ねことあーと
「「連休?」」
「ああ、君たちは最近色々と頑張ってくれているからね、連休……といっても三日間しかないのだが、休みをあげようと思って。どうだ、ゆっくりどこかへ出かけるのも良いだろう」
俺とねこさんが声をそろえて聞き返すと、部長は素敵な提案をしてくれた。
俺としてはむしろみんなに迷惑をかけたからみんなが休んで欲しいのだが……
と言ったら、部長は「順番で連休をあげるさ、まずはねこさんのアフターケアを頼むよ」と言ってくれた。ほんとホワイト企業だなここは。常に命の危機に晒されてるけどな。
「部長さん、ありがとうございます。ねこはとても嬉しいです」
と、ねこさんは大喜びしていた。
しかしお出かけ、かあ……どこへ行こうか……
「ねこさん、どこか行きたいとこはありますか?」
連休を貰えると聞いた日の夜、レストランを手伝いながらねこさんに聞いてみた。
「そうですね……ねこはあまり外の知識がないので……」
「それもそうですよね。うーん、どこにしようか……」
やっぱり俺がちゃんと選んであげるべきだよなあ。
「おーい、ねこさーん、お会計〜」
「はい、ただいま」
ねこさんはお会計のお話を聞きにホールへと向かった。
数分するとねこさんは帰ってきたのだが……
その目は爛々と輝き、表情は微かに興奮の色を示していた。
ん?なんだろうか……
「行きたいとこ、見つかりました。今の方が教えてくれたのです」
「ほう、それは良かったです。で、どこへ?」
「それはですね……」
-----数日後-----
「はい、お弁当とお箸です。それにしても駅弁はどうしてこう特別感があるのでしょう」
「お、ねこさんもそう思いますか。なぜか電車で食べる駅弁は、絶妙な幸福感がありますよね。これはもしや現象系オブジェクトでは?」
「ふふ、だとしたらとても可愛いSCPですね」
俺とねこさんはとある電車に乗っていた。
駅で少しお高い駅弁も買って行き道からすでに2人で盛り上がっていた。
「お、見てください、海が見えて来ましたよ」
「本当ですね。ねこは猫ではないので海は好きですよ」
「前にも言ってましたね、いいですよね海」
「はい、広くて冷たくて気持ちがいいので好きです」
「いい景色ですね……」
「なんだか……幻想的です……」
そうこう話しながらもなんだかんだ結構な時間乗っていた、ようやく目的地が近づいてきたようだ。
「それはですね……海辺の旅館です」
「旅館、ですか」
「はい、海がすぐ側にある上、なんと旅館には温泉があります。いかがでしょう」
ねこさんはお会計から帰ってくると、こんな提案をしてきた。
どうやら前にその人が行ったという話を聞いてきたらしい。
「いいですね、行きましょうか」
「やったぁ」
「えなにその反応ちょっと待って可愛いいやっちょええ、あっ」
というわけで今回の行き先が決まったのだった。
賑やかな街並みには周囲とは切り離されたかのような古風で雅な作りの建物が並び、周辺の宿泊客であろう人々が浴衣姿で散歩を楽しんでいた。
その全員がとてもいい笑顔で幸せな時間を過ごしていることが目に見えてわかった。
明るく笑い声や活気のいい声が飛び交う様子を見ていると、これから自分たちが過ごす時間もきっと素晴らしいものになるだろうと想像でき、俺とねこさんは自然と微笑んでいた。
「ふぃー、着きましたね」
「はい、駅からあまり遠くなくて良かったです。今日は暑いですね」
「はい、駅の売店でちおびたを買っておいて良かったです」
駅から数分歩いていくと件の旅館を見つけた。
チェックインしますか。
「ようこそ、お待ちしておりました」
中に入ると数名の仲居さんと思われる女性がお出迎えしてくれた。
さらに1人だけ着物の色が違う女性が声をかけてくれた。
「ようこそ、おこしやす。私はこの旅館の女将でございます。ご予約されてますやろか?せやったらお名前伺ってよろしいですか?」
「あ、はい、財団日本支部……」
「ああ、ああ、かしこまりました。いや、あなた方が財団からお越しの方々でしたか。この度は当館をご予約頂きありがとうございます」
お?まさか財団御用達なのか?
