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紅頭巾

紅頭巾Ⅴ ~フロールと一番星~

作者: サッソウ

前後編にするか分割するかどうか考えつつも、1話の短編として投稿することにしました。前回の『Ⅲ・Ⅳ』があまりにも長かったのですが、今回の『Ⅴ』は短くお送りします。よろしくお願いします。

 紅色の頭巾を身につけた少女、フロールは、漁船に乗っていた。同乗者は、幼馴染みの男の子、シェイ。呪詛石によって熊の姿となった元人間の熊沢。フロールの父親であるパドレ。そして、最近仲間に加わったミニドラゴンのレドラン。4人と1頭と1匹は船で、ある島を目指していた。


 ロートン国のウィンターウィーク。通称、W.W.などと言われる冬の大型連休。8日間のうち今日は7日目になる。

 今回のおつかいは、フラワーショップ・紅の店長であり、呪詛石により姿を変えられたラオの夢を叶えることが目的である。ラオの夢は、幻の花を自分の目で見ることであった。キーワードは"幻の花"と"幻と言われる花畑"である。これらはラオの手帳に記されてあった。


 義理の兄が営む”熊沢書店”で、関係ありそうな書物を熊沢が購入していた。兄は、弟にだけ立ち読みを禁止している。嫌がらせではなく、書店で店員が立ち読みなど許されないからだ。少なくとも、熊沢書店では……。強制的に購入させられた本の1つに、このような記載があった。

 <"幻といわれる花畑"は地元の人々から"ファントムガーデン"と呼ばれている。>

 直訳で幻の庭。さらに、その本にはこう(つづ)られていた。

<その庭は、その昔ある人物が所持していた。だが後に所有者が行方不明となり、庭の手入れはされていない。何しろその庭への道のりが過酷であるからだ。>

 過酷。それはどのくらいのものなのか。フロール達はまだ知らない。



 フロール達は、船でファントムガーデンがあるとされる島を目指す。元々は、ある国が所有していた島だが、住む人がいなくなり、無人島となると船の往来がゼロとなった。いつしか時が流れ、島の周囲の海流が乱れ、島へは船での上陸が不可能となった。さらに、上空の気流も次第に乱れて、空からの上陸方法も失った。過去、上陸を試みる者が現れても、それは全て失敗に終わった。

