九日目の2 錦秋湖、知られざる景色v
カッパ淵を出たオレたちは、岩手と秋田の狭間に良い温泉がある、という情報をスマホで調べると、途中で見付けたヤマダ電器店内のベンチで少し仮眠を取ってから再び走り出した。
地図を見ながらあっちへこっちへ移動していると、あっと言う間に迷ってもうた。道路は続いているが、道があるようでないような道を進み、外灯は減り、やがてただ道だけがある、というような森に囲まれた暗い場所に辿り着いた。
「これ以上行くと異界に行ってまう気がする」とオレが言う。
「異世界もんの始まりやな」
「チートも持たずにかいな」
「どんなチートがあったらええと思う?」
「無限ガソリン」
「ひへへへへ」
しょうもないやりとりをして来た道を引き返す。
もう温泉は諦めて秋田へ行こうとしていると、とある橋の上から見えた景色に、オレたちは心を打たれた。
一つの山が波一つない川に沿って緩やかなカーブを描きながら奥へと続き、それをもう一つの山が最後の曲線を覆い隠すように交差している。
重なりあった山と山の間のちょうど真上には、夕陽に焼ける白い雲があって、それが穏やかな川に反射して、山の緑に溶け合っている。
後々調べてみると、錦秋湖を横断する県道133号線の橋から見える景色だった。
昭和39年、湯田ダムによって和賀川を堰き止め、人工的に造られた湖で、名前の通り紅葉が美しいそうだが、例えば日本画にされるような特別な名所ではなかった。
あんなにええ景色やのにな、と鉄朗と二人で言いながら、Googleマップを調べてみると、その写真で見た景色は全く彩りが違っていた。
オレたちが一番感嘆した、あの鮮やかな緑がない。
「水が多いんや」と鉄朗が呟いた。
確かにGoogleで見る写真は貯水された水が多かった。オレたちが見たのは水が少なく、川の形とその周りを囲む苔の生した岩肌が一望出来た。
「勝ったな」とオレが言うと、
「ふっ」と鉄朗は鼻で笑った。
そしてまた走り出し、夜八時に秋田へ到着。
秋田に入って少しすると、道の駅さんない、に着いた。
今日も今日とてカレーを食べて、十時には就寝した。
雨も降らず、遠野の観光もして、上出来な九日目となった。




