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031話 そこは女子だらけの教室でした。

 


「なんか、ちょっと緊張したよ。予想以上に女の子でさ」


「あはは……。本当にありがとうございました」


「お兄ちゃん、サンクス!」


 若い緑の葉を茂らせた樹木に囲まれた、私立緑新高等学校の駐車場。

 ここで大学生に苦笑いしつつ、頭を下げたのは智だ。


 未貴の電話で起こされ、学校まで送ってくれた。

 当面の間は、未貴の父か兄。智の母など、動ける者が智を送迎する手筈になっている。智には、過剰な運動の禁止令が担当医より出されている。


「……ちょっと、その顔やめて欲しいかも。可愛すぎて……さ。惚れたら未貴に叱られるわ」


 身長こそ高くないものの、整った顔立ちでなかなかのイケメン兄貴だ。その容姿が可愛い未貴と血を分けた兄弟であることを示してくれている。


「なーに言ってんの。惚れたらロリコンのレッテル貼るから」


「あ、ひでーな。まぁ、今のところ大丈夫だけど」


 智也の印象が強くて……。この言葉は呑み込んだ。幼い頃から見掛けていたお隣さん。顔を合わせれば挨拶をしてくれ、たまには話したこともある年下の礼儀正しい少年。


 それが少女となり、未貴の兄さんも心中複雑なのである。何気に仲の良い兄妹らしい。


「じゃあ、行ってくるね! いい加減、怒られるから!」


「あぁ、しっかりな!」


 もう一度、きちんと頭を下げようとした智の手を捕まえると、玄関に向かって引っ張っていったのは妹だった。



(……惚れちゃダメだ。惚れちゃダメだ)



 兄は何やら言い聞かせていた。





 ◇





 どことなく優しい香りの漂っていそうな教室だ。女子校の様相を呈している。

 廊下側から数えて一列目と三列目。偶数の男子列を除く席の全てに、ブレザー型の制服とその中に着るであろうブラウス数種やら、セーラー服やら、スカートも靴下もタイも置いてある。全てがきちんと畳んであるのは、ズボラだと思われたくない心理か、それとも本当に丁寧なのか判断に迷うところだ。


 そんな2-Bの開けられたままのドアを、彼女に背中を押された智が引きつった笑みを浮かべ、入室した。


「あ!!」

「来た! おはよー!」

「「おはよー!!」」

「ごっめーん! 遅くなったよー!」

「未貴、智ちゃん、おっはよー!」

「おはよー!」

「待っていたぞ」

「智ちゃん、私服似合ってるぅ!」

「足、ほっそーい! うらやましー!」

「遅刻ですね。未貴は罰として、制服脱いで正座していて下さい」

「お菊さん? 制服脱ぐ意味がどこにあるの?」

「合わなかった時、最悪、未貴が今着てるセーラーを着せる為です」

「なるほどな。それなら理に適っている」

「めいあーん!」

「名案じゃないですっ!」

「脱がないのか?」

「脱ぎませんっ!」

「残念だ」

「由梨ちゃん、ホントにさみしそー!」

「「「あははは!!」」」


 朝からテンションの高い女子軍団だ。いきなりの大騒ぎである。

 時間にして、七時四十分。部活の朝練などない未貴と智には、早すぎる到着だった。

 因みに、莉夢は弓道部の朝練に泣く泣く出掛けていき、似たような境遇の部活持ちも離れ、現在、七名の顔ぶれがある。

 緑新高校は運動部に力を入れている学校でもある。現に、智も倒れるまでは未貴と同じく、陸上部に所属していた。


 その智本人はマシンガン的なスピードと爆弾のような威力を誇るトークを前に困惑を隠せず、頬を引きつかせているが、この女子の皆さんに馴染もうと思えば慣れるしかないだろう。何しろ三人寄れば姦しいとは、読んで字の如くだ。学校である以上、三人以上で過ごす機会は多い。

 圧倒されてしまった智をチラ見しつつも、女子たちはそのペースを落とすことはなかった。


「それでは早速始めましょう」

「始めましょー!」


 委員長の宣言を前に、智は救いを求める目を未貴へ。

 そりゃそうだ。どこから手を付ければいいのか不明だ。女子たちの机の上の制服の類いを漁るなど、智に出来るわけがない。

 因みに、お菊さんの後に追従したのはミッキーである。彼女は、人の後ろを追う傾向があるらしい。思い返せば、ポニテの莉夢が純に意見を求めた時、意味もなく付いていっていたはずだ。


「その前に、だ。遅刻の言い訳を聞いておこう。如何なる答えであろうとも未貴へのお仕置きが必要だ」

「あはは……。それ言い訳の意味ないよね?」

「仕方ないですね。それなら言い訳を優先しましょう」


 未貴いじりの急先鋒は、由梨と委員長で間違いない。莉夢は唯一の常識人かと思われたが、他の女子にまともな意見を出す子がいたらしい。

 その声がスルーされている現実はあるが、未貴のいじられ体質からくるものだ。仕方がないのだろう。


「お仕置きってなに?」


 未貴は未貴で慣れているのか、案外、平然と由梨に問うた。動揺なし……だが、そんなことは承知の上だ。そこで終了するのなら、未貴への絡みはこんなレベルに至っていない。


「見るか? 色々と用意しているぞ?」


 言うだけ言って、教室後方のロッカーへと歩き始めた。

 教室内は、何気に未貴の席の周囲だけ机が離され、これからここで着替えさせられる準備が整っている。智にとっては不安でしかないだろう。


「ごめんっ! 見ないっ! 見ないからね?」


 どんなアイテムが出てくると思ったのか、上擦った声で未貴が制止した。

 ……この弱さが由梨と委員長を増長させるのだろう。

 しかし、本当に何を用意しているか分からないのが由梨という子だ。それだけの雰囲気を纏っている。


「さぁ、言い訳を聞きましょう。由梨が言うには如何なる答えでもお仕置きだそうですけど」


「えっとね……?」


『言い訳無用』と言われたも同然だが、そこはスルーし、未貴は回想を始める。何だかんだ言っても、本気で未貴が嫌がったら終了する。


 その信頼が意外なことに由梨にも委員長にもあるのだ。




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