 島への上陸がまず1つ目のミッションだろう。2つ目は花畑までの道のり、3つ目は花畑で花の捜索、最後は帰り道。既に島を見つけることをクリア。果たして無事に帰れるか。

 と、不安要素を並べてみたが、魔法を使えるのだから苦労は少ないだろう。


 フロールの魔法で多少苦戦しつつも、島への上陸に成功した。

「思ったよりも、上陸するまで時間がかかりましたね」

 熊沢は、島の海岸から海の方を眺めてそう言った。数時間で夕日になりそうだ。

「そのこともあって、魔力が回復した結果、上陸時に船が無傷だったから、いいことだろ」

 シェイは海岸に落ちている貝殻を拾った。少々機嫌が悪いようだ。龍との戦闘から時間は経っているが、魔力が全快しているわけでは無い。

「フロールの親父さんには内緒だからな。って言ってもお前なら言いそうな気がするが……」

 若干後悔するシェイであった。パドレとフロールは、探索の間を含め、砂の上に着地した漁船をどうするか、相談中だ。そのため、この2人の会話は聞こえていない。

「なんか、イライラしてます?」

 熊沢は恐る恐る問うと、シェイは答えなかった。しかし、直接「イライラしてる?」と聞かれることの方がかえって不機嫌になるのでは……。

「もしかして、レドランがお嬢ちゃんの周りを離れようとしないから、焼きもちを焼いてます? 正月ですし」

 熊沢なりの正月ボケだろうか。シェイは呆れて、

「もし熊にならなかったとしても、ブラック・コメットはすぐに売れなくなったかもな、そもそも、ロートン国に正月は無いだろ」


 島の地図はフロールの鳥使い魔法と写生魔法を組み合わせて、鳥瞰図(ちょうかんず)を作成した。なお、鳥瞰図は上空からではなく鳥の目線で見た地図のことである。

「便利な時代ですね」

 熊沢がそう呟いたが、カーナビやネットの地図ならまだしも、全てフロールの魔法であり、時代は関係ない。

「ズームとかもできますか?」

 熊沢がフロールから鳥瞰図を受け取り、タブレット端末のように操作しようとするが、反応なし。当たり前だが、この鳥瞰図はアナログで……

「熊の手には反応しないみたいだね」

 フロールは鳥瞰図をスクロールさせ、拡大縮小をしてみせる。

(可哀想な鳥だな……。あれじゃ、まるで人工衛星というより、無線操縦装置(ラジコン)か……)

 シェイは上空の鳥を見た。明らかに一羽だけ変則的な飛行を繰り返していた……。ちなみに、フロールのもとを少しも離れようとしないレドランは、まだ子ども。元国王だが、その記憶は全くない。新たに生まれ変わったという表現が適切だろうか。で、鳥瞰図ならぬ竜瞰図には、残念なことに失敗している。そもそも、一度チャレンジしているのか……


 さて、地図さえあれば、花畑まで余裕と思われていたが、鬱蒼(うっそう)と生い茂った木々が月の光を遮り、暗い雑木林が行く手を(はば)んだ。

 雑木林により上空からの地図が意味を無くしたのだ。地図というよりは、航空写真のようなものだったが。

 役目を終えた鳥は餌を食べて群れへと戻っていく。フロールが治癒魔法で元気のなかった鳥を回復させた。いや、元気の無かったという表現は不適切か。フロールは悪気があってしたわけではない。熊沢が飛んでいく鳥を見送りつつ

「あの鳥、肥満症っぽかったのに短時間でスリムになりましたよね」

 とはいえ、ダイエットとしてもオススメはできない。


 雑木林を雑談しながら歩くこと15分。茂みからネコが飛び出してきた!

「第一島民発見!」

 熊沢がネコを指差すと、ネコは一目散に逃げていく。フロールは熊沢に

「人に指を差しちゃだめでしょ」

 シェイは「そもそも人じゃないし」というツッコミはしなかった。明らかにネコだったが、呪詛石のことがあったのでスルー。


 ネコを見かけてから、不運が続いた。雑木林の木が突然倒れてきたり、果実が大量に落ちてきたり、落とし穴にはまったり、蜂に襲われたり、終いには巨大な岩が転げてきた。道に迷い、急勾配な坂をロッククライミングのように登山した。


 雑木林を抜けて、歩くと廃墟と化した町へと到着した。すでに辺りは暗い。もしかすると、日付が変わっているかもしれないほど。フロールが看板らしき物を見つけて、

「これ、何て読むのかなぁ?」

 魔法で翻訳できればいいのだが、翻訳魔法の使用者がその言語を知っていなければ、翻訳できない。さらに、看板を注意深く見ても、一部が(かす)れていて読めない。

 建物の隙間から草や苔が生えていた。時の経過を感じるが、町全体としては、人々が暮らしていた面影が、ちらほらと見受けられた。町の探索は(つか)の間の休息でもあった。


 町の探索の結果としては、数年前まで人が住んでいたことの他に、争いがあったことぐらいしか分からなかった。民間らしき建物内のテーブルに食器が並んでいた。食事の最中に何かが起こった。そう推測するのは当然だろう。ある一軒の建物から偶然発見した本により、町の謎はさらに深まる。本は日記のようで、村人達は何かに(おび)えていたらしい。

 探索は打ち切り。目的はファントムガーデンへ。さらに上を目指す必要があった。標高はそれほど高くはないし低くもない。

 町から15分ほど不運に見舞われながらも歩くと、門が見えてきた。門を開くとそこは別世界だった。

 フロールが最初に

()(れい)

