箱庭の決闘
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宗教、文化、歴史、経済、開発、資源、人種。
様々な事柄から起因し、20世紀中期から小競り合いを繰り返しながら深まり続けた大国間ーーその支援国家間の溝。
長きに渡る敵視の交錯はやがて世界的な恐慌を迎えた23世紀初頭。
事実上機能を失った国際連合と言う枠組みを解体して世界を大きく四つに分ける動きの主因となった。
アメリカを首領としその支援国家と南米、そして一部中東国を含む新世界連合。
中国・ロシアを主体とした社会主義国家連盟。
一度は崩壊しかけていたEUを拡大・再編成した新生EU。
そしてその三勢力に属さない中立国へと。
しかし大きな変化は往々にして痛みを伴うものである。
強大な三勢力に対して明確なスタンスを持たない国は何処の勢力に属するか、それとも中立国として独立するかの選択を迫られる。
特に支援国家の異なる国や宗教間対立から睨み合う国家が密集していた中東地域は変化の荒波にその対立色を明確化させ、やがて禍根から始まる陣取り合戦。
小競り合いの戦火はそれぞれのバックにある大国が支援と言う形で介入を開始した事により加速度的に肥大化する。
三つの新国家の代理戦争となった中東戦線。
それは事実上この地上で三度目となる世界大戦の幕開けだった。
しかしその戦いは前大戦の様に長引く事なく幕を閉じる。
代理戦争の開戦から五年後ーー連合側が開発した五機の新兵器の投入によって核戦争に至るよりも先に決着したのだ。
兵器の名は《グリム・フェアリー》。
通称GFと呼ばれるそれは少女の姿をした人造人間『フェアリー』と接続する事でその意思に追従して空を舞い敵を殲滅する汎用兵器。
全高3m弱の人型強化骨格を含めた究極と呼べる戦闘システムの総称である。
その力は正に一騎当千。既存兵器の常識を超えた機動力と火力を有するこの神の使いが如き存在は多くの戦場で多方面に渡って活躍し、戦争早期終結の決定打となったのだ。
だが、少女としての形を持つ兵器。
そんな出鱈目な存在が許されたのは倫理感よりも結果が重視される戦時中のみ。
最強の剣も戦いが終わり鞘から抜かれなくなれば無用の長物でしかない。
戦火の収束後、四つに別たれた世界で勝者となった連合を主体に事実上の核兵器使用禁止条約が結ばれる。
荒野から卓上へと移り、弾丸の代わりに言葉が飛び交う戦場の裏側。連合国内では案の定GFの存在そのものの是非。
そして現場兵士などのリークで明らかとなった彼女達が戦地で行っていた戦闘以外の『ある仕事』が槍玉に上がり大きな物議をかもす事となった。
一部政府やNGO。民間団体などからは非難が殺到し、五人いたGFの開発者の一部は実戦投入される前だった30の個体を残して失踪する。
しかし連合政府は幾ら批判を浴びようが最早この圧倒的な力を手放す事など出来なかった。
GFは条約で表面上凍結された核に代わる新たな抑止力であり、再編された世界で連合が他国への牽制を可能とする大きなアドバンテージだったのだから。
けれど当然の様にその事を理解せず、ただ批判だけを行う大衆に政府はこの矛盾的な存在を認めさせる方策を模索する。
そして鳴り止まぬ非難の中で一年以上尽くされた議論の末に政府が下した結論。
ーーそれはGFを使った新たな事業を合法化し、彼女達を『競技』として大衆の面前で戦わせる事だった。
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新世界連合ーーエルセリード・シティ。
かつてこの国がまだアメリカ合衆国だった頃の国防総省庁舎は老朽化の為に取り壊され、今そこに建つのは五角形の意匠を引き継ぐ籠の様な建造物。