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ノートの仕上げ

 家に帰って数日後、オレはバンドの練習に復帰する前に旅の記録を書き上げるため、リトルカブで田舎に戻った。



 駅の近く、前にも行った店で、まずまずの味と知って海鮮丼を頼んだ。


 それから田舎の家を尋ね、荷物を下ろし、ガレージにカブを置いた。


 代わりに自転車を出す。リトルカブは田舎の家を継ぐことになった従姉妹に譲ることにした。元々借り物やし、異論はなかった。



 オレは少しだけガレージに佇んで、エンジンの掛け方も、ギアの変え方も知らなかった頃を思い返した。



 鹿児島で買った土産を下げて、先に婆ちゃんを見舞い、旅の話をした。


 祖母は少し痩せとった。



 ほんじゃ元気で、と挨拶して爺ちゃんの施設を目指す。(別れ際にやはり小遣いを貰った)



 日射しのきつい坂道を自転車で駆ける。


 滝の汗を流しながら、ペダルを漕ぐ。やっぱりここまではカブに乗って来れば良かったと思ったが、一々戻るのも面倒だったのでそのまま走った。



 昼前に施設に着いて、爺ちゃんの病室に入った。



 爺ちゃんは目に見えて痩せこけていた。


 頬骨に張り付いた皮膚を無理矢理持ち上げるように笑顔を作って、オレを見る。



 旅終わらして来たで、と言うと、ベッド脇の小さな棚からオレと鉄朗が作った旅のノートを取り出した。ノートには沢山の付箋が新しく張られていた。



「ずいぶん読み込んだんやねぇ」



 現像して持ってきた写真を鞄から出しながら言ったが、爺ちゃんは喋る体力も無いらしく、笑顔のままで頷いていた。


 オレは旅の続きを書いたあと、写真を糊で貼り付けながら順番に旅の話をした。



 三十日目、大阪の埠頭からフェリーを撮った写真を貼り付けたとき、爺ちゃんはひどく嗄れた声で「ありがとう」と言った。



「構わへんがな」



 オレはそう答えて、完成したノートを閉じた。


 すると、爺ちゃんは棚から財布を取り出した。オレは爺ちゃんの肩に手を当て「婆ちゃんに貰たわ」と言って立ち上がった。



 じゃあ、また次の夏に来るわ。そう言って別れ、夜行バスで家に帰った。


 その時の会話が、最後の会話やった。


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