「これがファントムガーデンですか」

 フロール達の目の前に広がる庭園。奥に屋敷があり、ここの持ち主の家だろう。入り口から見て右側にはさらに花畑が広がっている。フロールとレドランは花畑の方へ。パドレはフロールのあとに続く。熊沢もそちらへ行こうと思ったが、一人だけ屋敷へ向かうシェイのことが気になり、そっちへ向かう。

 屋敷の中は立派なもので、壁には絵画が飾られている。シェイは奥へ歩く。熊沢は

「シェイ君、どうしたんですか?」

「不思議だと思わないか? あの花畑といい、この屋敷も」

「そうですねぇ。個人的には綺麗で立派だとは思いますが」

「そうなんだよ。綺麗すぎるんだよ」

 熊沢はシェイの考えがまだ分からない様子だ。シェイは足を止め、一言

「まるで毎日誰かが手入れをしているみたいに……」

 シェイの考えは花畑の手入れをし、屋敷を掃除する人物がいるということだった。町は荒れ果てて人っ子一人いなかった。だが、この屋敷と花畑は綺麗に保たれている。

「ロボット掃除機……」

 と、熊沢は呟くも、内心どうせスルーされると思っていた。だけど、シェイは

「無きにしもあらずってところだな。ロボット掃除機とは言わず、自動制御とかで手入れされているなら……。いや、電源供給が無いな」

 電気なしでは機械は動かず。ロボット説は白紙。

 屋敷を探索するが、食事の形跡どころか、最近人が住んでいた形跡さえも見当たらなかった。

 だが、ある部屋に入ろうと扉を開けたあとシェイが黙り込んだ。熊沢はその部屋の中を見渡し、シェイよりも先に入ると

「靴……ですか」

 大量の靴が部屋に飾られていた。まるでこの部屋は靴屋みたいだ。

 シェイは靴を一足だけ手に持ち、その靴の裏を見ながら

「シューズ・ディーラのマーク……。間違いない、この靴は……いや、ここにあるほとんどの靴が靴屋シューズ・ディーラ製、俺のじいちゃんが作ったものだ……」

「えっ? つまり、ここの持ち主はシェイ君の祖父から大量に靴を購入したってことですか?」

「まだ分からない」

「シェイ君の祖父は……」

「ワーティブ・ディーラ」

 シェイは持つ靴を戻そうとすると、そこに写真があった。シェイはその写真を見て、

「……ここに写ってる」

 写真の中央に、シェイと同い年ぐらいの女の子が靴を持って笑顔で、その右には髭を生やして帽子を被る男性、ワーティブ・ディーラが同じく笑って写っていた。

「日付は……無いな」

 シェイの元気のなさそうな顔を見た熊沢は、何も言わず、部屋の奥にあるテーブルへと近づく。備え付けられている引き出しを開き、中を探しはじめる。しばらくして、一冊の本を発見し、中を確認した後、シェイに見せる。

「この屋敷の持ち主は"ハルキ"という名前の方のようです。このアルバムに写っているこの人がおそらく。引き出しから日記らしきモノも見つかりました」

 日記をシェイに渡すと、熊沢は部屋をさらに調べる。シェイは、熊沢から渡された本を捲って読んでみる。

「……名字は見当たらないが、自分の名前と多分娘の名前が出てる。娘の名前は"ナズサ"だな」

 日記は英語で書かれていた。内容は日常的なことばかりで情報にはならない。日付が書かれていない日記が最後で、そのページの文章は途中で止まっていた。

「毎日書いていたようじゃないから、日付ははっきりしないな」

 シェイは日記を閉じて机に置こうとしたとき、部屋の外、扉の方から女の子の声で

「そこで何をしているの!?」

 熊沢はとても驚いた様子で、手に持っていた書物が床にバラけ散る。一方、シェイはすぐに振り向いた。しかし、声のした方に人はいない。



 少し時間が前になり、シェイと熊沢が屋敷を調べ始めたころ、フロール達は花畑で目的の花を探していた。幻の花というだけで、どの花が正解なのか分からず、花畑を見回るだけで、もはやフロールとレドランは花畑を見に来た観光客のようである。

