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018話 言い出しっぺ

 


 純以降の質問は、ほとんどなかった。

 クラスメイトたちが『どこまで聞いていいのか』迷った結果だろう。実は聞けることなど、早々ない。誕生日やらそんなもの程度だ。


『今、どんな気持ち?』など聞けば、女子たちから睨まれそうだ。身長体重ですら、女子化してしまっているので聞くに聞けない。セクハラになってしまう。

 よって、わざわざ取り上げる必要のない、他愛のない質問が数問だけだった。



 質問の手が挙がらなくなると、笹木はようやく、他のクラスがしているように修学旅行の話を始めた。

 始めてすぐに教え子たちに投げた。男子三名女子三名以内の五名で構成されたグループを四つ作ってください、と。


 要するに……。

 またも自由に教室内を歩き回り、話し合えと丸投げした形だ。


 これは受け持つ生徒たちの自主性を高める目論見があるのだろう。たぶん。横着者ではないはずだ。


「あの、さ……」


 どうしたものかとクラスメイトたちが迷っている中、最初に口を開いたのは、意外にも智だった。隣りの席になった純へと。


「………………」


 だが、相変わらずだ。先生に見えないように机に隠して、純はこそこそとオンラインゲームに興じるのみで反応なし。

 取り急ぎ、グループ結成に動いたように見えた智の行動だったが、当人の無視により他の生徒たちが可哀想にと哀れむ。

 正直なところ、急ぐ必要などなかった。純の周囲に人が群がるなど、通常ならば考えられない。


 それはともかく。


 智のピンチを察したのか、二人の生徒が同時に動いた。

 立ち上がり、足早に一角へ歩み寄っていく。


 そして、通常ならば考えられない場面は早々に生まれた。真っ先に純を含めた班が結成されてしまったのだ。


「智ー! 一緒に組もっ!」


「純? 売れ残るだろうから組んであげるね?」


 未貴が智に廊下側から。大起が純に窓際から。

 それぞれが班の結成に動き出した。大起の言葉に、ちょっとした誹謗中傷が混ざっていたが、純もスルーしている為、触れないこととする。


「あ……。未貴……」

「仕方ないよね。未貴と智ちゃんは当然、一緒だよ」


 人気者の未貴が起こした迅速な行動に、各地で残念そうな声が上がった。だが、智との彼氏彼女の関係を知っている女子たちは、寂しそうだが理解はしているようだ。


「大ちゃん……。そりゃないわ……」

「なんで櫻塚なんだよー」

「ほら……。あいつはあれだろ? 梅原と一緒がいいんだろ? だから櫻塚、梅原の幼馴染みラインに乗って……」

「なるほど」


 一方、良い奴であり、女子からの好感度が高い大起に対しても、不満の声が男子勢から上がっている。大起ならば同じ班になった女子と巧く取りなしてくれるのに。こいつが盛り上げてくれるのに……と。

 未貴だけでなく、大起も同性からの支持を集めている。


「無言は了承と捉える」


 尚、返事をしない純だが、何か言わねば勝手に決まる状況を大起に作られてしまい、ようやく顔を起こした。かと思えば、声を掛けてくれた大起とは真逆の真横を向き、智と目線を合わせた。


「その前にさ。梅原。お前、行くんか? 修学旅行」



(風呂とか寝床とかどーすんだ?)



 心配している……訳でもない。単に疑問に思っているだけだろう。確かに避けては通れない問題には違いない。

 聞かれた智は、頬が緩んでいる。純から声を掛けてくれた事実が、心を暖かくしてくれている。


「えっと……「あー! 櫻塚くん、言ってること違いますよぅ!!」


 いっちばん、遠い場所から文句が飛んできた。地獄耳のようだが、窓際の最後方は注目を浴びている。聞こえて当然だろう。


「私、頑張って『智ちゃん』言ったのにぃぃ!!」


 セミロングの子だ。クラス一、二を争っていたであろう美少女である。

 言われてみれば智と未貴が教室に遅参した際、言い辛そうに『智ちゃん』と呼んでいたはずだ。

 言った勢いで椅子と床が擦れる音を盛大に放ち、立ち上がった彼女は、大股で最後方にあるロッカーまで進み、そこで直角に折れた。


 どう見ても、純に物申すつもり……に見えたが、ターゲットは純の一歩手前だった。


「智ちゃん!」


「……え?」


 女子にちゃん付けされた智だが、然したる変化は見られない。

 智も女子同士、ちゃんで呼び合う姿など普通に見ている。その一環……どころか、男子同士でも渾名で『ちゃん付け』の例は案外、多い。大起もさっき、大ちゃんと呼ばれていた。そして、智本人も大ちゃんと呼んでいた。


 ……つまり、当たり前のことと認識しているのだろう。


「智ちゃんも櫻塚くんに名字呼びされるの嫌ですよねー? 他人行儀ですし?」


「……う、うん」


 智の隣りには未貴がいた。なので、斜め後方から話し掛けたセミロングの子に向けて体を捻っていた智は、そのまま肩越しに背後の純を盗み見た。

 すると、目がばっちり合った。彼は少しだけ口を開いた困惑の表情だった。智が全く困ることもなく、ちゃん付けを受け入れた理由でも探している最中だったに違いない。


「ほら! 櫻塚くん! 智ちゃんって呼んであげて下さい!」


 そして、既定路線とばかりに矛先が向いてきた。

 クラスメイト全員の目線が集中しているという、オマケ付きで。


「…………え?」


「え? ……じゃないですよぉ! ほら!」


 吊り上がった眉でセミロング少女が、ビシッと純を指差す。もちろん、足を肩幅に開き、左手を腰に当てて。




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