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024話 未貴ちゃんハブってます

 


 未貴を中心とした五名でのチャットの裏では、本日、稼働を始めたグループが動いている。

 彼女たちは、ごく真面目に未貴と智の関係を憂いているようだ。


 女の子女の子していない、どこか物悲しい寒色だらけの自室。そこで勉強机に向かう菊地原さんが招待した。その入力速度は相当なものだ。みるみる内に文字数を増やしていく。今時の女子高生は、入力が遅ければ生きていけない。



 委員長【由梨? さすがに踏み込みすぎです。智くんが智ちゃんになってしまった件についてはそっとしておいてあげて下さい】



 のっけから窘めた。

 未貴と智。両名の恋愛について、今後どうするか。同性になってしまった以上、このままお付き合いを続けるとなると様々な障害に阻まれる。

 しかしこれは、本人たちの問題であり、安易に踏み込むべきではない。お菊さんはそのように考えている。

 未貴の背中を押すという行為は、彼女たちの可能性を狭めることに繋がる。


 つまり、彼氏彼女の関係に終止符を打ち、性別に見合った恋愛を探す可能性を捨てさせることになりかねない。



【個人的にそう思っているだけだ】由梨


【LGBT問題が取り沙汰されている今日、妙な目で見る奴も少なかろう?】由梨



 返信があると、奥歯を噛みしめた。

 由梨も負けてくれない。彼女も意思を強く持っているタイプだ。時折、こうやって委員長と由梨は意見がぶつかる。


 好きならば好き同士、同性になっても問題ないという立場の表明とも捉えられる。

 それはお菊さんとは真逆の意見だ。



【今日?】美希


【こんにち】莉夢



 生えかけていた棘を抜かれてしまった。思わず、噛みしめていた奥歯の力が緩んでしまった。

 ミッキーさんこと、可愛らしい美希さんは『今日(こんにち)』が読めなかったらしい。

 おバカさんというよりは、文系教科が苦手だったりするのだろう。なにせ、ミッキーさんも特進コースの一員だ。理系な才女なのだろう。



 委員長【しばらくの間、様子をみていてあげましょう?】


【あー!】美希



 未貴を除いたグループを作った理由は、何もハブろうとしたわけではない。

 むしろ逆だ。何も考えず、突っ走っているように見える未貴を心配してのことである。


 委員長が文章を柔らかく書けたのは美希の功績だ。

 脳天気なコメントが気持ちを和らげてくれている。



【そうだな。だが、いつまでも待っていないぞ?】由梨


 委員長【はい。それでいいです】



 由梨も同じ心持ちだったのだろうと思う。

 良いグループに入れたものだ。

 とにかく可愛く、いじり甲斐のある熱血な心を持つ未貴。

 クォーターなのに、メンバー随一の常識人の莉夢。

 天然ボケというか、脳天気? いや、脳足りんが正解にも思えるミッキー。

 思ったことをズバズバ口にする自分と同類の由梨。百合なのが玉に(きず)……?


(もしかして由梨って……)


 百合ではないと幾度となく否定してきている。これは本当なのかもしれない。

 だが、今このタイミングで切り出すとなると話を蒸し返すことになる。



 委員長【次の議題です】



 なので、別の話に切り替えた。こちらも重要な案件だ。

 由梨のことは、またしばらく観測することに決めた。



【なんですかぁ?】美希


【少しは待つようにw】莉夢



 少し間が空くと、必ず茶々を入れてくるミッキーのコメントに微笑みつつ入力していく。



 委員長【これから先、未貴は智ちゃんの席に行く機会が増えます。そこで提案を1つ】


【なになに?】美希


【待てやw】莉夢


 委員長【未貴は良くも悪くもクラスの中心です。その未貴が智ちゃんにべったり。そうなった時、私たちも追従すると、まずい事態に陥る可能性を秘めています】


【……?】美希



 自分たちは未貴に集まった。残りの面々も、その枠に収まり二年B組の女子はグループを作ることなく、それなりに上手くやっている。

 その未貴が智の下に。これに自分たちも追従した時、残された少女たちはどうなるだろうか? 智に対して良からぬ感情を持つかもしれない。


 菊地原さんの危惧がここにある。



【なるほどな。どうする? ウチらの中、何人残ればいい?】由梨


【話が見えないぃぃ!!】美希


【由梨ので理解したよ】莉夢


 委員長【それでは説明お任せします】


【ずるいww】莉夢


【頼む>莉夢】由梨


【え? 私?】莉夢


【なんかごめんなさい(泣泣】美希


 委員長【ミッキーはそれでいいんですよ】


【なんだかバカにされたような気がする】美希


【つまり、私たち4人まで未貴のとこに行っちゃったら、他の子たちどうするの? ……って、ことだよね?】莉夢


【そうだ】由梨


 委員長【最悪、智ちゃんが恨まれますね】



 自分の流したコメントを見詰める。

 なんだか酷く滑稽に思えるが、有り得ない話ではない。だからこそ、彼女たちに相談しているのだ。



【あー! わかったぁ!】美希


【宜しい。明日にでも優しく撫でてあげよう。どこがいい?】由梨


【お返ししてあげようと思うんだけど、どこがいい?】美希


【くっ……。まさかミッキーにそんな返しをされるとは】由梨


【はいはい。話が進まないから終了】莉夢


 委員長【まとめますよ?】



 黒髪一つ結びで余り笑わない印象の強い委員長が「あはは」と声を上げて笑ってしまった。

 由梨のセクハラ的言動にミッキーさんは耐性が付いてきてしまっているらしい。



【任せる】由梨


【お願い】莉夢


【はーい!】美希


【まだー?】美希


【少しは待つw】莉夢


 委員長【未貴が智ちゃんの席にいる間、私たち4人の内、2人が未貴のところへ。2人は未貴の席に。智ちゃんも未貴だけしか来てくれなければ、気にするでしょうから。未貴の傍に行く2人も、同じではなく、都度、入れ替わっていきましょう。休憩の度に変わるイメージで】


【おっけ!】美希


【了解した】由梨


【1番不安なのが1番に返事したw】莉夢


【もちろんわたしもOKだよ】莉夢



(はぁ……。なんで性に合わないこんなまとめ役を……)



 それは曲がりなりにも『委員長だから』だろう。



(でもま、きっと智ちゃんがピンチになったら今日みたいに颯爽と助けに入るんでしょ?)



(櫻塚くん?)



 菊地原さんも何やら勘違いしているらしい。



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