「アリスちゃんだね?」
私が問いかけると、アリスちゃんは、身体を捩って私から逃げようとする。今目の前まで、私が人を惨殺していたら、仕方ないよね。
「ああ、違う! 違う! 私は、アリスちゃんを救出しに来たの。国王様やメアリーさんに頼まれてね」
黒影を使って、縛っているロープを斬り裂く。その後に口を縛っている布も取り去る。
「お姉ちゃん、メアリーゼ姉様と父上を知っているんですか?」
「うん。ルナって言うんだ。お父さん達のところに帰ろう。取りあえず、ここから抜け出すよ」
私は、黒羽織を脱いで、アリスちゃんに着させる。ドレスだけだと目立ってしまうので、黒羽織の認識阻害と夜烏で誤魔化すことにした。
「でも、どうやって抜け出すんですか?」
「色々と仕掛けてきた。こっち来て」
私は、アリスちゃんを呼び寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
「三・二・一・〇」
私のカウントダウンと同時に、屋敷の中央と東側の所々で、爆発が起きる。あのメイドさんがいた付近は、爆破しないようにした。
「きゃっ!」
「大丈夫。私に、しっかりと掴まって」
私は、アリスちゃんを片手で持ち上げる。ステータスの影響もあって、軽々と持ち上げられる。そのタイミングで、扉が開かれた。爆発もあって、アリスちゃんの無事を確認しに来たんだ。死んでしまえば、人質としての価値が落ちてしまうから。
「なっ!? 敵襲!!」
廊下中に響き渡るように、大声で叫んだ。その相手に向かって、すぐに引き金を引く。さっき入れ替えたままで、爆破弾が入っていた。そのため、そのまま吹き飛ぶ。
「見ないで。そのまましがみついていてね」
アリスちゃんは、こくこくと頷いた。少しだけ涙目になっている。窓の外にぶら下がったままになっているハープーンガンを掴み、一度ハープーンを戻す。そして、近くにある建物の壁にハープーンを撃ち込んだ。
「行くよ!」
窓を思いっきり蹴り飛び出してから、巻き戻して私達を壁に引き寄せる。同時に、部屋の中に複数人の敵が入ってくるのが見えた。
「なっ!? 待て!!」
そんな声が部屋からしたけど、私達は既に向かいにある家の壁まで引っ張られている。屋根上までは上がって来れていないので、途中でハープーンを引き抜き、屋根に向けて撃ち直す。その後、直ぐさまハープーンを引き戻して、屋根に登った。同時に、部屋の中に残した置き土産が、火を噴く。部屋をまるごと一つ爆破で吹き飛ばしたのだ。
「やりすぎなのでは……」
「まぁ、そうだね。でも、意味はある」
アリスちゃんを抱えたまま、屋根上を走っていく。その間に、アリスちゃんに、黒羽織のフードを被せておく。夜隠れと認識阻害の効果を最大限に上げるためだ。
「アリスちゃん、怪我はない?」
「はい。縛られたところが、痛いくらいです」
「安全な場所まで退くことが出来たら、治してあげるね。それまでは、我慢してくれる?」
「はい」
「いい子だね。ちょっと無理な動きもするけど、それも我慢してね」
「は、はい!」
屋根から屋根に飛び移っていると、後ろから、屋根を踏む音が聞こえた。後ろを確認すると、私と同じように屋根を走って来る人達がいる。装備から判断するに、プレイヤーの人達だ。さすがに、民家を爆破弾や爆発物精製で吹き飛ばすわけにはいかない。屋根まで上がってくるなら、私と似ている速度型のプレイヤーだと思う。なら、そこまでの重装備はしていない。
「……ちょっとごめんね、アリスちゃん」
「え? きゃあああああ!!」
私は、アリスちゃんを上空に向けて、思いっきり投げた。投擲のスキルも相まって、アリスちゃんが空高く飛んでいく。
「『クイックチェンジ』!」
手に持っていた黒闇天を、韋駄天に入れ替える。そして、韋駄天をプレイヤー達に向けて撃っていく。
「ぐあっ!」
「うぐっ!」
予想通り、軽装備だったみたい。鎖帷子みたいなのを着ていたようだけど、銃弾を何度も受ける事で、衝撃が中まで届いた。
「リロード術『クイック・リロード』」
もう一マガジン分撃ち込んでから、『クイックチェンジ』で、韋駄天を黒闇天に変える。二マガジン分の弾を受けた敵は、完全に動かなくなった。何人かは、衝撃のせいで膝を突き、屋根から落ちていった。そして、アリスちゃんの落下地点まで先回りして、アリスちゃんをキャッチする。
「ごめんね。大丈夫だった?」
