誤解
1限目が終わり、あかりちゃんが教室に戻ってこないことでクラスメイト達は心配そうにしている。
クラスメイトの女子たちはひかるの方を見てひそひそ何かを話していた。
ひかる、完全に女子から敵意を持たれているな…。
「ひかる、だ、大丈夫?」
「何が?」
「ほら、何か女子からひそひそ言われてるじゃん…」
「別にどうでもいいわ」
おどおどする僕を見て、ひかるは不思議そうな顔で答えた。
ひかるのこういう所、少し羨ましいかもしれない。
「それより、あかりのことでも探してきたら?心配なんでしょう」
「え!?な、なんで…」
「顔見ればすぐ分かる」
…バレバレだ。
「ちょっと、あなた達」
怒った表情で僕らのところにやってきたのは南雲さんだった。
あかりちゃんの件で怒っているに違いない。
「何よさっきの!どういうこと!?あかり戻ってこないじゃない!!」
「え、あ…僕は、わ、分かりません」
「あなたねぇ!!分からないで済むと思ってるの!?ていうか一番の原因は間宮さんでしょ!あかりのこと連れ戻してきなさいよ妹でしょ!」
すごい剣幕で騒ぐ南雲さん。
だが、ひかるは何も動じず、本を読み始める。
「…!ちょっと!聞いてんの!?」
「あ、あぁあ、南雲さん。ぼ、僕が探して来ますから!」
「ふん!じゃあさっさと探して来なさいよ!あなた達のせいなんだから!主には丸山くんじゃなくて、間宮さんのせいだけどね」
「い、今すぐ探して来ますからぁ!」
「じゃあ早く行きなさいよ!!」
「はっ、はいぃ!」
僕は教室を飛び出て、あかりちゃんを探しに向かった。
2限目が始まるまであと10分ぐらい…!
早く探さないと…!
それにしても南雲さん怖すぎる…!
あかりちゃんのいそうな所なんて全く分からないが、とりあえず保健室にでもいるのではないかと考えた僕は保健室へ行った。
するとまさかの僕の読みが当たり、保健室からあかりちゃんがちょうど出てきたのだ。
「あ!あかりちゃん…!」
「あれ?理央くん?どうしたの?」
急いで保健室まで来た為、顔を真っ赤にし息切れする僕を不思議そうに見つめるあかりちゃん。
そしてあかりちゃんはにっこり微笑んだ。
「もしかして私のこと探しに来てくれたの?理央くん優しいね!ありがとう」
「い、いや…ちょっと、気になって…。あ、あの!誤解しないで!僕とひかるは別に…た、ただの友達になっただけだから!」
「あはは、何それ〜全然気にしてないよ。ただ、ひかるったら私には全然構ってくれないのに理央くんとは一緒に登校するだなんて…羨ましくなっちゃっただけ」
あかりちゃんは寂しそうな表情をしながら、そう言った。
でもすぐにいつもの笑顔に戻り、僕の両手を握りしめてきた。
「ひかると仲良くしてくれてありがとう!ひかるね、難しい子だから…友達作るの苦手なの。理央くんが友達になってくれたみたいで、姉としてすごく嬉しいよ」
「え!?い、いや…!そんな!」
「うふふ。よかったら…私とも仲良くしてね」
あかりちゃんは頬を赤らめながら小さな声でそう言った。
僕の心臓はバクバクで、今にも爆発しそうな勢いだ。体から汗が止まらない。
「それじゃあ、私は先に教室戻るね。ありがとね、理央くん」
あかりちゃんは僕の手をゆっくり離し、笑顔でその場から離れて行った。
僕はしばらくそこから動けずにいた。
──何故か?理由はただ1つ。
僕の心は……完全にあかりちゃんに奪われてしまったのだ。
「どうしよう……本当に好きになっちゃったかもしれない…」
僕はあかりちゃんが握ってくれた手の感触、
照れくさそうな笑顔、それらを思い出してドキドキしていた。
もっと……もっと、あかりちゃんのこと知りたい。
仲良くなりたい。もっと話したい…!
僕がそんなことを考えていた頃。
教室へ向かったあかりちゃんは──
「…絶対許さない。殺してやる」
そう呟きながら、歩いていた事なんて。
僕はまだ知ることはない。