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切っ掛け



 坂道を登って一時間、爺さんは思ってたより外見に変わりなかったが、会話がなかなか覚束んかった。十分に一回は同じ話をしよるし、質問に答えても分かったか分からんのか曖昧な返事をする。


 けど同じ話でも筋道自体は間違って無いので、聞けんことはなかった。


 これはもう婆ちゃんの時と違って聞き手に徹した方がええやろうと、オレは定期的に繰り返される話を聞いて頷いてた。



 家の掃除の心配の話、婆ちゃんの様子の話、ここが退屈でしょうがない、というような話を五回ほど繰り返した後、ようやく爺さんは新しい話をした。



「足を悪ぅする前に、一遍は日本を見ときたかったがなぁ」


「見る?」


「ワシはここで生まれてずっと居ったちぃ、他のクニには行かんでな」


「ああ、旅がしたかったんか?」


「ずっと行こう行こう思って、もう歳で、足もこうでな」



 そこまで聞いたときに、家のガレージのバイクを思い出した。



「ガレージのバイクで行く気やったんか? あれ壊れとるやろ」


「流石に歳じゃ。あんなもんでは行かれん。船か車でな。でも、あれ動くで」


「鍵回してもアカンかったけど」


「キック踏みよったか?」



 あのバイクがまだ買って新しいこと、名前をリトルカブっちゅうこと、それとオレが何も知らんっちゅうことを知った。


 それから、爺さんは一生で一度も長い旅を出来なかった、と悔いる話をひたすら繰り返した。見舞い時間の終り頃には、少し涙を流して話しとった。



 施設を後にして、夕暮れの坂道を下りながら、オレは遅れて貰い泣きした。


 このときに、夏までに原付の免許を取って、あのバイクで代わりに旅をしようと決めた。


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