初めての
放課後。
「よし、ひかる!遊びに行こう!」
「そうね」
やっと長い授業が全部終わった。
今日は一日中クラスメイトの視線が気になったが、まあもう今の僕には何も怖くない!
これも全部最後にはうまくいくさ。大丈夫。
僕らが教室を出ようとすると、あかりちゃんが駆け寄ってきた。
「あれ、2人とも…一緒に帰るの?」
「あ、うんそうだよ!」
「そうなんだ…いいなぁ」
あかりちゃんはひかるの方を見ながら羨ましそうに言った。
「あ、あかりちゃんも…一緒に帰る?」
「ううん。ごめん、私は部活があるから…。ひかる!明日は、私と学校行ってくれる?」
ガーン。
僕には全く興味無さそう。
落ち込む僕。
ひかるはため息をついた。
「何度言わせれば分かるの?私はあかりと一緒に行きたくない。入学式の日だって本当は嫌だったのに無理やり着いてきて…もう絶対一緒には、行かない。ていうか、話しかけてこないで」
「そんな……私はただ、ひかると…」
「うるさい。あかりには私の気持ちなんて分からないかもしれないけど…本当に嫌なの。じゃあ、さよなら」
ひかるはそのまま教室を出ていく。
「あっ、ま、待ってよひかる…!」
──このままじゃあかりちゃんが可哀想だ。
でも、ひかるのことも追いかけないと…。
慌てる僕を見てあかりちゃんはいつもの笑顔で僕を見た。
「大丈夫だよ。ごめんね、理央くん。また明日、学校でね」
あかりちゃんはそれだけ言うと教室を出て走って行ってしまった。
…ひかるは何でこんなにあかりちゃんを傷つけるような言い方するんだろう。
“裏切ったから”とだけしか教えてもらってないし、それ以上は僕にはまだ何も踏み込めない。
僕がひかると仲良くなれば、ひかるとあかりちゃんを仲直りさせられるようなことが出来るかな。
これ以上あかりちゃんが傷つく顔、見たくない。
「ひかる…あ、あのさ。あかりちゃんの事…いいの?」
「何が?」
「ほら、結構傷ついてそうだなって思って」
「別に。どうでもいい」
…これはひかるとあかりちゃんの問題だし僕には関係の無いこと。
何も踏み込めない僕は、「そっか」とだけ言って、ひかると歩いた。
学校を出た僕らは、とりあえず駅の方へ向かう。
「…で、遊ぶって、どこで何をするの?」
「うーん…そうだなぁ…僕、友達全然いないから正直何していいのか分からない…かも」
「何それ。理央が誘ったのよ」
うーん…どうしよう。
カラオケとか映画とか行くほどの仲でもないしなあ。
それに僕もそういうの苦手だし、ひかるも楽しいとは思ってくれなさそう。
…はっ!そうだ!
「よし、ひかる!コンビニへ行こう!」
「…は?」
そして、コンビニに着き僕のお金で肉まんとあんまん買い、公園へ行った。
公園のベンチで2人で肩を並べて座る。
ひかるは不思議そうな顔をしながらあんまんを口にした。
「…美味しい」
「!そうだよね、やっぱりあんまん美味しいよね!」
「初めて食べた」
「え!?あんまんを!?」
「うん。美味しい」
「も、もしかしてコンビニで買い食いした事とか…ないの!?」
「そうね…。ないわ」
ポカーンとする僕。
「ひかるの家って、お金持ちとか?実はお嬢様?」
「まさか。全然」
「そ、そっか…」
「そっちのも食べてみたい。肉まん?だったっけ」
「あ、あぁ、うん。はい」
ひかるに肉まんを差し出す。
ひかるは肉まんを口にし、驚いた表情をした。
「これは…さっきのあんまんと全然違うのね」
「そりゃあ…肉まんだからね」
「これも美味しいわ。ありがとう」
ひかるはひと口食べた肉まんを僕に返す。
…あれ?これって……
か、か、間接キスでは!?!?
ドキドキしながらひかるを見るが、ひかるは何も気にせずあんまんを美味しそうに頬張る。
今まで女の子と全然話したこともなかった僕にはなんてハードルの高い…!
「食べないの?」
「え!?あっ、い、いや、食べます!」
ドキドキしてなかなか口にできない僕。
すると──なんと、ひかるが顔を近づけてきて僕が手にしてる肉まんにかぶりついて来た。
「!?ちょっ…」
「食べないならちょうだい。はい。ありがとう」
ひかるはそのまま何食わぬ顔して肉まんを僕から奪い取り、食べ始める。
僕は一瞬の出来事だったが、ひかるの顔がとても近かったことと、息が少しかかったことでドキドキがおさまらなかった。
「ふう。ごちそうさま。次は何を食べる?」
「なっ、何を食べるって…ひかる、そんなにお腹すいてるのかよ!」
「うーん。そうね…美味しいものは好き」
「もう…分かったよ。じゃあ、次はクレープ食べよ!食べたことある?」
「…クレープ?何かしら、それ…食べたことない…」
やっぱりクレープもないのか。
「今食べたやつと同じくらい美味しいよ。よし、行こう」
僕はベンチから立ち上がりそう言うと、ひかるも立ち上がった。
「ひかるって、意外と食いしん坊なんだね」
「…失礼ね。別に、そんな事ないわ」
少しすねたような表情でひかるはそう答えた。
何だか、ひかるって学校ではいつも無表情で無口で本ばかり読んでて、冷たく見えるけど…こうして見ると、そうでもないのかもしれない。
「何?」
「あ、いや…別になんでも」
「…そう」
公園を出て歩き出すといつも通りの無口なひかるに戻った。
僕はさっきのひかるとは全く別人に見えて、なんだか面白くなって笑いだした。
「ちょっと。何?」
「何でもないってば」
ひかるは少し怒ったような表情をする。
そうして僕らは肩を並べて駅前の広場まで歩き始めた。




