100.イーストリア潜入!!
改稿しました(2021年12月13日)
イーストリアへの潜入は正面から行わない。イーストリアを覆っている壁の一面から潜入する。正面からでも入れない事はないけど、別の場所からの潜入の方がやりやすい。
私は、イーストリアの北側に移動した。北の壁にハープーンガンを撃ち込んで、上に上がっていく。
「さてと、本気で隠れよう」
私は、黒羽織のフードを目深に被る。こうすれば、黒羽織の恩恵をフルに受ける事が出来る。
「敵の位置は……」
気配感知で、敵の位置を確認する。色々な気配を感じてはいるけど、その中から、私が敵と認識しているここの軍と革命派の気配を強く感じている。気配感知の特徴の一つで、敵対関係の相手の気配を認識しやすくなっている。そうじゃないと、無関係な人の気配とかで、よく分からないことになっちゃうしね。
(思っていた以上に数が多い……)
北の壁から感知出来る範囲でも、私が思っている以上の敵がいた。かなりの大所帯みたい。それぞれ五、六人でまとまって行動している。
「この中で、浮いた一団はどこかな……?」
取りあえず、捜索目標であるアリスちゃんの居場所を聞き出さないといけないから、孤立している一団を探す。
「……いた」
ハープーンガンを撃って屋根に着地する。そして、見つけた敵一団に向けて、屋根の上を走り出す。ここまで消音と消臭、潜伏、気配遮断を使い、尚且つ夜烏と黒羽織の認識阻害と夜隠れを併用して一切見付かる事なく移動する事が出来た。そうして、敵一団の真上に着いた。
「えっと、全部で六人か。情報の裏付けのために、最低でも三人欲しいかな」
私は、黒闇天と吉祥天にサプレッサーを付ける。そして、屋根の上から敵目掛けて飛び降りた。
「銃術『複数射撃』『連続射撃・三連』」
黒闇天と吉祥天で、それぞれ三発ずつ撃っていく。実弾と麻酔弾を三人ずつ、頭に当てる。結果、三人が死んで、三人が眠りについた。その傍に、静かに着地した。
「ごめんね」
三人の死体を近くにあった大きめのゴミ箱に押し込んで、眠っている三人を路地裏の奥に連れて行く。そして、そのうちの一人を叩き起こす。
「うっ……」
意識が戻ってきたところで、即座に首に黒影を当てる。
「静かにして」
男の人は、身体を強張らせた。呼吸さえ止めているようにも見える。
「今からする私の質問に答えて。分かったら、一回頷いて」
男は、私を敵と判断したみたいだ。キッと眼を釣り上げる。
「ふざっ……!」
いきなり口を開いたから、すぐに口を塞ぐ。そして、太腿に黒影を突き刺した。
「~~~~~~~!!!!」
口を塞がれているため、くぐもった叫びしか出す事が出来ない。
「私の質問に答えたら、傷を治してあげる。でも、このまま、何も答えない気なら……分かるよね?」
男はこくこくと頷いた。
「人質はどこ?」
口に当てていた手をどかす。
「お、奥の屋敷だ……!」
「屋敷のどこ?」
「そ、それは知らない! 本当だ!」
「そう」
黒影を男の首に突き刺して、横に引き裂く。男は、口パクで何かを言っていた。多分、『騙したな』だと思う。まぁ、実際、騙しているから、悪いとは思う。でも、アリスちゃんを無事に救出するためには、形振り構っていられないんだ。私は、次の男を起こす。そして、すぐに口を塞ぐ。
「私の質問に答えて。答えないなら、そこのお仲間みたいになるよ。分かったら頷いて」
そうして、残り二人から情報を引き出した。結果、一人目の言っていたことは本当だという事が分かった。ただ、それ以上の情報を得る事は出来なかった。残りの二人も息の根を止める。
「末端に正確な情報がいっているわけないか。取りあえず、あの屋敷を目指そう」
ここの三人は、さっきの三人とは別のゴミ箱に突っ込む。清潔さを保つためか、ゴミ箱を結構な数用意しているみたい。おかげで、隠し場所に困らないや。
『『隠蔽Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
「新しいスキルを手に入れたのは嬉しいけど、少し複雑……」
死体を隠していたから、隠蔽のスキルを手に入れる事が出来たって事だし。まぁ、有効活用しよう。屋根を走っていくと、目立つ気がするので、なるべく家の影を利用して動いていく。
「また敵か。邪魔だから、なるべく倒していこうかな」
気配感知に沢山の敵が引っかかる。少し様子を見ると、ここら辺を回っているみたい。吉祥天を仕舞い、黒影を取り出す。敵は全部で六人。私は、路地に隠れて、敵が来るのを待つ。そして、私の前を通った瞬間に、一人の頭に銃弾を撃ち込む。撃ち抜かれた敵は、力なく倒れる。
「……!?」
その姿を見た他の敵は、突然の事態に固まった。その間に、一人の敵の喉に黒影を刺して、もう一人の頭を撃ち抜く。この時点で、他の三人が武器を抜こうとする。私は、すぐに三人に接近して、同じように息の根を止めていった。
「何か、やっている事が洋画の世界と同じだよ。いつの間に、こんなエージェントみたいになったんだろう」
そう言いながらも、また敵の一団を暗殺していく。
『条件を達成しました。EXスキル『暗殺術Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
なんと、暗殺術を手入れる事が出来た。何人も暗殺することが条件なのかな。まぁ、それは置いておいて、ようやく屋敷の近くまで来ることが出来た。一旦目を閉じて、気配感知に集中してみる。
