アディ
『生まれ変われるなら、今度はもっと、まともに生きたい』
ビールやチューハイの空き缶が転がる部屋。
机の上には、中身が半分くらいなくなったウィスキーの瓶と数本の薬瓶。
朦朧としながら、私は最後に、そんな事を思った。
そんな事を思ったからか、私は、死んだ瞬間生まれてた。
赤ん坊になった自分を認識して、また新しい人生始めなきゃだなんて拷問だって思った。あんな事、願うんじゃなかったと酷く後悔した。
しかも、新しい私はなんだか普通じゃない。
まず見た目。髪は黒で、瞳が赤と金のオッドアイ。
どうやら私が産まれた場所では黒髪もあまりいないみたいで、化け物と蔑まれ虐げられた。
周りはみんな、金の髪に、瞳は青や緑ばかり。両親も、金の髪に青い瞳だった。
更に私は、人の感情を感じ取ることが出来た。私に向けられる感情は全て、冷たいもの。母親だけが、戸惑いながら少しだけ温かさを向けてくれてた。
だから、母親が生きている間は、なんとか食事を与えられ、生きている事が出来た。
けれど私が五歳になったある日、父親が母親を殺した。化け物を産んだお前も化け物だと言って、殺したのだ。周りの人間も、それを笑って見てた。
狂っていると思った。
父親は私も殺そうとしてきて、私は力の限りに叫んだ。
ーーお前ら全員死んじまえ!!!
叫んだ瞬間、みんな、死んだ。
ぱたりと倒れて動かなくなった人達を見て、私は、怖くなって逃げた。
自分も死のうと何度も考えた。
だけど、また生まれてしまったらと思うと酷く怖い。
毎日、なんとか食べ物を調達して生きた。
しばらくして、自分の力が声にのって作用する事に気がついた。
色々試して、コントロールも出来るようになった。
コントロールを覚えれば、声に発した事柄を具現化出来る便利な力だと分かった。
便利だけれど、怖い。下手したら、私はまた、誰かを傷つける。
ボロボロの子供には誰も見向きもしないから、ひっそりと生きて、たまに悪そうな人からお金と食べ物を盗んで生きてた。
オッドアイを隠す為に、髪も長くした。
怖くて、さみしくて、本をたくさん読んだ。たくさん勉強した。そうしている間は、いろんな恐怖を忘れていられたから。
いろんな場所を転々として、ある時死体だらけの町に辿り着いた。
生きている人間はいなかった。疫病でみんな、やられたみたい。
食べ物とお金を探して、大きい屋敷に入ってみた。そしたら本がたくさんある書庫を見つけて、つい読みふけってしまった。
ふと、温かい気配に気付いた。
なんだろうって顔を上げたら、騎士が数人立ってる。
その中の一人、大柄な騎士から、とても優しい温かさを感じて、私は思わずその騎士に抱き付いた。
初めて感じる優しい感情に、酷く安心した。
騎士はダニエル・カーライルと名乗った。
彼も金の髪に青の瞳だったけれど、彼の金髪は太陽みたいで、瞳は空みたいに綺麗だった。
驚くべきことに、彼は私を雇ってくれるという。
声を出すのは怖かったから、筆記で会話するようにした。
私は彼をダンと呼び、ダンの為に一生懸命働いた。
ダンは私を男の子供だと思っているみたいだけど、訂正はしないでおいた。騎士であるダンの側には、男じゃないといられないと思ったから。
ダンは余り喋らない。
必要な言葉しか口にしない。
私も筆記での会話だから、いつも二人の間は静か。
だけれど私は、ダンの小さな表情の変化から、彼が何を言いたいのかわかるようになっていた。
自慢したい私の特技。
私の体に肉がついて、見た目も健康になって来た頃、ダンは私に剣を教える事にしたみたい。
見習いの騎士達に混ざって素振りをしたり、運動場を走らされたりするのは、キツイけれど楽しかった。
訓練の後は、私が家で用意してきた軽食を一緒に食べる。
ダンはとっても美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあった。
仕事の後は、一緒の馬に乗って帰る。
馬の乗り方もいつか教えてくれるって言ってたけど、私は本当は、今のままがよかった。
ダンの筋肉のついた太い腕に囲われていると、守られているみたいで好き。
ダンはよく、夕飯の後にお酒を飲む。
私は隣に座って本を読む。
たまにぽつぽつとダンが話すのを聞いて、私は筆記で答える。
ダンは太陽の匂いがして、あったかい。
私は、この生を得て初めて、幸せで満ち足りた毎日を得た。
太陽が昇り始めた頃、隣でダンが動く気配がした。
朝の日課に行くんだろう。
二人で眠る、この家には大きいこのベッド、王太子からの結婚祝いのプレゼント。
最初はもっと大きな物をくれようとしてたけど、部屋に入らないから断った。
王太子は仲良くなろう作戦で私の力を狙ってる。でも悪い狙い方じゃないし、なんだか頑張っているからそのままにする事にした。
ダンがベッドから出てシャツを着る音がして、私も目を開けた。
ダンの体は逞しい。騎士様って感じで好き。
目があって、軽くキスをしてくれる。
私は手を伸ばして、ダンの耳飾りに触れる。
二色の宝石の耳飾り。この人が私の物だっていう証拠。
「もう少し寝ていろ。」
そう言って、大きな固い手で頭を撫でられた。
ダンの低い声も好き。
壊れ物を触るみたいに、私に触ってくれる手も好き。
階段を下りる足音を聞きながら、私はベッドに残ったダンの熱を抱き締める。
もう少ししたら、愛する旦那様の為に、美味しいご飯を作りに行く。
ダンの匂いと温かさに包まれて、私は泣きたくなるくらいに、幸せ。