過去1
阿部あかりと阿部‘’ひかり‘’。
私とあかりは一卵性の双子だ。
見た目はまるで同じ。
髪型と服装が同じだったらきっと誰も見分けがつかない。
私たちは幼い頃、とても仲のいい双子だった。
いつも何をする時もずっと一緒。
でも、小学校高学年の頃。
母は、突然私に厳しくなった。
あかりはとても頭が良く、勉強が得意だった。
得意なのは勉強だけじゃなくスポーツも。
おまけに趣味は手芸と料理で、本当になんでも出来る完璧な女の子だ。
母は、そんなあかりを自慢の娘だと誇らしげに褒めていた。
それに比べて私はというと、勉強は苦手。
運動神経も悪ければ、これといった趣味もない。
母はそんな私に厳しかった。
「どうしてこんな事もできないの!?あんたみたいなのがあかりの双子の妹だなんて、ありえない!私の娘だなんてありえない!」
母はそう言って私をいつも叱っていた。
怒った母はとても怖かった。
怖い顔で私を怒鳴りつけ、頬を強く叩き床に思い切り突き飛ばす。
時には物を投げつけられることもあった。
父はその頃、仕事が忙しく家に帰ってくることは月に数回で、母はそんな父にいつもイライラしていた。
たまに父が帰ってきてもいつも喧嘩ばかり。
そして父が家に帰ってくる回数はどんどん減っていった。
「あかりだけ…あかりだけ産まれてくれば良かったのに。どうして双子で産まれてきたの。ひかりなんて、いらない」
それが母の口癖だった。
母の虐待は徐々にひどくなっていった。
中学生になってからは、私だけ家に入れてくれないこともあった。
真冬の寒い時期に、家の前で扉を開けてくれることをずっと待っていることもあった。
私にだけご飯を食べさせてくれなかったり、
着た洋服も洗ってくれなかったり。
だけど、あかりにはいつも優しくしていた。
私はあかりが羨ましかった。
勉強も運動も努力しても人並みにしかできなかった私を、母は許してくれず虐待は酷くなっていく一方だった。
けど、あかりは私を助けてくれなかった。
いつも母から虐められる私を見て見ぬふりで誤魔化していた。
母に嫌われるのが怖かったんだろう。
私のように虐待されたくなかったんだ。
そりゃそうだよなと、私は思った。
小さい頃はあんなに仲が良かったのに、
私たちは家で一言も会話をしなくなっていた。
けど、学校ではあかりはいつも楽しそうに私に話しかけ、母とのことを励ましてくれていた。
あかりと違って口下手で引っ込み思案な私は、学校でも友達がなかなか出来ず一人でいる。
あかりは、そんな私のそばにいてくれた。
「ごめんね…ひかり。助けてあげられなくて」
「仕方ないよ。あかりはママから気に入られてるんだから、私のせいで嫌われる必要ない」
いつもそう返す私に、あかりは悲しそうな表情を浮かべていたことをよく覚えている。
──自分は、出来ないことなんて何一つなくて
母からも虐められないくせに。
同情なんていらない。
だったら、私を助けてよ。
私の体は、既に痣だらけだった。
毎日、母に殴られて虐められて。
体も心も痛くて。
なのに、あかりは。
母から愛されて、出来ないことなんて何一つなくて。
──なのにどうしてそんなに悲しそうな表情をするのか。
私は、その頃からあかりに憎しみと妬みを抱くようになっていた。




