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【本編完結】百合ゲーのサブヒロインに転生したので、全力で推しを守りたい!  作者: 長月
百合ゲーのサブヒロインに転生したので、全力で推しを守りたい!
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3・あなた、そんなキャラでしたか?

 ゲーム『未完成ラプソディ』での杉村詩織は、主人公・葵の部活の二年生で、おちゃめで面倒見のいい先輩キャラだった。それはつまり、主人公に興味をもっているからこそ、ちょっかいをかけたり面倒を見ていたということに他ならない。振り向いてほしいから、ちょっとしたイタズラをしかけるのだし、意識しているからこそ手を差し伸べることも出来る。

 いつから気持ちを向けていたのかはゲーム内で描かれていなかったが、出会ってから惹かれるまでに多くの時間は必要としなかっただろう。少なくとも、詩織ルートでは。

 そんな先輩キャラだった彼女だが、ゲーム中盤の恋愛フラグが立った後からは見せる顔が少しずつ変わってくる。簡単に言うと『あなたには本当の私を知ってほしいの』という、年上甘えんぼ属性が発動するのだ。大人っぽい容姿としっかり者の性格ゆえに頼られる側でいた彼女の、他の誰にも見せなかった顔を見せられた葵は、いわゆるギャップ萌えで落ちる。

 しかし、そんなゲームでの流れもキャラ設定も、今の私にとっては当てはまらない。なぜなら『本当の私』なんていう思春期特有の考えは、すでに一度二十代半ばまで生きた記憶のある私にとって、とっくに通り越してしまった黒歴史でしかないのだから。今の『杉村詩織』は人に頼り頼られ、甘えたくなったら適当に甘えるし、何より新たな百合を追い求めるのに忙しい。本当も何も、長所短所全部をひっくるめて『私』だと、今ならそう思える。

 ゲームでの葵×詩織は、詩織が葵を好きになったからこそ発生したルートだ。葵×こはるも同じだろう。もしかしたら、葵は押しに弱いのかもしれない。

 だが、紗良ルートだけは別だ。紗良にだけは葵から積極的に関わっていって、最初は迷惑そうにしている紗良の心を徐々に開いていき、好感度が上がりきったところで告白イベントが発生する。

 ここで重要なのは、紗良が『最初は迷惑そうにしている』というところだ。少なくとも、ゲーム内での紗良は人懐っこい性格ではなかった。誘いには乗ってこないし、会話も続かず塩対応もいいところ。最初から「会いたいと思ってた」なんて素直に言ってくれる子なら、攻略であんなに苦労しなかっただろう。

 それが……なんで?

 隣でニコニコと嬉しそうにしている紗良は可愛いが、私の頭の中は疑問符だらけになっていた。


「すごい偶然。藤岡さんもこの路線の電車だったのね」


 確かに、この路線は椿ヶ丘の生徒も百合ノ宮の生徒も利用する。うちの学校にはもう一本別の路線やバス通学の生徒がいるが、葵やこはるが利用するのも多分この路線だ。

 ……まずいな、昨日の出会いを阻止したことで安心していたけれど、もしかしたら電車で二人が出会ってしまう可能性があるんじゃないだろうか。そんな不吉な考えがよぎって、私の背中に嫌な汗が流れた。


「バス通学も出来るんだけど、電車通学もあんまり時間が変わらないから一度こっちも乗ってみようかなって。早く乗りすぎたって思ってたけど、これに乗って正解だった!」

「ああ、なるほど。私もね、いつもはこれより二本遅い電車なんだけど、早起きしすぎて暇だったからこれに乗ったのよ。それで、バスと電車はどっちが良さそう?」


 もしかしたら、ゲームでの紗良はバス通学だったのかもしれない。もし紗良がこの電車で通学していたなら、一緒に下校しそうなエピソードがいくつかあったはずだ。きっと紗良は初日だけ電車通学をしてみて、バス通学を選ぶのだろう。


「まだ帰りも乗ってみてから決める予定だけど、朝はあんまり変わらないっぽい。でも、杉村さんと一緒なら電車通学もいいなぁ」

「そう?」


 なんだか随分と懐いてくれたわね、この子。嬉しいけど。すっごく嬉しいけど!


「うん、決めた。電車通学にする! ねえ、私も明日から二本遅いのに乗ってもいい?」

「い、いいわよ。乗る車両は今日と同じだから、明日からよろしくね」

「やったぁ、ありがとう!」


 この流れで断れるわけがない。申し出自体はとても嬉しいし、無邪気に喜ぶ紗良はとても可愛いのだけど、――気付いてしまった。もしかして今、私が紗良の運命を変えてしまったのでは?

 バス通学を選択して葵とは接点のない未来を歩むはずだったのに、今朝私と会ってしまったばかりに葵との遭遇の可能性を作ってしまった。もしかしたら、ゲームの強制力みたいなものが働いて二人を巡り合わせようとしているのかもしれない。そうだ、不思議なほど紗良が私に好意を持ってくれているのも、そのせいじゃないだろうか。


(ああ、これは油断出来なくなってきたなぁ)


 これはもう、葵とこはるがくっつくまで責任をもって守るしかあるまい。下校時はどうしようもないが、せめて登校時くらいは彼女のナイトになろうと、私はひっそり心に誓った。


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