罪悪感
駅前の広場に着き、クレープ屋へ行った。
チョコバナナクレープとベーコンレタスクレープを買い、ひかるにチョコバナナクレープを渡す。
ひかるは興味深そうな顔をしてチョコバナナクレープを見て、ひと口食べると目をきらきら輝かせた。
「…おいしい」
「でしょ!よかったぁ」
「そっちも食べたいわ」
「いいよ。はい」
ひかるはベーコンレタスクレープもひと口食べると、驚いたような表情をした。
「これは…しょっぱいタイプなのね。これも美味しいわ」
「どっちが好みだった?」
「そうね…どっちも美味しい。選べない。どっちも食べたい」
ひかるはチョコバナナクレープとベーコンレタスクレープを両手に持ちながら、じーっと僕を見つめながら言った。
なんだかただの子供にしか見えなくて、僕は笑った。
「いいよいいよ、どっちも食べて!」
「…!ありがとう」
こう見えて本当食いしん坊なんだなあ、ひかる。
でも美味しそうに食べるひかるを見てるだけで何だか僕もお腹いっぱいだ。
あかりちゃん目当てで、ひかると仲良くなる為に放課後の遊びに誘ったけど…
僕、何だか普通に楽しんでるな。
ていうかこれ、遊びっていうか…
デート…なのでは!?
「ごちそうさま」
「え!?もう食べたの!?」
「うん。さて、お腹いっぱいになったら眠くなってきたし…そろそろ帰りましょう」
「あ、あぁ…うん、分かった…」
なんてマイペースな。
結局今日したことと言えば肉まんとあんまん食べてチョコバナナクレープとベーコンレタスクレープ食べただけだぞ!しかも全部食べたのはひかるだし。
でも楽しかったし、いっか。
「あ、そうだ。何だかんだもう外暗いし、ひかるの家まで送っていくよ」
「別にいいわよ。1人で帰れる」
「いやっ!いやいや!送らせてください!」
「…まぁ、分かったわ」
よし!このままバイバイするより家まで送った方が友達っぽいしいろいろ話せる!
そんなこんなで僕はひかるを家まで送ることにした。
電車に乗ること約10分。
ひかるの家の最寄り駅に着いた。
ひかるの家は駅から徒歩5分圏内にあるらしい。
「今日は美味しいものたくさん食べれて楽しかったわ。ありがとう」
「いや、僕も楽しかったよ!」
「誰かと外で何かを買って食べる、だなんてしたことなかったし…初めて食べるものばかりで新鮮だった」
一瞬聞こうか迷ったけど、どうしても気になって僕は聞いた。
「…ひかるってさ。中学生の頃とか…友達とかって…」
僕の質問にひかるは無表情のまま答える。
「いた事ないわ。というか…今まで1度も」
「…今現在友達ゼロの僕に言われてもって感じだろうけど…友達とか、欲しくなかったの?」
「そうね。周りの子達はみんな私のことを嫌がっていたから、欲しかったけど出来なかったって感じかしら」
「えっ…あ、ご、ごめん…」
やっぱり、デリカシーないこと聞いてしまった。
「別にいいわ。今だってそうじゃない。クラスであなた以外の人たちは、私と仲良くなりたいだなんて思ってないこと…分かるでしょ?」
…そういえばこの二ヶ月間、最初こそひかるに話しかける人達はいたけど、みんな“あかりちゃんの妹なんでしょ?” “あかりちゃんって子供の頃どうだった?”とか…あかりちゃんに対する話ばかりだった。
本気でひかるに興味を持ってる人は、いなかったように思える。
とはいえ僕だって、本心はあかりちゃんと仲良くなりたいからという理由だ。
ひかるはこの事に気づいてないんだ。
僕はなんだかすごく罪悪感を感じた。
僕が考えてること、今してること、全部ひかるが知ったら傷つくかもしれない。
「でも、あのとき…理央がわたしと話したいって言ってくれたこと。すごく嬉しかったの。だから友達になりたいって思った」
──ひかるのその言葉で、僕は自分で自分を殺したいぐらいに、自分が嫌になった。




