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【本編完結】百合ゲーのサブヒロインに転生したので、全力で推しを守りたい!  作者: 長月
百合ゲーのサブヒロインに転生したので、全力で推しを守りたい!
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19・借りは返す主義ですので

 紗良の抱えていた問題もひと段落して、細々とした面倒事はあれども平和な日々を送っていた私だが、ひとつだけ忘れていた……いや、忘れていたかったことがあった。

 もうすぐ7月に入ろうかというある日、残念なことにその記憶を掘り起こされることになる。


「そういえば、詩織の胸は服の上からならオッケーなんだっけ?」


 誰の言葉かなんて、説明する必要もないだろう。こんな最低な発言をする人、私の周りには一人しかいない。


「いろいろとツッコミどころが多いけど、オッケーなわけないでしょ」

「えー、だってー、私ちゃんと詩織のお願い聞いたんだけどなー。何もお礼してもらってないし、中途半端な口約束だったとはいえ、約束も守ってもらえないなんてなー。詩織がそんな子だったなんて! 陽子悲しい!!」

「何よ、その謎のぶりっ子キャラ……」


 あまりにも棒読みなぶりっ子口調に気が抜けたが、言ってることはもっともなので困った。これはいよいよ私の胸も年貢の納め時か。

 これまで散々「胸揉ませて!」と言ってきたが実行に移したことがなかったから、彼女にとっては挨拶代りの冗談だと完全に油断していた。


「もしくは、胸がダメなら身体で払って」

「一緒でしょ! むしろグレードアップしてない!?」


 笑顔で付け足された言葉に思いっきりツッコミを入れると、「やだなー、詩織ってばムッツリさん。労働で返してって意味なのに、どういう意味だと思ったのー? ねえねえ、教えて〜?」と、生き生きとウザ絡みしてくる。

 何この人、今日は一段と鬱陶しい。めんどくさい。いっそ踏み倒してやろうかしら。


「もう、言いたいことがあるなら遠回しじゃなくて普通に言ってよ。何か手伝ってほしいってこと?」

「ピンポンピンポーン! さすが詩織、話が早くて助かるなぁ」

「はいはい。それで、何を手伝えばいいの? 借りはちゃんと返すわよ」


 力を貸してもらって助かったのは本当だし、お礼に何かするのはやぶさかではない。そこに胸やら体やらが絡まない普通の手伝いならば。


「簡単なことだよ。文化祭まで生徒会を手伝ってほしいなって」


 普通の手伝いだけど、思ったよりハードなお願いですね!?


「えっと、もう少し具体的に……」

「会長から、人手が足りないからよく働く真面目な奴隷を……人材を連れてこいとお達しがあってね」

「今、奴隷って言ったわよね!?」

「私の性奴隷でもいいよ」

「なってたまるかー!」


 ああもう、ツッコミが追いつかない。何の話だっけ? あ、生徒会で馬車馬のように働いて借りを返せって話だっけ? 違う、いや、おおむね合ってる?


