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【本編完結】百合ゲーのサブヒロインに転生したので、全力で推しを守りたい!  作者: 長月
百合ゲーのサブヒロインに転生したら、推しが恋人になりました!
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1・幸せな口づけ(前編)【紗良視点】

「ねえ、もっとしたい」


 もう何度目かの口づけの後、可愛い人が私を誘う。溢れる色気を全身にまとい、物欲しそうに強請るその様は、もはや凶器と言っていいだろう。

 わかってる。この人は私みたいにキス以上のことを望んでるわけじゃなくて、もっとキスがしたいと言ってるだけだ。その証拠に、彼女の瞳は私の唇にまっすぐ注がれている。ちゃんとわかってる。

 ──でも、


「詩織さん……!」


 いくら私が彼女を大事にしたいと願っていても、さすがに限度がある。

 こんな暴力的な色気を振りまいて密着してくる恋人に、抗える人なんて存在するのだろうか。いたとしたら、その鋼鉄製の理性の持ち主を尊敬する。

 貪るように唇を重ね、勢いのままソファに彼女を押し倒す。抵抗はなかった。時々漏れ聞こえる艶めいた声に、頭の芯まで痺れてバカになりそうだ。


「ん、はっ、紗良……」


 苦しげな声にハッと我に返り、声の主を確認すると、すっかり蕩けた表情で息を荒げ、潤んだ瞳が見上げていた。

 ああ、ダメだ。こんなの、我慢できるわけない。というか、しなくてもいいんじゃないだろうか。だって、私たちはもう恋人同士なのだから。


「……いい?」


 頬に触れ、思いきって聞いた私に、詩織さんが柔らかな笑みを返す。

 それを肯定と受け取った私は──



※ ※ ※ ※ ※



 聞きなれたスマホのアラームで、夢の世界から現実へと帰ってきた。帰ってきてしまった。


「……もう少しだったのにぃ」


 強制的に現実へと引き戻したアラームを恨めしい気持ちで解除して、そのまま枕に顔を埋める。このまま二度寝すれば続きが見れるだろうか。あの続きをあと30分、せめて15分だけでも見たい。

 しかし、残念ながら目はすっかり覚めてしまい、このまま夢の世界へと戻れる感覚は全くなかった。


「はぁ、起きるか」


 ノロノロとベッドから起き上がる。そんなわけないのはわかっているんだけど、詩織さんの気配がある気がして、なんとも名残惜しい気持ちだ。ベッドに残る熱は、自分一人のものだというのに。

 それにしても、今朝の夢は完全に私の欲を形にしたものだった。まだ付き合い始めて一週間も経っていないのにこんな夢を見るなんて、私はかなり欲深いらしい。

 付き合い始めに、詩織さんを大事にするなんて宣言しておきながら、本音はこれだ。もちろん、大事にはする。大事に大事に愛したい。


「よりによって、こんな日にこんな夢を見るなんて」


 カレンダーの今日の日付には、『花火デート』と書かれ花丸がついている。最初は花火としか書いてなかったのを、付き合って浮かれた勢いで『デート』と花丸を書き足したのだ。

 初デート、花火大会、浴衣姿。こんなのときめくに決まってるのに、あんな夢を見てしまったら、絶対に意識しちゃうじゃないか!


「もぉぉぉ、詩織さんのバカー!」


 寝起きの水を一気に飲み干し、ここにはいない彼女に八つ当たりをする。

 だって、私がこんな夢を見たのだって、半分くらいは詩織さんが煽りに煽ってくるせいだ。無自覚に! 天然で!

 まだ数日のお付き合いとはいえ、部活の帰りに寄ってもらってお喋りしたり、部活を休んでここで一日過ごしたりと、ほぼ毎日会っている。

 会うこと自体は嬉しいのだが、問題は詩織さんが意外なほどにキスが好きだったことだ。いや、キスは私もしたいし、それも問題ない。

 最大の問題は、キスの直後の詩織さんの反応! 何回もキスしているのに、その度にまるで初めてキスしたみたいに顔を赤らめて、それはもう幸せそうに微笑むのだ。

 あれはヤバい! 子供のような純粋さで、凶悪なまでの色気を振りまいてくるあの人に、私が何度頭を抱えたことか!


