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022話 まんざらでもなかった

 


 放課後になると、クラスメイトの一部は部活やら帰宅やらで教室を離れていったものの、女子たちが未貴の席に大集合した。残った男子たちは、成り行きを見守るつもりだろう。今後の展開が気になって仕方ない男子生徒も多いらしい。


 ……何気に担任の先生まで居残り、微笑みを湛えたまま眼鏡を光らせ見守っている。


 そんな環境下で話し合いが行われた。

 議題は話の流れ上、当然のようにここには居ない智の女子制服をどうするのか……だ。


 ぶっちゃけ、男子制服での通学は有り得ない話だった。そんな意見が集まったのである。

 そうなると当然、女子用の制服が必要になる。そこで女子たちの力の結集が必要となったわけだ。



(すっげー面白いことになってるな)



 実は、この展開を純くんは予想していた。なので、男子制服について追求した。

 この女子たちの会議は大方の作戦通りだが、ここまで順調に行くと怖いくらいだ。

 そんな事を思っている純だが、ここに来て当面の方針が脳内で纏まってしまっている。


 男子制服の着用は謂わば、男子として過ごした日々への未練。振り切れない男だった頃の記憶とプライドが女子制服の着用を阻んだ。


 こう受け取った彼は、『智の完全女性化』を目標に据えたようだ。出来る男だった智也を可愛いだけの少女へ。

 成功した場合、なんか知らんけどめっちゃ面白い。


「じゃあ、みんなが制服のパーツを各自持参ってことでOK?」

「おっけぃ」

「持ってるの全部持ってくるよー」

「未貴とか身長体重が合いそうな人は、制服本体持参だよー?」

「わかってる!」


 主要五名を除いた女子たちも翌朝、早く登校することに決まった。

 そこでセーラー服にスカートやブレザー、ブラウスを持参し、当面の制服問題を解決してしまおうとしているらしい。身体サイズ的に合わないだろう生徒は、白タイやら黒のタイやらリボンなど持参する。どうにも全員が参加したい様子を見せていた。ここで何も持ってこなければハブられるくらいに思っている子も居るかもしれない。


 こんな方法を選べる理由は、制服を選べる私立高校である緑新だからこそとも言えるだろう。合服への移行期間であることも大きい。余っている制服本体もパーツも惜しげなく出せるのだ。



(さて……。俺は帰るとしますか……)



 女子たちの間で話し合いが終わった頃を見計らい、純がようやく腰を上げた。

 毎日毎日、放課後突入と同時に帰宅を始める彼にしては、かなり遅い離席だった。


「あ! 櫻塚くん、帰るのー?」


 これに気付き、声を掛けたのは、セミロングのミッキーだった。


「え? あ、うん……」


 基本、校内では原則スマホ利用禁止。

 授業中や休憩など、コソコソと机に隠れていじり回している純だが、さすがに席を立った時には、使用していない。なのでスマホガードのない純は返事せざるを得なかった。


 ……動揺の様子を見せているのは、過去、女子からそんな声が掛かったことがなかったからだ。無論、スマホ中の無視のツケである。

 純に『智ちゃん』と呼ばせることに成功したミッキーさんとしては、彼へのハードルが驚くほど下がってしまっているのである。


「どうだ? 聞いていたんだろ? 私たちで制服を持ち寄り、智に似合うものを見繕う。これでいいのか?」


 続いて純に問い掛けたのは、サラサラロングで女性らしい外見なのに、ちょっと男っぽい話し方をする由梨だった。

 親しみを感じさせない、氷のような櫻塚 純は、この教室から消え去ってしまったかのようだ。


「いいんじゃないの?」


 あっけらかんと言い放った純くんだが、この時、なんで俺に聞く……と、思っている。

 この五、六時間目のLHRで自身の株を大いに上昇させたことにも気付いていない。

 智に真っ先に声を掛け、智と未貴をまとめて諫めた行動は他の女子たちにとって、評価に値するということだ。


「櫻塚が何も口を出さなかったと言うことは、問題なかったと言うことです」


 委員長のお菊さまが断言した。よく純のことを観察している彼女にとって、櫻塚はそういうヤツという認識なのだろう。


「あのさ。俺、帰っていい?」


「相談乗ってくれて助かったよ?」


 ポニテをフリフリ、笑顔を見せたのは、莉夢だ。ミッキーよりも前に直接絡んだこの子から見れば、純への壁は消滅したも同然なのかもしれない。


「あー……どういたしまして? それじゃ……」


 軽く手を挙げ、反対の手に通学用のバッグをぶら下げ、教室の後ろ。ロッカー前を通り、教室を出ようとした時だった。


「ありがとう! ホンットにありがとっ!!」


 未貴の声が掛かり、純はほんの二秒ほど立ち止まって、もう一度だけ手を上げた。その上げた左手をひらひら振ると、教室を後にしていったのだった。


 何気にニヤニヤとしている顔を女子たちに見せることもなく。


 櫻塚 純を嫌っているはずの未貴がどんな想いで、お礼を言ったのか考えることもなく。




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