訪問
──その頃、ひかるの家。
ひかるは机の上にある物を全部投げ飛ばした。
「あぁっ…クソッ、クソッ、クソ…」
頭を抱えながらしゃがみこみ、ぶつぶつと呟く。
…まさかこれを見られるなんて。
理央には見られたくなかったのに…!
いや、でもまだ全てを知られたわけじゃない。
大丈夫。まだ大丈夫よ。
「このまま、うまくやらないと…」
絶対にこの事を知られてはいけないわ。
せっかく出来た友達だもの。
また、昔みたいには……なりたくない。
“ピンポーーーン”
突然、チャイムが鳴る。
ひかるは立ち上がり、玄関へ向かった。
ドアを開ける。
そこにいたのは────…
「ひかる。今日は、理央くんと楽しかった?」
──あかりが笑顔で立っていた。
「…何の用?」
「気づかなかった?ずっと跡をつけてたの」
「もちろん気づいてたわよ。コンビニへ行って公園に行った時から…ていうか最初からつけてきてたでしょ?」
「さっすがひかる!すごーい!!大正解!」
あかりは満面の笑みで手を叩きながら言う。
ひかると理央が放課後デートを楽しんでる時。
何と、あかりはずっと後をつけてきていたのだ。
あかりはずっと──こっそり陰から見ていた。
「ストーカーなんて趣味が悪いわよね、本当」
ひかるはあかりを睨みつけながら言う。
それでもあかりは笑顔を崩さず、ひかるの両手を握って答えた。
「ねえ…ひかる?あの男と、どうして仲良くするの?あの男………殺していい?」
満面の笑み。だけど、目の奥は笑っていなかった。
──真っ黒だ。こいつの目の奥は、真っ黒に染まっている。
ひかるはそう思いながら、あかりの手を振り払った。
「理央を殺すなら、あんたを殺す。やっとできた私の初めての友達……あんたの好きにはさせない」
そう言うひかるを、あかりはきょとんとした顔で見つめる。
そして、またすぐにいつもの笑顔に戻り、ポケットからナイフを取り出し、ひかるに見せた。
「ひかるはまだ分かってないんだよ…私の覚悟を。あんまりあの男が調子に乗るなら、これ使うことになっちゃうから。分かった?」
そしてナイフをポケットにしまい、手をふりながら玄関のドアを閉め、去って行った。
ひかるはあかりが去って行ったあと、無表情で立ち尽くしたままだったが、我に返り、玄関のドアを思い切り蹴った。
「…“今回は”…絶対、友達を守る……」
絶対にもう繰り返さない。
私は、私の手で彼を守る。
ひかるは、そう決意したのだった。




