友達
お昼休み。
僕は鞄からお弁当を取り出し、ひかるに声をかけた。
「ひかる。朝言ってた…話のことなんだけど。屋上で、話さない?話したあと、それぞれお昼ご飯を食べよう」
「…そうね。分かったわ」
ひかるも鞄からお弁当を取り出し、席を立つ。
僕らは一緒に教室を出て、屋上へ行った。
「…今日はいい天気ね」
屋上へ着くと、ひかるは伸びをしながらそう言った。
もう6月だ。気温もだいぶ上がっている為、外も暑い。
そのせいか屋上には僕ら以外誰もいない。
僕はちょうど良かったなと思った。
「…で、話って何?」
くるりとこっちを向き、ひかるが言った。
僕は緊張しながらも、ごくりと唾を飲み込み意を決して口を開く。
「僕が…僕が、ひかるに近づいた理由は…友達が欲しかったからっていう理由もあるけど」
「…うん」
「…本当は、あかりちゃんと仲良くなりたかったんだ。あかりちゃんが好きだから。だから、ひかるを利用しようとしたんだ…」
僕の言葉に、ひかるは驚きも怒りもしなかった。
ただ、真っ直ぐ僕を見ていた。
「本当に…本当にごめん。ひかるは本当にすごくいい子だ。まだひかるのこと何も知らないけど…僕には分かる。だから、これ以上ひかるを傷つけるのは嫌なんだ…」
だから、友達を辞めよう。
そう言おうと思った瞬間、ひかるは言った。
「えっと…だから、何?」
ひかるは困ったような表情を見せている。
「いや、だから…僕はひかるを利用しようと…」
驚き、焦りながら言う僕。
「そんなの最初から分かってたよ?」
ひかるは不思議そうな顔でそう答えた。
そして微笑みながら話し続ける。
「私、そんなの最初から知ってた。だから気にしなくていいのよ」
「そんな…!だって、ひかるにとったらそれって傷つくようなことじゃないか…!」
「いいの、全然。だって、理央は…私を楽しませてくれたじゃない」
ひかるは僕に手を差し伸べた。
「初めてだったの。誰かと放課後、遊びに行くの。すごく…楽しかった」
「…それって…昨日の」
「そう。理央も昨日、楽しんでくれてたでしょう?」
僕は頷く。
ひかるは嬉しそうに微笑む。
「それだけで、じゅうぶん。これからもっと楽しいことできるんでしょう?“友達”って。私はそれを知らない。だから、教えてよ。理央」
「…僕なんかでいいの?」
差し伸べられたひかるの手を握り、そう聞くとひかるは頷いた。
ひかるがそう言ってくれたことがすごく嬉しかった。
こんな僕でいいってひかるは思ってくれた。
「ごめん…ごめんね、ひかる。ありがとう。僕も…今度は、ちゃんと…ひかると友達になりたい。」
「…うん。なりましょう。友達に」
「昨日のひかるの部屋でのことは…忘れる。その方がひかるもいいでしょ?」
ひかるの表情が一瞬曇る。
でもすぐに笑顔になり、そして頷く。
「…そうね。ありがとう。」
「これからは…これからは、楽しいことたくさんしよう!色んなところ遊びに行って、美味しいものたくさん食べよう!」
笑顔で話す僕。
そんな僕を見て、ひかるは突然真剣な表情で
僕の握っていた手を強く握りしめた。
「理央があかりのことを好きでも、大丈夫。私が……私が、絶対にあなたを守るから。」
…守る?
あかりちゃんから僕を?
…どうしてだ?
「守るって……どういうこと?ひかる」
「…いずれ分かるわ。さぁ、もう話は終わったでしょ?お昼ご飯にしましょ」
ひかるは僕から手を離し、座り始めてお弁当箱を開いた。
僕はひかるの言ったことがどういうことなのか、理解できなかった。
「どういうことなの?ひかる」
僕はひかるに聞いた。
だけど、ひかるはお弁当を食べ始め、それ以上は何も話してくれない。
…あかりちゃんが僕に何かしてくるってこと?
そんなまさか。今朝だってあかりちゃんは僕と仲良くなりたいって言ってくれてたし。
…やっぱり全然どういうことか分からない。
まあ、気にしなくていいか。
ひかるとちゃんとした友達になれたんだし。
僕はそれ以上気にするのをやめることにした。
──ガチャッ
すると、突然屋上のドアが開いた。
「あ、いたいたー!ひかると理央くん」
そこにはあかりちゃんが立っていて、僕らの顔を見ると笑顔で駆け寄ってくる。
「探したよー!私も一緒にお昼、いいかな?」
そして、僕とひかるの前に座った。




