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033話 女装気分と女装させてる気分?

 


「よっと……」


 未貴が教室のドアを自身が通れるだけのギリギリの隙間を作り、小さな体を滑り込ませた。

 開放しすぎると、彼氏? 彼女? の恥ずかしい姿をクラスメイトたちに晒すことになるからだ。


「………………」


 入室し、何故だか無言でドアをそっ閉じした救援者は、今ももがく智へとおもむろに寄っていった。


「……なるほど」


 状態を観察するまでもなかった。

 すぐにどうしてちっちゃな恋人がセーラー服の中、もごもご暴れる羽目になったのか理解した。


「智? ここのボタン外しておかないと着れないよ?」


「ど、どこ……?」


 セーラー服の胸当て部分にあるプチプチと着脱する(スナップ)ボタンを外し忘れていたことが原因だった。ポロシャツのボタンを外し忘れた状況と同じことになっている。


「ほら、ここ……。はい、外れたよ。頭通して?」


「あ、ありがと……」


 こうして、セーラー服から頭が出てこない智は、未貴の手によって助け出された。


 すぽんと智の小さな頭が出てくると、裾を引っ張ってから脇のファスナーやら、例のスナップボタンやら留めてしまった。

 すでに気分はお姉ちゃんだ。手の掛かる妹の世話を焼いている錯覚でも起こしていることだろう。


「んー……」


 続いて、恋愛関係にあった彼女の手により、セーラー服の白いタイを整えられるという事態に陥った。

 とんだ羞恥プレイの最中……に見えないのは、智が男子のままではなくなり、可愛い女子と化しているからだ。その実、彼女とのプレイ中、セーラー服女装した上で仕上げられている気分を味わっている。その証拠に、赤面度合いが半端ない。よって、両手を身体にピタリと合わせ、気を付けの姿勢だ。


「おっけ」


 タイの形が満足いくものになった彼女は、二歩ほど距離を取ると意味もなく腰を落として低い位置での観察を開始。どこか舐めまわすような視線だったりする。


「……思った以上かも」


「え?」


 幸い、未貴の呟きは全身を硬直させた少女には入らなかった。

 聞こえていれば、もっと恥ずかしがっていただろう。彼女が『セーラー服が超似合う』と言った同義だ。


「じゃあ、次は……」


 未貴が慣れた手付きでぺろりと掴み上げたのは、無地の黒いヒダヒダだらけの物体。制服の下半分。俗にでも何でもなくプリーツスカートである。


「はい」


「え!?」


 スカートを差し出された智の声のオクターブが上がっていた。実に甲高い声を挙げたが智は気付いていない。


「え?」


 セーラー服の上を着たら今度は下。

 元々女子の未貴には当たり前の成り行きなのに『え?』と返ってきた。なので『え?』のお返しだ。

 どうにも両者の言動が交わらない。どこかすれ違っている。おそらく原因は可愛いものを見てちょっぴり興奮している未貴にある。


「そ、そうだね。履かないと……」


 何故だか汚らわしい。もしくは神聖な触れがたいものを手にするように、指先で受け取ると、またここで固まった。智は、物心付いて初めてのスカートを体験することになる。幼少期は不明だ。親のノリ次第では知らない内に経験しているかもしれないが、どの道、記憶にない。