「んふふ、お兄さん、なんでウチが財団って聞いてすぐに分かったか、不思議や〜って顔してはるねえ。ウチは昔財団に救われた事があってね、それからもウチのこの旅館をみなさんにご愛顧頂いてるんやわあ」
「あ、そうだったんですか……」
「それにしても、えらい可愛らしい彼女さんやね」
「あぅ、っ、えっと、」
ねこさんは唐突に話の矛先が向けられた上に褒められて驚くやら恥ずかしいやらで困惑していた。
「んふふ。ほな、お部屋に案内します。靴はそちらの下駄箱に入れて、鍵板はなくさんように気ぃつけて持っといてくださいね」
「ありがとうございます」
俺とねこさんは女将さんの案内に着いていく。
「こちらがお二人のお部屋になります。温泉は24時間ご利用いただけますし、お食事もお好きな時間に申し付けくださいな。いつでもご用意させて頂きます」
「え、そんな、いいんですか」
「ええんですよ、他ならぬ財団の……それもこんな素敵なお客様なんやもの、張り切ってサービスさせて頂きます」
「ありがとうございます……」
至れり尽くせりだな。
「では、ごゆっくり」
そう言うと女将さんは音を立てないように襖を閉めて去っていった。
うーん、プロだな。
「……人間とアノマリーの純愛、ほんま……羨ましいわあ……それにお兄さんええ匂いしてはったわ。ウチも混ぜてもらえんやろか……なんてね」
部屋はとても豪華で俺とねこさんはそれだけで既にテンションMAXだ。
窓から見える景色は正に絶景。
海を一望でき、空気が気持ちいい。夜にここで景色を見ながらくつろげば最高の時間になるだろう。
また内風呂というのだろうか、部屋の中にも露天風呂がありそちらは旅館の裏庭のような部分が見えるようになっている。
旅館の前や大窓とはまた違い、木や花を近くでたくさん感じることが出来る、まさに露天風呂と言った感じだ。
「すごい……すごいです……」
ねこさんは耳としっぽをぴこぴこさせながら周囲を見回していた可愛い。
キョロキョロと色んなところが気になるのか視線をさまよわせ、可愛い、窓に小走りで駆け寄って海を眺めたり可愛い、露天風呂を少し開けて中を覗いてみたり可愛い、随分部屋が気に入ったようだった。可愛い。
俺とねこさんはある程度部屋の探索を楽しんだあと、荷物を整理して出かけることにした。
「ねこさん、まずは何からしたいですか」
「そうですね、街の散策もいいのですが……やはり海に行きたいですね」
「わかりました、では僕はあっちで着替えますから」
「はい。……覗いたらダメですよ」
「覗きませんから!?」
何を言っているのだこの俺が着替えを覗くだなんてそんなそもそも俺はそんな邪な気持ちはねこさんに嫌な思い全く無いわけではって何を言ってるんだ俺は!!ていっ!!
そういえば俺は曲がりなりにもねこさんの水着姿を1度見た事がある。
あの時は色々あってじっくりとは見ていないけれど……今回はどんな水着を着てくれるのだろうか。
「お待たせしました」
ねこさんの声だ。……って、あれ?
「ね、ねこさん?」
「はい」
「……どこですか?」
「ねこはここにいます」
「あ、襖の裏ですか……いやなんで……」
「だって……水着ですよ……」
「……あの、見たいんですけど」
「……欲望に素直ですね」
「ウッス」
「……笑わないでくださいね」
そう言って出てきたねこさああああああああぁぁぁ!?!?!?!?!?!?かわかっ、かっ、あっ、えっ、あえっ、おっうわぁえっ、可愛い!!!!!!!!!!!可愛い!!!!!!!!!!!