「まだ早い、まだ早い。……詩織さん結構ピュアだし、ゆっくり進めないと」


 焦らず、がっつかず、ちゃんと段階を踏んで、今日も健全な花火デートをする。

 現在の時刻は8時15分。詩織さんが来るのは午後だから、もうしばらく時間はある。

 それまでに、この色ボケた頭と熱を少しでも冷ましておかないと。



※ ※ ※ ※ ※



「おはよう、紗良」


 朗らかに笑って挨拶する詩織さんは、今日も綺麗だ。外は猛暑で、室内は冷房が効いているのに、彼女の周りだけが春のように心地よく温かい。

 もしかしたら、これも色ボケの副作用だろうか。


 靴を脱ぎ、部屋に上がった彼女がスッと私に近づいて、頬に口づけた。練習の成果か、初めての時のように不恰好な音は鳴らなくなったけど、まだ少しだけ不恰好なリップ音に不満げな顔をしているところも可愛い。

 私としては、いくらでも頬を練習台にしてくれていいんだけど、どうやら彼女の中でチャレンジは一日一回と決まっているらしく、二回目のキスは必ず口にしてくる。

 まるで欧米の挨拶のように口づけてくるくせに、その後の反応だけが未だに初々しいものだから、毎回悶えさせられてしまっていた。


「詩織さん、まだ慣れない?」

「な、慣れたわよ、……少しは」


 あー、はい、可愛い。

 私の煩悩がビシビシと刺激されているけど、こんなウブな人に手なんて出せませんって。

 早く慣れてね、ともう一度短くキスしたら、「もうっ、だから慣れたってば!」と意地を張るけど、まだもう少しかかりそうだ。

 本当に早く慣れてほしい。私が『待て』をできるうちに。


「花火大会は7時半からだよね?」

「ええ、でもギリギリだと入場規制があるから、早めに行って夜店を回りましょうね」

「うん、私たこ焼き食べたいな」

「私も。出るのは予定通り4時頃でいい?」

「いいよー」


 準備時間を考えても、もう少し時間はある。ソファでお茶を飲みながらのんびりするが、二人の間の距離が前より少し近いのが、なんだかくすぐったい。

 女同士で付き合うって、キスとか諸々のエッチなこと以外は何が変わるのかなって思ってたけど、想像以上に全然違った。二人の距離とか、ふいに目が合った時の空気とか、一緒にいる時の多幸感とか。


「そういえば、詩織さんは浴衣着てこなかったんだね」


 てっきり着てくるものだと思っていたから、玄関を開けて洋服姿の彼女を見て、少しだけがっかりしてしまったのだ。


「早くから着てたら疲れちゃうし、着崩れたらいやだから。こっちで着替えさせてもらおうと思って、紙袋に入れてきたの」

「あ、そっか。じゃあ、帰りはこっちに一度寄るの?」

「紗良の迷惑にならなければそうしたいんだけど、いい?」

「もちろん!」


 迷惑どころか大歓迎だ。その方が、混雑した駅で慌ただしく解散なんてことをせず、詩織さんといっぱい一緒にいられるし。

 私の返事に「良かった」と詩織さんが微笑む。


「こうした方が紗良と長い時間一緒にいられるかなって、ちょっと思ってたから」


 だから嬉しいと、ちょっぴり恥ずかしそうに打ち明ける私の彼女が可愛すぎる!

 そっか、詩織さんって、付き合ったらこんな感じなんだ。好きな気持ちを表に出すようになった彼女は、ただただ甘くて可愛くて、こんな顔も隠し持っていたことに驚かされる。もちろん、嬉しい驚きだ。


「あのね、私も同じこと考えてた」


 同じ気持ちだと伝えると、口元をゆるゆるにして子供みたいな笑顔を見せるのはズルい。年上なのに、普段はしっかりしてるのに、こんなにも可愛いなんてどういうことだ。

 溢れる愛おしさを誤魔化すように不意打ちで重ねた唇は、吸いつくように柔らかく、信じられないくらい甘い。

 ああ、私もやっぱりまだ慣れてない。キスひとつで、こんなにも幸せで胸が満たされるんだから。

本編も終わり、ここからは付き合ってからの二人のお話になります。

甘すぎて本編とのギャップに驚くかもしれませんが、どうぞお付き合いください。


いつも読んで下さってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 胃が溶けそうです 続きをありがとうございます!!
[良い点] あまあまだ!良かった!本当にありがとうございます!
[良い点] 百合 [気になる点] このあとの事 [一言] ありがとう!
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