「フロール、ラオさんに花を持って帰るのじゃなかったのか?」

 お父さん、言うときは言う。フロールは花畑を見渡して

「どの花かわかんない!」

 フロールとレドランは楽しそうに花畑を駆けるのであった。確かに、この花畑に咲く花の種類は50種類を軽く超えるだろう。さらに微妙に品種が違うモノも含めると、もう数えることができない。

「全部持ち帰るとかは無理だからな」

 パドレは駆け回るフロールに叫ぶが、フロールはレドランと遊んでいる。

「花は持ち帰らないで」

 後ろから女の子の声がした。パドレは後ろを振り向くが、そこには誰もいない。

 一方、黄色の花を見つけたフロールが

「この花、綺麗だね。これにしようか?」

 と言い、花の(くき)(つか)もうとした瞬間、目の前を何かが横切った。

「花に触らないで!」

 何かがフロールの方に飛び掛かる! レドランはフロールを守ろうとそれに体当たりする。レドランが当たった何かは花畑の小道に倒れた。



 扉の前にいたのは人ではなく、

Cats(キャッツ)!?」

「どう見ても1匹だろ」

 熊沢のボケにシェイは即座にツッコミを入れた。複数の場合は"s"が必要だが、この場合は一匹なので、"キャッツ"ではなく"キャット"だろう。

 扉の前には猫がいた。外見はアメリカンショートヘアーに近いだろうか。

「何をしているの?」

 猫が喋ったが、こちらは熊が喋っているから驚くことはない。

「不法侵入して部屋を荒らして、何が目的なの!?」

 猫は声を(あら)らげて言った。本編に関係無いが、"声をあららげて"が正しく、"声をあらげて"は誤りである。

「この靴を作った人を知らないか?」

「あなた、誰?」

 どうやら名乗った方が早いと思ったシェイは

「シェイ・ディーラ。この靴を作ったのは俺のじいちゃんだ」

「ワーティブさんのお孫さん?」

 猫の反応から、シェイはこの猫が"ナズサ"だと推測した。熊沢も珍しくそれに感付いているようだ。

 シェイが名前を聞こうとすると、廊下からフロール達が駆け付け、全員集合した形となった。

「ネコちゃんがあまりにも早くて、やっと追い付いたよ」

 と、フロール。猫とは先程花畑で出会った。花を()もうとしたフロール達を、花畑を荒らす者達と勘違いしたようだが、すぐに打ち解けた。

「ところで、あなたのお名前は?」

 熊沢がネコに聞くが、熊沢は自分の自己紹介をしただろうか。

「思い出せません……。ここの屋敷で暮らしていた記憶は(かす)かにあるのですが……」

(この子の場合は、呪詛石でネコになったあと、姿の変わった自分を鏡とかで見て極度のショックを受け、記憶喪失になったという可能性があるな。ネコのままだから、まだ呪詛石に願い事を強制的に叶えさせられてはいない。願い事が分かればいいんだが……)

