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023話 チャットで示された道筋

 


 カーテンにクッション。部屋のそこかしこに点在するピンクが女子部屋だと主張している。

 その部屋の主は、勉強机に向かっている……が、やっていることと言えば、チャットである。



 未貴【予備にしてるスカート持っていくね】


【任せる。どう見ても智ちゃんは細いからな。未貴だけが頼りだ】由梨


【言えてますー! 私も無理そうだもん!】美希


【セーラー服にするべきだ。誰か持ってないのか?】由梨


【何故、セーラー一択なんですか。知っています。趣味ですね】委員長


【ウチのサイズじゃ無理や】莉夢


 未貴【ごめん……。冬服は一着だけなんだよー。さすがに何種類もお願いできないから】


 制服の種類は数多い。しかし、全てを買って貰えるはずがない。コンプリートしようとすれば、福沢諭吉の数が両手で収まらなくなってしまうほどの数がある。

 ベッドの上、ハンガーに掛けられたセーラー服を見上げる……と、むぅと口を変形させた。もっと買って貰っておけばよかった。



【使えませんね。これだから未貴は】委員長


【お菊さん……。それはさすがに酷いかもです】美希


【そうか? いつもの事だ】由梨


 未貴【だって……。制服高いんだもん】


【いっちばん高いですからね! 冬服って!】美希


【未貴? 気にしたらあかんで?】莉夢


【いつものようにいじっていたら、いつの間にか私だけ悪者でした】委員長


【心配するな。お菊。1人じゃない。ウチもだ】由梨



 二人のコメントを見ると「ふふっ」と声を零した。

 ついつい、出てしまったのだろう。同部屋でされると怖いやつだ。


 お菊さんと由梨の『いじり』に関しては、悪いことに慣れている。この程度のいじりはいつものことだ。チャットでは問題ない。問題なのは身体的な接触を交えた場合である。

 今日はなかったが、酷いときは胸を触る……どころか揉む。大きくしてあげるとか言って。

 スカートも割と容赦なく捲られる。チェックだとかよくわからないことを口走って。



【誰か冬服の上、持ってきてくれる思う?】莉夢


【智ちゃんが予想以上に小さくて厳しいかも?】美希


【チビッ子未貴ちゃんと同等とは思っていませんでした】委員長


 未貴【チビッ子じゃないもん】


【身長何センチだった? 148だったか?】由梨


【そうは言われても……。小さいのは否定できへんやん】莉夢


 未貴【149㎝ですっ! 勝手に減らさないで!】


【惜しい(笑笑 あとちょっとで大台(笑】美希


【反応が遅かったですね。動揺しているようです】委員長



 委員長の言うとおり、未貴の手元が狂っている。入力ミス連発で修正作業が入り、返信に遅れが生じている。

 前言撤回。いじりには慣れていても、コンプレックスな部分をいじられると顕著な反応を示してしまう。



【もうちょっとで大台か。十の位の四捨五入で2メートルと1メートルを分ける境界線だぞ】由梨


【それだといちめーとるですね(笑】美希


【なんでそんなに大雑把な四捨五入をw】莉夢


【流れですね。基本的にここは未貴をいじる会みたいなものですので】委員長


 未貴【夏休みまでには150センチ到達するんだから!】


【がんばって(笑】美希


【牛乳飲むとええで?】莉夢



「飲んでるんだけど。いっぱい」


 思わず、言葉でツッコミを入れてしまった。

 これを入力、投下すると燃料を注ぐことを未貴は知っている。



【残念なお知らせがあります】委員長


【なんだ?】由梨


 未貴【なに?】


【高2女子と高3女子の平均身長には差が1ミリしかありません。つまり、そう言うことです】委員長


 未貴【嘘だ!】



 委員長のコメントに顔が強張る。

 本当であったとすれば、大半の女子の身長は上げ止まりだと言うことになる。



【それ、ホントですか?】美希


【適当なこと言っているようで実は本当が多いのがお菊という人物】由梨


 未貴【嘘だってば!】


【本当だったww ソース見せようか?】莉夢


【わざわざググって追い込むスタイルですか?(笑】美希


 未貴【本当なの……?】



 背中に分厚い雲を背負った。


 何とか150cmには……。

 そんな希望が遠ざかった気分なのだろう。



【本当のことしか言いません】委員長


【それはさすがに嘘w】莉夢


【話を変えましょう。可哀想になってきましたので】委員長


【だいたい、お菊さんのせい(笑笑】美希


【www】莉夢


 未貴【今になって変えて貰っても悲しいままなんだけど】



 ごもっともだ。

 知ってしまった情報は消し去りようがない。インパクトが強ければ強いほど脳内に強くインプットされてしまう。

 だが今のご時世、身長にコンプレックスを抱いていればググっていても何ら不思議はない。怠っていた未貴にも多少の非があるかもしれない。



【可哀想に。慰めてあげたい。今から訪ねていいか?】由梨


【由梨が百合化したでw】莉夢


 未貴【ぜぇぇったい! ダメ!】



 由梨なら本当に来かねない。

 四人の意見は何気に統一されている。


 由梨は百合だと。

 本人のカミングアウト待ち状態なのである。



【ミッキーも制服持参でお願いします】委員長


【本当に変えたw】莉夢


【お菊は有言実行だ】由梨


【私、154だよ?】美希


 未貴【ちょっと大きいくらいなら可愛いよね。いいかも】



 話題が別方向にベクトルを変えると、未貴の頬が緩んだ。

 智に大きめ女子制服。どう考えても可愛い……とか、思っているのだろう。



【そうだな。それなら私の制服を未貴に着せよう】由梨


【なんでやねんw】美希


【色々と仕込んでおく】由梨


【こわっ!】莉夢


 未貴【必要ありませんっ!】



 由梨の場合、本当に何を仕込むか分からない。

 もしかしたら、糸くず引っ張るとスカートが分解されるような罠まで有り得る。



【今日の由梨は激しいですね(笑】美希


【智を見た興奮だろうな。未貴と智の夜の営みを想像すると……】由梨


【吹いた】委員長


【笑笑笑】美希


【それは笑ってあげたらダメなやつやで】莉夢


【あ、そうですね。ごめん】美希


【そうですね。浅瀬よりも深く反省します】委員長


【さすがに冗談です。ごめんなさい】委員長


【反省? しないぞ。男女でなくなっただけの事だ。心が通じていれば性別など】由梨


【ガチで引きますよぉ?】美希


【由梨ってマジで百合よな?】莉夢


【それは否定しておこう】由梨


【真っ当な意見に聞こえるのが困りものですね】委員長


 未貴【そう、そうだよね!?】



 由梨のコメントを読んでから、少しの時間だが考え込んでしまっていた。

 まだ清い交際だったにせよ、智と交際を続ける以上、避けては通れない問題。女同士になってしまった事実が重くのし掛かった……が、由梨当人のコメントで晴れた。


 (かすみ)のかかっていた道筋が、はっきりと示されたように。



【この話はまた今度にしましょう】委員長


【そだね】莉夢


【らじゃ】美希


【そう……か。私は背中を押してあげようと思っていたのだが】由梨


【それは未貴本人が考えることや。な?>由梨】莉夢


【わかった。悪かったな】由梨



 次々、この話題から退散していったが、未貴の表情は希望に満ち溢れている。


 彼氏が女性化。

 そんな有り得ないポジションに収まり、その心は複雑怪奇そのものだった。

 だが確かに、前を向いた瞬間だったのだろう。




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