黒と白の細かいチェック柄のビキニタイプだが、胸元にはフリルが施されており、ねこさんがモジモジと身を捩らせる度にユラユラと揺れている。
白い肌が旅館の明かりに照らされてキラキラと輝いている。
というかよく見たら財団特製の水着だろうか?しっぽが上手に水着に収まっている。
猫耳は幸い肌も髪の毛も真っ白で分かりにくいので、「そういう髪型だ」とゴリ押しすれば大丈夫だろう。猫耳ヘアーが実在するのも確かだし。
列車では麦わら帽子を被せていたので問題なかったが、海ではそうもいかないので少し心配していたがこの分なら大丈夫そうだ。
「あ、あのっ、み、見つめすぎです……」
「あっ、いやっ、ご、ごめんなさい」
あまりにもねこさんがあまりにもだったのでついガン見してしまった。いやー、眼福。
「……どう、ですか……?」
「とても似合ってます、フリルが可愛くてねこさんにピッタリです」
「そ、それも嬉しいのですが……その……」
「は、はい……?」
「……ね、ねこの、か、身体は……どう、ですか……?あなたのこっ、好み……ですか?」
「ぶっ!?!?!?!?!?!?」
「あっ、いや!やっぱりいっ、今のなしで、おね、おっ、お願いします!あ、あの、あなたの事が好きすぎてつい、いや、あの、あわ、あわわわわ……」
エアコンで涼しいはずの室内で2人は変な汗をかくことになった。
「うわぁ……」
「綺麗です……」
俺とねこさんはアウターを羽織って海へと出かけた。
近くで見てみると水はとても透き通っていてきれいで、太陽光がキラキラと反射していた。
やはり海はとても広くどこまで続くようでそばによるだけでワクワクが止まらない。
「まずはストレッチをしましょうか」
ねこさんは準備運動を促してくる。
確かにいきなり海に入るのは危険、か。
「そうですね、といってもストレッチって何をしたら……学生時代に体育の授業でやっていたようなものでいいんですかね?」
「はい、おそらく大丈夫だと思いますよ」
ということで早速ストレッチすることにした。
腕を伸ばしー背筋を伸ばしー足の筋肉を伸ばしー
久しぶりにやるとなんだか気持ちがいい。
と思いつつふとねこさんの方を見ると……
「ぺたーん」
「おお……」
ねこさんは座って両足を開き、身体を前に寝かせてペタンと砂浜と一体化していた。
「柔らかいんですね」
「はい、やってみたら意外と出来ました」
「僕は身体が硬いので……」
「ふふ、やってみてくれませんか?」
ええー、本当に硬いんだよなあ。
「んぐ……ぐぐぐ……ぐぎがヴぎ……」
「ほ、本当にあまり倒せないんですね」
「あ、あはは……体育系はどうも……」
「ほら、ねこが後ろから押してあげます」
そう言ってねこさんは後ろに回った。
どうやら背中を押してくれるらしい、全くねこさんも意外とノリが良ががががぎぎぎがが!?!?!?!?
い、痛い!痛い痛い痛い!!!すごい痛い!!!何!?えなにヤダ!?ヤダこれなに!?痛いわよ!?
「おごごごごご!ねこさん、か、身体が裂ける!足が!持ってかれる!」
「え、あっ、す、すいません、強くやった方がストレッチ効果があると思って……」
いやまあ……そうかもしれないけど……
思いっきり押し込まれて危うく猫又のしっぽのように足が裂けていくところだった。
「…………あの」
「ハァ、ハァ、イテェ、あ、ねこさん?どうしました?」
「お、お詫び……です……」
顔を真っ赤にしたねこさんがそう呟くと、いきなり背後から抱きついてきた。
ファッ(死亡)
ねこさんの身体が俺の背中にのしかかる。
思い切り抱きつかれているはずなのにとても軽くまるで苦痛を感じない。
そしてなにより、その、柔らかい部分がいや、ほんとになにこれ柔らかい。ねこさんのまるで人間のような女性的部分が俺を責めてくる。
落ち着け、冷静になれ、理性を欠くな、獣になるな、ねこさんに嫌われたらおしまいだ、落ち着け、落ち着け……
俺は修行僧の気持ちになってねこさんの気が済むまでお詫びという名の追加拷問を耐えきった。