登校
家を出て、あかりちゃんと一緒に駅へ向かう。
まさか、こんな素晴らしいイベントが来るなんて。
僕は神様に感謝した。
「ねえねえ、理央くん」
「は、はい!何でしょう!?」
緊張しすぎて声が裏返ってしまった。
あかりちゃんは手を口に当てながら笑った。
「理央くんて面白いね」
別に面白いことをしたつもりはないのだが、あかりちゃんが笑ってくれたことに喜びを感じる僕。
「そ、そんなことないよ……で、ど、どうしたの?」
「あ、えっとね…理央くんって…好きな子とか、いるの?」
「……はいっ!?」
上目遣いで僕を見つめるあかりちゃん。
ど、ど、どういうことだ…?何でそんなことを聞くんだ…?な、なんて返せばいいんだ?
「あ…え、えっと、いや、好きな…子?」
僕は目をぐるぐるさせながら返す。
あかりちゃんは上目遣いで僕を見つめたままだ。
「そう……好きな子。いる?」
──います。目の前に。
でも、そんなこと言えるわけない…。
「い、い、いや……いない…かな?」
なんて返そうか真剣に悩んだ結果、僕はそう答えた。
するとあかりちゃんは、ぱあっと笑顔になり僕に抱きついてきた。
「ちょっ!?ちょ、ちょっとあかりちゃん!?」
「良かったあ……!えへへ」
あかりちゃんは僕に抱きつき、頬を赤らめながら嬉しそうな表情をしている。
──え?何これどういうこと?
ここって……もしかして、天国?
僕は驚きと嬉しさで固まってしまった。
「……本当に、良かったあ」
そう言いながら微笑んでいるあかりの目の奥は真っ黒で、偽物の笑顔だということに──理央は気づいていなかった。
そして、抱きつきながらこっそり“ある物”を理央の鞄の中に入れたことにも。
「あ、ごめんね理央くん。急に抱きついて…」
僕からゆっくり離れるあかりちゃん。
あかりちゃんが僕から離れたことで、僕はようやく我に返った。
「それじゃ、行こっか」
あかりちゃんはにっこり笑いながら僕の手を握り、歩き出す。
僕に好きな人がいないということを喜び、そして抱きつき、しかも今手を繋いでいる……。
これって、もう完全に脈アリなのでは…!?
結局僕とあかりちゃんは駅に着くまでずっと手を繋いでいた。
僕は、あかりちゃんの体温で温かくなった右手に幸せを感じていたのだった。