「文化祭までって、夏休み挟んで三ヶ月も先じゃない。まだクラスの文化祭委員も決めてないのに」

「生徒会はクラスが準備するための準備から始めるからねー。実はもう始めてるんだよ」


 マジか。そういえば、昼休みとか放課後にもちょいちょい生徒会行くって言ってたわね。頼み事する時もサボらせたっけ。


「せっかく貸しがあるんだから、有効に取り立てないとね。何と言っても首席様だし、有能なのは保証済み」

「首席とってからロクなことないわね……」

「詩織の選択肢は三つ。一つ目は生徒会の奴隷。二つ目は私の性奴隷。三つ目は水着でミスコンに出てもらう」

「一つ目でお願いします」


 というか、実質一つしか選択肢なかったじゃないの。大体、何よミスコンって。去年の文化祭はそんなのなかったはずだ。時代錯誤もいいとこでしょ、ミスコンだなんて。

 さては陽子がねじ込んだな。このセクハラ魔人ならやりかねない。


「はい、ありがとうございまーす。じゃあ、今日の放課後にでも早速顔合わせに来てよ」

「…………わかったわよ」


 借りを返すつもりはあるのだ。それがちょっと思ったより面倒な仕事だったというだけで。

 陽子の手助けがなければ紗良の状況が改善することはなかっただろうし、そもそも窮状を知ることすらなかったのだから、本当に感謝している。感謝はしているのだ。

 しかし、感謝はしていても、もう少し他にやりようはなかったのかと思ってしまう。


「あ、それとミスコンは私の希望だったんだけど、会長に却下されたんだった」

「ちょっともう、人をおちょくるのもいい加減にしなさいよ!」


 こうしてまんまと掌の上で転がされた私は、しばらく生徒会のお手伝い要員になったのだった。



※ ※ ※ ※




 百合ノ宮の生徒会室は、旧校舎の三階にある。

 一階に職員室や保健室、二階に図書室、三階に生徒会室。他は準備室や空き教室になっており、建物が古いせいで夏は暑くて冬は寒い。地下には倉庫があるのだが、そこに降りていく薄暗い階段は生徒の間で密かな肝試しスポットになってるらしい。絶対に近づきたくない。


「会長、奴隷一人連れてきました~!」

「おっ、よくやった陽子!」

「帰ってもいいかしら……」


 生徒会室に入った第一声がそれかと、ドアを潜る前に回れ右をしたくなる。陽子はともかく、会長からも似たような匂いを感じるのは気のせいだろうか。

 人を食ったような性格の持ち主は、一人で充分どころかすでに手に余っているのだけど。


「あはは、ごめんね。嬉しすぎて、つい。私は会長の北条。頼りにしてるよ、杉村さん」

「二年の杉村詩織です。よろしくお願いします」


 前に教室に陽子を呼びにきた時にも見かけたし、全校集会でも姿を見ることはあったが、間近で見る北条会長は凛々しい雰囲気の美人で、イメージ的には演劇部で男役とかをしたら似合いそうな人だと思った。

 声もやや低めのアルトで、口調も勇ましいので余計にそれらしく感じる。女子高の王子様って感じで、同性にモテそうだ。


「最初は慣れないだろうから、わからないことは遠慮なくどんどん聞いて。今やってるのは文化祭実行委員に渡すためのプリント作りや、近隣住民への挨拶の担当決め、昨年の資料の見直しと仕分け……ってとこか」

「へえ、ご近所に挨拶なんてするんですね。生徒会の仕事って、あまり知りませんでした」

「学校によっては教師がやるみたいだけど、うちの学校は生徒の自由と自立を謳ってるからね。よそと比べても仕事量が多いんだよ」


 これでもまだほんの一部だと、遠い目をした会長がぼやく。

 身近な生徒会役員の陽子があんなだから、これまで生徒会の仕事に大変なイメージなんて持っていなかったけど、知らないところで随分と頑張ってくれていたようだ。


「本当のところ、教師の仕事を減らしたいだけなんじゃないかとも思ってる」

「それ、ぶっちゃけ過ぎですよね」

「愚痴りたくなるくらいに忙しいってことだよ。だから、手伝ってもらえるのは本当にありがたいんだ」


 成り行きで手伝うことになっただけだが、歓迎されると少しは頑張ろうと思わなくもない。私もなかなか単純だ。

 ちなみに、生徒会長はゲームに登場しない。少なくとも、私は覚えていない。


 大体、ゲームでの『詩織』は生徒会の手伝いなんて引き受けていないのだ。彼女のルートでは、文化祭までの放課後は『葵』と一緒に仲良く絵を描き、文化祭当日は『葵』のクラスのメイド喫茶に遊びに行ってちょっかいを出したり、一緒に写真を撮ったりしていた。

 そして、後夜祭では二人きりの美術室から運動場のキャンプファイヤーを見下ろし、告白イベからのキスシーンが発生する。

 ちなみに、『こはる』ルートでは、一緒に文化祭を回り、後夜祭では一緒にマイムマイムを踊った後、やはり告白イベとキスシーンの流れ。紗良ルートだと、文化祭はスルーだ。


 何が言いたいかというと、こうして文化祭ひとつ取っても、現実とゲームのシナリオとでは少しずつズレ始めている。これがいいことなのかは、まだわからないけれど。

読んで下さってありがとうございます。

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