友達
放課後。
約束通り、僕は間宮さんと数学の課題を始めた。
教室に残っているのは僕達と数名の生徒だけ。
「…ね、ねえ」
「何?」
「何で、僕と課題を?」
「ただ、終わってないのが丸山くんだけみたいだったから。丁度いいなと思っただけよ」
「そ、そっか」
間宮さんと話す機会なんてそうそうない。
隣の席だけど、僕も口下手だし間宮さんも誰かと話すのが得意そうな子じゃないからだ。
…この機会に、間宮さんと仲良くなれないだろうか。
友達ゼロの僕は、同じく友達ゼロの間宮さんと少しだけ仲良くなれるような気がした。
「あ、あのさ!間宮さんって、どうしてあかりちゃんに冷たいの?」
そう質問した途端、間宮さんはピタッと動きを止めて僕を睨みつける。
「…なに?あかりの事が好きだから私のしてる行動が信じられないってこと?」
「違うよ!ただ…ちょっと気になって」
「…あなたには関係ないわ」
…しちゃいけない質問だったのか。
じゃあ質問を変えてみよう。
「じゃ、じゃあさ。何で間宮さんは友達作らないの?」
「丸山くんに言われたくないわ」
「僕は作りたいけど…できないの!人と話すの苦手っていうか」
「でも今、普通に話せてるじゃない」
「そ、それは……」
「私も友達いないから?」
「そういうわけじゃ、ないけど……少し間宮さんのことが気になって」
「あかりの妹だから?」
間宮さんは、はぁとため息をつきシャーペンを置く。
そして席を立った。
「…帰る。課題は明日提出するわ」
「え!?ど、どうして…」
「あなたと話してるの、嫌」
間宮さんはノートとペンケースを片付け始める。
…まずい。僕、怒らせちゃったのかな…。
な、なんとかしないと!
「ご、ごめん!嫌なこと言ったなら謝るよ!」
「別にいいわ。何も気にしてない」
「じゃあ、ま、間宮さんはどうやったら……僕と話してくれるの!?僕は間宮さんと話したいんだよ!たくさん!」
「…え?」
……は?
僕は何を言っているんだ。
驚いた表情をする間宮さん。
焦って意味のわからないことを言ってしまった僕を見て、間宮さんは驚きながらも席に着いた。
「…なに?私と何が話したいの?」
「あ、い、いや…あの」
「あかりのことなら言えることは何も無いわよ。それ目的だったら私と話すことなんて何も無いでしょう?」
「だから…違うって!僕は間宮さんと話がしたかったんだよ!正直あかりちゃんのこと気になってはいるけど…間宮さんと、友達ゼロ同士として!話してみたかったんだよ」
「…あなたすごく失礼ね」
…確かに。めっちゃ失礼なこと言ってる。
「ご、ごめん…」
「別にいいわ。友達なんて欲しいと思わないけど…なんか、あなた面白いのね」
間宮さんは口元に手を当てながらくすくす笑った。
…笑ってる。間宮さんが笑ってる…。
僕は、初めて見る彼女の笑顔にドキッとした。
やっぱり、あかりちゃんと顔がそっくりだ。
とても綺麗で、可愛い。
「課題、見せてくれてありがとう。続けましょ」
間宮さんは再びノートを開き、課題を始める。
「私があかりのこと嫌いな理由、少しだけ教えてあげる」
「…え?」
「私のこと、裏切ったから。」
「裏切った…?」
「そう。裏切ったの。それだけ。おしまい」
僕には、理解が出来なかった。
裏切った?あかりちゃんが?間宮さんを?どんな理由で?
それ以上はさすがに踏み込めなかった。
「私と、友達になってみる?」
間宮さんは僕を真剣な目で見つめながらそう言った。
その時の僕は、友達ゼロで悲しい高校生活を送りたくなかったという理由と、とても綺麗な彼女の見た目と、あかりちゃんとの事が気になったという理由。そして僕が彼女と仲良くなれば、あかりちゃんは僕の事をもっと気にかけてくれるかもしれない。
僕はあかりちゃんが好きだ。だから…そんな最低な理由で、僕はこう答えた。
「…友達に、なろう」
自分でも最低な理由だと思う。
そんな僕を見て間宮さんは右手を差し出した。
「じゃあ、これからよろしくね。理央」
「よ、よろしく…。ひかる」
僕はひかるの右手を握り握手を交わす。
こうして僕らは友達ゼロから友達1人へと昇段した。
──そんな僕らを、廊下から誰かが見ていた事に…僕は、気が付かなかった。