ろっこめ
振り向くと榎本さんだった。
少し緊張してしまう。
「関根くんって今日の朝、着替え見てたやんな?」
見ていたとは言えない。
まずい、目が合ったのだからバレるのは当然なのだが。
「あっ、怒ってるとかそういうのちゃうねんで?」
「え?」
俺の聞き返しに戸惑うように、
「いや別に、私の着替えなんて見ても面白くないやろうし。他の子も歯磨きとかでいいひんかったし」
という。
「えっ」
「事故やろどうせ?」
「まあ」
それはそうである。わざわざ入念な下調べを行って━━なんてことは無い。
そもそも部屋割りなんかも教師が決めているわけで。
「でも、あれやねんな」
「何が?」
「そんな女子の部屋マジマジとみて、気になる人でもいるん?」
お前だよ!とは言えない。
「ま、まあ」
心の中では、お前だよ!と念じながら言う。
「あれやろ?どうせ、みやこちゃんとかななみちゃんやろ?」
「誰?」
「確かに下の名前で言ってもわからへんもんな。北川さんと、坂田さん」
「ああ」
そんな女もいたなと思った。
「たしかに綺麗やもんなぁ」
お前の方が、と言いそうになるが堪える。
「私、なんかそういうの好きやねん。もし良かったら恋愛相談とか乗らせて!」
これはチャンスなのでは?と思う。
あわよくば恋愛相談にかこつけて喋れたりするかもしれない。
「是非」
「やった!あ、LINEやってるやんな?」
「やってるけど...」
「そうやったら、友達追加させて!」
「是非」
「やった!」
喜ぶ榎本さん可愛いなぁと思いながら、QRコードを出して榎本さんがスキャンする。
榎本みづきが友達追加しました。と通知が来る。
すぐに榎本さんからスタンプが飛んでくる。
可愛らしいクマのスタンプが、よろしくとお辞儀をしたものだ。
思わず笑ってしまう。
俺もよろしくスタンプを送った。
「何このスタンプ?かわいいやん!」
「良さそうだったから買ったんだけど気に入ったなら良かった」
「アルマジロが好きなん?」
「そうなんだよ」
「えー意外!」
「どういうように見られてるんだよ...」
「なんか、猫とか好きそうな見た目してるやん」
「まあ嫌いじゃないけど。榎本さんはクマが好きなの?」
「デフォルメされたのは好きやけど...」
「まあ確かに」
確かにそうだ。野生のクマ可愛いなんていう女がいたらびっくりしていた。
「わたしはあれが好き。ハムスター」
「へー飼ってるの?」
「そうやねん」
というか榎本さんって意外と喋るんだな。
喋らないイメージがあったのに。
「京都弁すごいね」
「正しくは京言葉やで。あ、家どっち?」
「あっち。」
「方向一緒やん!一緒に帰ろ!」