「智?」


「あ、あ、うん!」


 智の葛藤は理解していたはずだ。それなのに配慮が見られない。

 これが演技であれば相当な演者であり頭脳派だが、どこか楽しそうだ。

 彼氏を女装させているような気持ちやら、抵抗したところで着て貰わなければ……のような、使命感やらある……はずだ。

 少なくとも、前者。彼氏の女装を楽しむ彼女的な何かは読み取れる。


「あの! ……未貴?」


 そんな()なのか現在進行形でお付き合い中なのか、よくわからない彼女へ、お伺いを立てるような上目遣い。


「なに?」


 智にはどうしても言っておかなければならないことがあった。


「履き替えるから! お願い! ちょっと出てて!?」


「なんで?」


 言いづらいことを頑張って伝えた智だったが、瞬殺された。あっけらかんと拒否されてしまった。その理由はすぐに知ることになる。


「スカート履いてから脱げばいいよ?」


「あ」


 目から鱗である。知識としては持っていたはずだ。

 実際、女子がそうやっている現場を目にしたこともあるかもしれない。ところが、自分がスカート姿に変身する今、その記憶の引き出しが開かなかった。


 未貴の言うとおり、スカートが先ならば無駄にパンツを見せなくて済む。なので、出ていく必要などない。


「………………」


 だが恥ずかしいものは恥ずかしい。正直、スカートを履く瞬間など見られたくない。

 けれど、何を言っても負けそうで何も言えなくなった智は、頬を赤らめ、無言で片足ずつスカートに足を通して引き上げた。


「ん……?」


 試行錯誤だ。スカートの内側上部を確認しながら構造の把握に努める。


「あ」


 理解に到ると、ホックを引っ掛け、ファスナーに手を伸ばしたところで「智? もっと上だよ?」とストップが掛かった。


「もっと……上……?」


 男性の頃のスラックスのイメージでウエスト部分を合わせたのだろう。ところが、彼女はもっと上だと言う。サイズ的にもその位置で正しいはずなのに。

 一々、手を止めされられる現状に、智もちょっぴりうんざり気味だ。


「うん。一番細いとこだよ。おへそより上」


「え!? そんなに上!?」


 驚きに声のボリュームを上げ、言われたとおりの箇所にスカートを上げてみた。そこが腰の一番細い部分だ。


「……余ってる」


「智、細すぎ」


 未貴がそこを覗き込むと、確かに、こぶし丸々一つは余裕で入るであろう隙間が見られた。

 この余力のぶん、腰履き出来そうになっていたのだ。ピッタリサイズだったならば、最初からきちんと入る位置に合わせていただろう。


「……絶対、本人に言っちゃダメだよ?」


「うん……。分かってる……」


 言えば間違いなく気分を害してしまう。元男子のウエストに余裕で負けてしまっているのだから。しかも相手はわざわざ持参し、貸し出してくれた優しい少女だ。


『そのままだとぶかぶかでダメだったよ?』などと言える訳が無い。


 そんなことを考えつつ、未貴は「見せて?」とスカートのホック部分に触れた。アジャスターを調節。智の細い腰に合わせるべく絞っていく。

 最後には、一番締める形になってしまった。


「……ダメだー。一番、きつくした状態でも余裕あるよー」


「そ、それは困るよ」


 設定していたウエストよりも更に絞って余る。これを本人に知られてしまうと何とも気まずい。何よりも深い傷を心に負わせてしまう。

 未貴の細い指が、細くなってしまった自身のウエスト辺りを突き回しており、こそばゆいがそれどころではない。


「なんとかならない……?」


「うーん……。まぁ、余ってるの3センチくらいだし、これくらいならこのままで……」


「そう? それでいける?」


「いける。下がるのちょっとだけで済むから。でも、余裕あるのは内緒だよ?」


「それはもちろん」


 緊急の話し合いの結果、スカートそのものを他の人のものに変更する意思がないことが確認された。替えていれば、色々と厄介ごとを運んできそうなのである。


「じゃあ脱いで?」


「う、うん……」


 スカートをたくし上げ、チノパンに手を掛ける。

 慣れていないので、何やら危うい。本人も相当、鼓動が高鳴っていることだろう。

 智のスカート内に入れられた手がゆっくりと下がると、これに合わせて智の白い大腿、膝、半ば靴下に覆われた脛……と、順番に露わになっていく。


「うわ。足、キレイ。剃ったの?」


 しゃがみ込んでガン見を始めた。


「剃ってないよ!?」


 返答が早かった。急がねば、間違いなく触られていた。現に、未貴の手がスネの上部、靴下のない部分に伸びてきていた。


「剃ってなくてこれ!? 何その! えっと……」


 語彙力不足で出て来なかったが、無敵体質やらチートやら、そんな言葉が入るはずだ。

 女子高生らしく、ムダ毛処理している未貴にとっては衝撃だったことだろう。ずるい! に近い何かを間違いなく思っており、元男性ということなど完全に吹き飛んでいる。


 智は彼女の剣幕にちょっとびびりつつ、チノパンを両脚から抜き取った。

 何はともあれ、これで完成した。


 セーラー服少女・梅原 智が。


 そんな時にコンコンとドアをノックされた音。

 かなり時間が掛かっているので、待ちきれない子が出たのだろう。


「ん! いいよー!!」


「え!? ちょっと!?」




 智は心の準備などさせて貰えなかった。


 大慌てでキョロキョロ隠れる場所を探そうと首を巡らせたが、そんなものはどこにもない……こともないが、事前の準備もなしには不可能だった。





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