57/61
最後のトラブル
葬式会場で半年ぶりに会う鉄朗は、いくらか背が伸びたようやった。
「おう」と鉄朗が手を上げる。
「おう」とオレが答える。
「ここまで何で来たん?」
「カブ」
「やるな」
挨拶はそれくらいのもんやった。
鉄朗は納棺の儀の場にも呼ばれた。親戚の間ではオレと旅をした人として名が通っていたので、疑問には思われなかった。
伯父と叔母の家族も集まり、納棺の儀が始まる。婆ちゃんは車椅子に乗ってやって来た。葬儀屋の人は丁寧に説明をしながら死装束を整えて、故人が愛用した副葬品を納め始めたとき、オレは「あ」と思った。
「ノートが無い」と鉄朗が言う。
「おとん、施設から旅のノート持ってきてくれた?」
聞くと、おとんはギョッとした顔で固まった。
「何してんねん……」
オレがぼやくと、叔母さんが頭を掻いて「ここから施設まで行ったら葬式始まってまうけん、どないしょうと」言う。
すると、従姉妹の姉ちゃんが「野武彦」と呼んでキーを投げた。
投げられた鍵をキャッチする。リトルカブのエンジンキーやった。
「喪主が間に合わん訳にはいけんでしょ。車で家まで送ってあげるから、あんたそこからバイクで施設まで行ってき」
姉ちゃんが手提げの鞄を持って言うと、鉄朗がカブの鍵を手に持って「儂も追いかける」と言う。オレは頷いた。