「自分の夢とかは覚えてませんか?」

 熊沢のファインプレー。ネコは

「夢、ですか。そうですねぇ……、特には」

「毎日、ここで過ごしているんですか?」

 熊沢の質問攻め。いつもなら止めるのだが、なにかキッカケが欲しい。

「はい。毎日、お花の世話をして、屋敷を掃除してます。帰ってくるまでは……」

 キッカケが欲しい。質問攻めになるのはやむを得ないが、聞かないわけにはいかない。シェイは

「誰かを待ってる……?」

「えっ……」

「今、"帰ってくるまで"って言ったけれど、"誰が帰ってくるまで"ってことかな?」

 シェイの質問にネコは

「分かりません……」

 とだけ答えた。



 空がほんの少しずつ明るくなっていく。花畑に移動したフロール達。ラオの願い事である"幻の花"を探す。シェイは花を見比べながら

「大切な人の記憶はそう簡単には無くならない。頭のどこかには残っているはずだ」

「あの子を救うんですね」

 熊沢は花畑全体を見回して探す。

「あぁ。それに、花を持ち帰るにしてもあの子の許可がいるからな」

「魔法で何とか出来ませんかねぇ?」

「記憶探索魔法は相手の個人情報となる他に、その人以外の個人情報も引き出せるため、禁止されている。でも、確かもうひとつ魔法があった気がするな……」

「あの本で調べてみますか……」

 熊沢書店で兄から無理矢理購入させられた"魔法の呪文"という本をフロールに頼んで出してもらい、アナログ検索。逆引きから見てすぐに分かった。

「"記憶修復魔法"ですねかね?」

「対象者の欠けた記憶を修復するサポートを行う魔法か」

 ネコの了承を得るのは簡単だった。記憶が戻るのだから当然の回答ではあるが、一瞬だけ戸惑ったことに少し違和感を抱いた。

 魔法はフロールがかける。シェイには魔法使いのランクでの規制に引っ掛かるおそれがあるためだ。もし規制に引っ掛かれば、それ相当の責任を負わなければならない。引っ掛かるかどうかあやしい魔法は、制限がほぼなしに近いフロールに託す。シェイとしては何とも言えない気持ちだろう。

「えっと、記憶、修復、魔法。はい!」

 フロールがネコを指差すと……

「何も起きないですよ?」

 熊沢の言う通り、何も変化がない。

「全ての魔法に、第三者から見えるエフェクトがあると思ったら大間違いだぞ」


    *


「今日も来てくださいましたか」

 ハルキは正面の門を開け、ワーティブを庭に通す。小さな女の子ナズサが駆け寄ると、ワーティブは

「新しい靴を届けに来たよ。この島のみんなに配ろうか」

「うん。……あと、見せたいモノがあるんだ」

「そうかい。じゃあ見せてもらおうか」

「でも、まだ"完成"してないの。今度来たときには見せられると思うけど」

「それなら、今度来るとき楽しみにしておくよ」


    *


 ネコは右目から涙を流すも、笑顔を保とうとする。

「そうでしたか……」

「大丈夫?」

 フロールはネコに近寄るとネコは(うなず)いた。

 ネコが知らない呪詛石について、シェイが簡単に語る。呪詛石により、姿を変えられて自分の願いが叶えばもとに戻ること。願いが叶うまでは、どんなことがあろうと生き続けること。

