お弁当
「私もお昼、一緒にいいかな?」
「嫌」
笑顔で聞いてくるあかりちゃんを、ひかるは即答で拒否した。
「え〜んそんなあ!やだやだあ〜私も仲間に入れてよお、ひどいよお、ひかる〜」
ひかるに抱きつき泣き出すあかりちゃん。
ひかるはあかりちゃんを無理やり引き離し、無視してお弁当を食べ続けている。
「ねぇ、理央くん…。駄目?」
あかりちゃんは目をうるうるさせながら、上目遣いで僕を見つめた。
そっ…そんな顔で見られたら…
僕は…僕は…!
「みんなで仲良く食べましょう!!」
そう答える僕。
あかりちゃんは、わーい!とルンルンでお弁当箱を開き始めた。
ひかるは僕を無言で睨む。
うう…ごめん、ひかる…。
でも、僕は3人で仲良く食べた方がいいと思ったんだ…。
「わー、理央くんのお弁当美味しそう!お母さんが作ってくれたのー?」
あかりちゃんは僕のお弁当を覗きこむ。
「あ、うん。そうだよ」
「へー、いいなあ。ひかるのは…おばさんが作ってくれたの?」
「…!」
あかりちゃんの質問にひかるの顔色が変わる。
そして、ひかるはあかりちゃんを睨みつけた。
「…違うわ。これは私が作ったの」
「えー!そうだったの!すごーい!」
ひかるのお弁当は本当に美味しそうだった。
これをひかるが自分で作ったのか。すごい。
…ていうか、おばさん?
ひかるって、おばさんと一緒に住んでいるのか。
昨日ひかるの家に行ったときは誰もいなかったけど。
でも、ひかるとあかりちゃんの家庭って…離婚してるんだよな。
ひかるは、母親と父親のどちらかに引き取られたんじゃなくて、親戚の人に引き取られたってことか…?
「おばさん元気?仕事忙しくてなかなか帰って来れないんでしょ?だから私、心配でひかるの家いつも行ってるのにひかる全然家に入れてくれないんだからあ〜」
笑顔で話すあかりちゃん。
ひかるは次の瞬間、持っていた箸をあかりちゃんの目に勢いよく向けた。
あと数ミリ動かせば箸はあかりちゃんの目に入る。
「ちょ、ちょっと!!ひかる!」
僕は急いでひかるを止めた。
だけどひかるは箸を下ろさない。
そして、ひかるはとても怖い顔をしてあかりちゃんに言う。
「それ以上その話を続けてみろ。このままお前の目玉を刺す」
──本気だ。
本気でひかるはあかりちゃんの目を箸で刺そうとしている。
でも、あかりちゃんは怖がる様子もなくいつもの笑顔を崩していない。
「…危ないよ?ひかる。そんなもの目に向けたら。だめでしょ?」
そして、あかりちゃんはひかるから離れて何も無かったかのようにお弁当を食べ始めた。
「…ひ、ひかる。とりあえず箸を下ろそう?ね?」
僕の言葉で、ひかるはいつもの表情に戻り箸をおろした。
…何が起こったんだ。今の。
2人はもう既にお弁当を食べ始めている。
僕は、それ以上何も言えなかった。