「屋敷内を巡回中の敵が多い。でも、この巡回のコースから、アリスちゃんがいる場所を割り出せるかも……」
敵の動きを意識してみると、一箇所だけ全部の巡回が近寄る場所があった。そして、その近くに大きな気配が二つ程ある。別の場所にも大きな気配があるけど、そっちには巡回が何人かしか行っていない。
「多分だけど、巡回が集中するところにいそう。中に入って、巡回中の敵から情報を聞き出さないとだね」
一度屋敷の屋根まで移動する。そして、一番近い窓に近づく。
「開くかな」
若干賭けに近かったけど、普通に窓が開いた。
「本当に、ここの世界の人達は不用心だね。いや、そもそもこんなところから侵入されると思っていないのかな」
するっと中に入って、近くの部屋に隠れる。中は、空き部屋だった。気配感知で敵はいないということは知っていたので、安心して潜むことが出来る。部屋の中から、改めて気配感知に集中する。
「一人だけで巡回しているのは……あそこか」
部屋から出て、浮いた駒を手に入れに行く。屋敷の中は、灯りを最小限に下げているみたいで、夜隠れが発動したままだった。おかげで、スムーズに移動が出来る。後ろから素早く近づいて、膝を蹴る。
「う……!?」
膝から崩れたところで、手で口を塞ぎ、喉に黒影を突きつける。
「手を上げて。私の質問に答えて。肯定だったら一回、否定なら二回頷いて」
男は、こくりと頷く。
「アリスがいるのは、二階?」
アリスちゃんの名前を出したのは、人質が複数いたときの事を考えてだ。そして、二階は、最初に見つけた監禁場所候補がある階になる。男は、すぐに一回頷いた。
「本当に?」
少しだけ黒影を肌に食い込ませる。男は、大きく一回頷く。
「そう。ありがとう」
そのまま黒影を突き刺して息の根を止める。近くの空き部屋を開けて、中に寝かせておく。
「二階か……」
今いるのは四階なので、二階分下がらないといけない。なるべく戦闘にならないルートを選んで降りるしかないかな。壁に背を付けながら、移動を開始する。敵の位置は、気配感知で分かるので、なるべく鉢合わせないように注意する。どうしても倒さないといけない敵もいるので、そういった敵は排除する。
(気配感知で感じてはいたけど、敵の数は結構多いなぁ)
T字路の曲線部分に身を隠して、通り過ぎる敵の頭に風穴を開ける。続いてきていた一人の膝を撃って、私の胸くらいの位置になった首に黒影を突き刺す。その死体は近くの部屋に隠す事にした。扉を少し開けて二人の足を掴み、引きずっていく。中に入ってようやく、その部屋に一人のメイドさんがいた。メイドさんは、口をあんぐりと開けてパクパクとしていた。
(やばっ……!)
悲鳴を上げようとする彼女の口を速やかに塞ぐ。恐らく、この人は、革命派の人間じゃない。気配感知では、敵性の反応がない。この場所は、敵の反応が濃いので、中に入るまで気が付かなかった。
「静かにして。いい?」
私がそう訊くと、メイドさんは、涙を流しながら激しく頷いた。一応やりたくないけど、黒影を手に持っておく。
「少し知りたいことがある。アリスの居場所を知っている?」
メイドさんは、こくこくと頷いた。
「今から手を外す。少しでも叫ぼうとしたら、首をかっ切ることになる。分かった?」
メイドさんは、滂沱の涙を流しながらこくっと頷いた。いつでも黒影を使える様にしながら、手を外した。
「アリスはどこ?」
「この階の西館です。念のためにお伝えしておくと、ここは東館です」
「ここにいる敵は、全員革命派で間違いない?」
「はい……」
官僚の人が言っていたことは正しかったみたい。でも、私は別の事が気になっていた。
「ここの領主はどうしたの? 抵抗していないの?」
「えっと……領主様が、革命派だったんです……今回の所業も領主様の主導です……」
嫌な予感が的中してしまった。本当に領主が黒幕だった。どうにで、領主の兵と革命派が一緒にいるわけだよ。
「なるほどね。じゃあ、あなたも革命派?」
「いいえ!」
メイドさんは、首が取れんばかりに振る。
「あなたも閉じ込められているの?」
「いえ、不用意に外に出てしまうと、革命派に殺されてしまうので、ここにいるんです」
それは、閉じ込められているというのではと思ったけど、口にはしないでおこう。それに街の人達が避難できていない理由の一端も聞けた。問答無用で殺される可能性があるんだ。大人しくしているしかないね。
「私は、国王様の命で、アリスちゃんを救出に来たんだ。アリスちゃんを救出したら、西側と中央付近を爆破するから、混乱に乗じて逃げ出すと良いよ。他にも同じ境遇の人がいるなら、その人達も一緒にね。どうせ、革命派は私とアリスちゃんに釘付けになるだろうし」
「は、はい!」
「まぁ、それでも街の中にはいた方がいいかな。救出が終わったら、騎士団が派遣されてくるだろうから」
私がそう言うと、メイドさんはこくりと頷く。
「じゃあ、私は行くね」
「あ、あの!」
部屋から出て行こうとすると、メイドさんが声を掛けてきた。
「何?」
「そ、その、アリス殿下の傍には、い、異界人の方がいます。領主様が雇ったようなんですが、かなりの腕前のようです……」
「異界人……うん、教えてくれて、ありがとう。これ、少ないけど取っておいて。迷惑料」
私は、十万ゴールドを渡して、部屋を出て行った。扉を出る直前、メイドさんがあわあわとしていた。私は、それを無視して先を急ぐ。アリスちゃん救出は、もう目前だ。