「この花畑の花たちをどうかよろしくお願いします。どうやら、私は行かなければならないようです」

 ネコは語らない。自分に残された時間が、あまりにも短いと気付いてしまったから。

「ワーティブさんへの贈り物を、あなたたちに託します」

 明け方の空に光が舞う。まだ太陽の光が届かない暗い空に星が輝いた。

「綺麗な一番星だね」

 フロールたちは、笑顔でネコを見送った。



「レドラン、今日は一番星を二回も見つけたね」

「お嬢ちゃん、一番星というのは夕方に一番はじめに輝き出す星のことを言ってですね……」

 熊沢はフロールに説明するが、シェイは

「別にいいんじゃないか? フロールにとっての一番星ってことで」

 フロールとレドランは星に手を振る。

「なに勝手に締めに入ってるんですか?」

「熊、空気を読め。まだ花を探すことが……」

「そのことなんですが、転送魔法で店長をこっちに移動させたらいいんじゃないですか?」

「つまり、膨大な魔力を使えと。転送魔法は質量や大きさ、移動距離とかによって魔力の消費が大きく増減するんだ」

「魔力、余ってるでしょ?」

 熊沢は転送魔法を推す。

「効率性を考えても、連れてくるのが一番か……」

 トドとなったラオ店長は歩行が困難であり、花を持ち帰ることになっていた。だが、花の種類が多いため連れてくるのが手っ取り早い。


 シェイの転送魔法で、花畑の真ん中辺りの小道に、トドが現れると、瞬時に光って人間の姿に戻る。

 なんと、転送魔法で現れた所の近くに幻の花があった。

「なんだよそれ」

 シェイは脱力感に(さいな)まれた。幻の花はあっさりと見つかったのだ。

「気力まだあります?」

 熊沢は分かっておきながら聞くが、答えは予想通り

「あるわけない」

 熊沢は苦笑いし

「ひとつ気になるんですが、お嬢ちゃんが先程"今日は一番星を二回も見つけたね"って言ったことが気になって」

 結局、シェイを巻き込むかたちでフロールに聞くと、「屋敷の中に一番星があった」と言う。

 一番星があるという場所に移動すると、廊下の行き止まりである壁に1枚の絵画が飾ってあった。おそらく明け方の絵だと思われるが、一番星は夕暮れ。

「この絵は、あの花畑ですね」

「屋敷から描いたみたいだな」

 シェイは絵の右下にあったサインに気付き、

「"イチジョウ ハルキ"……」

「シェイ君、その人は誰か分かります?」

「いいや。でも、花畑で遊んでいるのは"ナズサ"だろうな。もうひとりは、母親か叔母あたりかな。あの写真そっくりだ」

 シェイと熊沢が絵について語っていると、案内したあと、どこかに行っていたフロールとレドランが戻ってきて、

「シェイ君、手紙だよ」

「手紙? 誰から?」

「ネコさんから」

("ナズサ"から?)

 手紙をフロールから受け取ったシェイは、手紙の内容を読んだ。そこには、ファントムガーデンと靴、そして屋敷のことについて書かれていた。文脈から見て、ハルキからシェイの祖父、ワーティブ宛の手紙だった。要約すると、自分はもう長くはない。もし、この島へまた訪れたのならば、屋敷にある全てのモノを君に託そう。好きに使ってくれて構わない。君の作った靴は、娘が大切にしていたよ。既に枯れているかもしれないが、花畑も同じだ。娘が大切に育てた花をどうか受け取ってくれないだろうか。手紙の最後には、ディーラ家の子孫に、屋敷の全てを譲ると書かれていた。

 ナズサがワーティブに見せたかったモノは、花畑だった。しかし、その花畑が完成してから、ワーティブが島に来ることはなかった。ワーティブが入院することとなったためだ。島も何らかの騒動があり、無人島と化した。


 ファントムガーデンの花たちは、シェイがラオにお願いして、フラワーショップ紅へ、靴はシューズ・ディーラへ無償提供というかたちで受け取った。屋敷や花畑の管理をするとなると、シェイ達だけではかなり難しく、栗鼠山へお願いをすると、代行で管理を快く引き受けてくれたらしい。

 ただ、シェイの考えでは、ゆくゆくは、ハルキの知り合いを探して、親族へ譲渡することを考えている。いつか会えるだろうか。


THE END...


今回は、『紅頭巾Ⅲ・Ⅳ』の第三十九篇より、”ラオは昨日人間の姿に戻った。ラオの夢は、幻の花を自分の目で見ることであった。先日、それをフロールとレドランが叶えた。”この文章に相当するお話でした。ほとんどブログ版から直しとかをしてないので、早めの投稿を、と思い当日更新。

紅頭巾シリーズは、ここで一旦終了ですかね。ブログに掲載した『ラストエピソード』が残ってはいるものの、これを掲載すると、続きが書けなくなると思われるので、『紅頭巾Ⅵ』についてはかなり先になるかと思います。ネタはあるけど、他の作品も書きたいので……


次にシェイ達が登場するのは、年末に予定している『路地裏の圏外』志乃・螢篇 第三部かと。

以上、ありがとうございました。

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