ねことあーと 3
ねこさんから許可も出たので、キティさんについてまわる事にした。
「いやぁ、改めて、来てくれてありがとう!」
「は、はあ……」
「私は君達がここに来てくれると確信していたよ!」
キティさんは快活な笑みを浮かべて楽しげに話している。
この口ぶり、やはり俺たちのことを知ってるのだろうか……
「おっ、と。この作品を見てくれるかい?これはな、こうやってスマホのライト機能で照らしてやると……」
そう言いながらキティさんは平たい台座の上のビー玉を照らす。すると、
『ウガァァァァァ!!!』
「おおっ!」
ビー玉は一瞬でライオンへと変化した。
「す、すごいです……」
これにはねこさんも感心したようだ。
確かにすごい作品だ、現代アートというか、デジタルな作品もあることがまずすごいな……
「さ、次はこれだよ!よく見ときな」
キティさんは今度は砂のようなサラサラの物質が入った透明の箱に取り付けられた赤いボタンを押す。
ボボボボン!!
「おわぁ!?」
「はっはっはっ!驚いたかい?」
ボタンを押すと水が箱の中に流れ出て来た。かと思えばいきなり爆発が起きたのだ。
「び、びっくりしました……」
ねこさんも思わず耳としっぽが張りつめていた。
うん、できるだけ速やかに隠してね。
「こいつは優れものなんだ。この砂があれば水だけで爆発を起こせる。まだ細かい火力調整が出来ないんだが、それが実現すれば車のエンジンやら発電所やらはこいつが必須になるさ!……こういう細かいのは正直日本人が上手でね、この展示が人気出ればそれをプレゼンにして日本企業に手伝ってもらおうかと思ってね。あ、これまだ秘密だよ?」
そう言ってキティさんは小さくウインクをする。
なるほど確かに、こういうのはニッソの上上津役さん辺りが気に入りそうだな。如月の球磨川さんも乗ってくるかも。
「今日は本当にありがとうございました。素晴らしいものをたくさん見せて頂けて楽しかったです」
「いやいやー!こちらこそ、いちいち反応が期待した通りで楽しかったよ!」
ねこさんがキティさんに礼を告げるとそれに応じてキティさんも笑顔で応えてくれる。
「そっちの兄ちゃんも楽しんでくれたかい?」
「はい、どれもかっこよくて見ていて飽きませんでした、最高です。まさに、COOLですね」
「お!そっかそっか、COOLか!嬉しいねえ」
クールかどうかを問われたら、間違いなくクールな作品ばかりだった。いい経験になったな。
「ところで……君達はどういう関係かな?あ、いや、恋人……で、間違いないのかい?」
「え?あ、えっと、はい……」
突然の質問に俺はつい弱気な返事をしてしまった。
うーん、まだ慣れないものなんだな……自分でもびっくりだ……
「へえ、なるほど……人間とねこの恋人関係かい」
……なん……だって……
や、やっぱり関係者なのか……!?
「っ!?」
ねこさんも驚きの表情で固まっている。いや、警戒しているのか。
「はは、そう警戒しないでくれよ。私達はあくまでクールな作品を作ることを目的とした集団だ。それにほとんどのメンバーは独自の活動をしているんだ。集団で襲ったりはしないさ。でもねえ……」
そこまで話したキティさんは一息ついて、途端にニヤリと何かを企むような笑みを浮かべる。
「クールな作品のためにクールなアノマリーが必要になる時もある、分かるだろう?」
その顔を見た瞬間に感じた恐怖、威圧、なにより強さは忘れることは出来ないだろう。
「いやー、すっかり長時間楽しんでしまいましたね」
「そうですね、ねこも自分で驚いています。美術館であそこまで楽しめるとは……」
俺とねこさんはお腹が空いていることも忘れて美術館で過ごしていたので、街を散歩がてら色々なところを巡り食べ歩きをしよう、ということになった。
整理された竹林、古風な街並み、食べ物店が多く並ぶ通路、かつての日本を見守っていたお偉いさんのお城。歩けるだけ歩いた。思い出のために写真もかなりの枚数を撮った。あとでスマホのデータ整理をしないとな。
俺は間違いなく幸せを感じていた。
こうしてねこさんと財団の外を手を繋いで歩き、写真を撮って消えない思い出を残す。それだけじゃない、ちょっとした会話、道中で話して笑いあった冗談、全てが愛しくかけがえのないものになった。
俺とねこさんは宿に戻り、また先に夕食をいただき、(この時思ったがねこさんは以外とたくさん食べるらしい。買い食いからさらに時間が経過し、歩き回ったとはいえ夕食を難なくペロリと平らげた)そして温泉に入った。
昨日あんな事があったのにまた内風呂を使うと言い出したねこさんには驚いた。しかも俺にはねこさんの強い願望を止められず結局内風呂に入浴、そこでまたあんな出来事が起きてしまうとは……
おかげで寝る時もねこさんを強く意識してしまい、ねこさんにそれを見抜かれた俺はねこさんにあんな話を聞かせることになり……まあねこさんのアレを聞けただけでも充分以上にお釣りが来るレベルだが……
まあその話はまた別の機会だ。
翌日。
俺は目を覚ます。
今日は休暇最終日だ、少しだけ遊びに出かけたらチェックアウトしてお土産でも買って帰ろう。
愛しのねこさんはどこだ?もしかしてもう起きて館内のどこかを歩いて探索しているのか?
など
考えて
隣を見ると
空になった布団に
一枚のメモ
「ねこはあずかった」
俺はこの世のものとは思えない絶叫を上げた。