「こ、怖かったです……」
「ごめんね。もうしないよ……多分」
敵が複数いたから、一々狙いをつけるよりも全体的にばらまく方が良いと思って、韋駄天を使ったけど、アリスちゃんのためにも、上空にぶん投げるのは、これ以上やらない方が良さそう。
「ルナお姉ちゃん、後ろから来てる」
「まだ、いるの!? どれだけ動員してきているんだか!」
私は、片手で黒闇天のマガジンを捨てる。もう片手はアリスちゃんで埋まっている。
「リロード術『次元装填』」
何もない空間に、一つのマガジンが現れる。そこに、黒闇天を上から振り下ろす形でリロードする。このリロードは、任意座標にアイテム欄のマガジンを出現させる事が出来る。ただ、それを今の様に自分で銃に込めないといけないので、かなり高難易度の技になっている。超集中と精神統一がなければ、私も使う事が出来なかったと思う。
「しっかりと掴まってね!」
私がそう言うと、アリスちゃんがガシッと掴まった。それを確認した後、前に跳びながら身体を反転させて、銃を構える。
「銃技『複数射撃』」
中身はフルメタルジャケット弾。これなら、鎖帷子くらいなら貫通出来る。敵の心臓を狙った弾は、十発中六発命中した。銃弾を受けたプレイヤーは、胸、腹を撃ち抜かれて、その場に崩れ落ちていった。
「狙いがあまい……」
アリスちゃんを抱えている事と走りながらという安定しない状態が相まって、狙いがズレてしまった。それでも、追っ手の数を減らすことは出来た。着地の時に、前への勢いを殺さないように後ろに飛びつつ反転し、再び走り出す。残りの追っ手は、二人。
「脚を狙うか。リロード術『次元装填』」
フルメタルジャケット弾から、ホローポイント弾に入れ替える。
「銃技『精密射撃』」
また身体を反転させて、追っ手の脚を狙い撃つ。追っ手の一人が脚を押さえて、倒れ込む。受け身も何も取れずに、屋根の上から転げ落ちていった。ここまでの戦闘で、下にいる人達にも異常が伝わってしまった。下が騒がしくなってくる。私の服を掴むアリスちゃんの力が増していく。
「大丈夫だよ。もうすぐ、外に出られるからね」
「……はい」
もう一人の追っ手が、すぐそこまで来ていた。
「待て! その娘を置いていけ!」
「巫山戯んな! こんな小さい子を人質にする屑の言うことなんて聞くわけ無いでしょ!! 銃技『一斉射撃』!」
至近距離から、九発のホローポイント弾を追っ手に叩き込む。
「がはっ!!」
身体と頭に穴を開けた追っ手が屋根の上に崩れ落ちる。向こうには、向こうのクエストがあるのかもしれないけど、アリスちゃんみたいな小さな子を人質に取って行うクエストなんてやる方がどうかしている。
「これで追っ手は、いなくなったかな?」
屋根の上から追ってくる人がいなくなったところで、街の外周まで来れた。近くに門が見えたから、予定通りこっちは街の西側だ。壁から飛び降り、ハープーンガンを壁の上部に刺して、ダメージを受けない程度に勢いを殺して着地する。
「急ぐよ!」
そこで止まることなく、すぐに走り出した。西側には、王都がある。それに、次善策として、待機している騎士団がいるはずだから、そこまで逃げ切れば安全だ。そう思っていると、街の門から馬に乗った追っ手が現れた。
「向こうも必死か! リロード術『次元装填』」
黒闇天の中を爆破弾に変えて、馬の足元に向かって撃ち込む。目の前で、爆発が起きたことで、馬が驚き乗っていた人を落として、全く別の方向に逃げていく。
「アリスちゃん、良い? よく聞いて」
私は、アイリスちゃんを地面に降ろしながらそう言う。アリスちゃんは、なんだろうという風に首を傾げる。
「私が追っ手の足止めをする。その間に、ここを真っ直ぐ走って抜けて。そうしたら、騎士団の人達がいるはずだから、保護して貰って。私の黒羽織なら、そんじょそこらのモンスターの攻撃をものともしないから。これは、絶対に脱がないようにね」
「でも、そうしたら、ルナお姉ちゃんが……」
「私は大丈夫。異界人だから、死ぬこともないし。そもそも死ぬつもりもないしね。だから、一人で頑張って走っていって。いい?」
アリスちゃんは、こくりと頷いた。
「よし! じゃあ、行って!」
私がそう言うと、アリスちゃんは急いで走り出した。私は、馬から落ちた人達に爆破弾を見舞っていく。
「ここから先は、絶対に通さないよ!!」
私は、黒闇天をリロードして、次の敵に備える。