施設から施設へ
爺さんが転んだっちゅう因縁の自転車に乗って、まず婆ちゃんの見舞いに行った。
山間の町で坂ばっかりあるもんやから、まだちょっと肌寒い春でもアホほど汗を掻いた。介護施設から認知の医療施設のある場所が真逆にあったから、戻りの道を思うとうんざりした。
時々休憩しながら、三十分坂を登って婆ちゃんの施設に辿り着いた。婆ちゃんは想像より元気で、遠いところからよぉ来たなとか、ちゃんとご飯食べ取るかとか、みんな元気しちょーかとか、昔と同じようなことを聞かれて、オレも昔と同じように「ぼちぼちな」と返事した。
四十分くらいの面会を終えて、最後にこれでお昼食べぇ、と五千円の小遣いを握らされて、やはり昔通りにそれは貰ったけれども、見舞いを都合にカネ集りに来たみたいで悪い気がした。
挨拶もそこそこに施設を後にしようとしたら、帰りは坂道なんで転ばんように、と言われて、「爺ちゃんみたいにな」と口を滑らしかけた。おとんの悪影響やろう。
家まで戻る途中、個人経営のハンバーガー屋に寄ろうと思った。子どものころによく来て食べたそのハンバーガーは、何でもかんでも大盛りになって出てきよる。
クソでかいジュースに、どないしたんやってぐらいのポテトと、アホみたいなバーガー。そういうもんは大概味は悪いもんやけど、何でか味もええ。しかも安い。
やっていけんのん? と子ども時分に心配になって店主のおっちゃんに聞いたら、「いけんいけん」と笑って言う。
どうせならそこに行こう。
坂を下りきって、交差点を曲がってまた少し坂を登る。
「あ」
更地になってた。
「アカンかったか……」
経営がもう一つやったんか、それとも死んでもうたんか。
田舎はどこも高齢化やのう、と呟いて、道を戻っていった。すぐ近くにチェーンのバーガー屋を見付けたが、そこには入らんかった。