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あなたが太陽  作者: よろず
本編
3/13

3

 王太子達が去った部屋の中で、ダニエルは二番隊の騎士と共にドアの脇に立ち、警護の体制をとる。

 騎士団の三番隊までは貴族の子息で構成され、ダニエルの六番隊は平民出の騎士ばかりの隊だ。

 その為、針の筵のような感じで居心地が悪かった。

 騎士達が見守る先では、泣くのをやめた、ナナという名らしい少女とアディが文字と言葉で会話している。

 段々と少女が笑顔を見せ始め、どうやら二人は打ち解けたようだ。

 その様子を見ながら、ダニエルは思う。アディが年の近い同性と話しているのは初めて見るなと。

 騎士は男ばかりだ。家に帰ったらダニエルと二人。城でも男ばかりに囲まれ、しかも服装も休みの日以外は、楽だからと言って男と同じ服装をしているのだ。

 楽しそうな様子のアディに、ダニエルは少し切なくなる。もう少し、年頃の娘らしく生活をさせてやった方が良いのかもしれない。

 ダニエルがそんな事を考えていると、アディとナナがこちらを見てクスクスと笑っているのに気が付いた。

 ダニエルがアディに首を傾げて見せると、アディが書いた。


『ダンは、とっても優しくて、大好きって話してたの。』


 アディとダニエルの距離は離れている為、その文字は他の騎士にも見える。

 居た堪れなくなったダニエルが片手で顔を覆うと、アディとナナはまたクスクスと笑っていた。


 しばらくそうして話した後、アディはナナの為に辞書を作る事にしたらしい。

 侍女から紙の束を受け取って、紙に文字を書いては、黒板を使ってナナと会話をしている。

 そんな二人に侍女の一人がお茶と菓子を出して下がろうとした。が、アディがその侍女の手首を掴み、ダニエルに素早く目配せしてくる。

 アディが黒板に何かを書くと、飲もうとしていた紅茶をナナは慌てて机に戻す。

 その様を見た侍女がナイフを取り出してアディに襲い掛かろうとした所を、ダニエルがナイフごと腕を捻じって組み敷いた。


『多分、紅茶に毒入ってる。調べて。』


 一連の出来事に、部屋の中は騒然となった。

 捕らえた侍女は他の騎士に連れられて行き、アディは青い顔をしたナナを抱き締め背中を撫でている。


 紅茶を調べて戻ってきた騎士によると、アディの言葉通り毒が入っていた。しかも、殺す目的の毒だ。


「アディ、何故分かった?」


 ダニエルの問いに、アディは片手をナナから離して黒板に書く。


『あの人、なんだか嫌な事考えてる感じがしたの。』


 アディは感が鋭いようだと、ダニエルは初めて知った。

 これまでは、危険な事が起こる場所にアディを連れて行った事はなかったのだ。

 危険な仕事の時は、アディがどれだけ泣こうと縋り付こうと、絶対に連れて行かなかった。

 おそらく王太子妃の座を狙うものがナナを排除しようとしている。この通訳は、危険な仕事かもしれないと気を引き締めると共に、ダニエルはアディがとても心配になった。


 すっかり怯えてしまったナナは、夕食も喉を通らなかった。夜も一人は怖いと言ったらしく、アディが同じベッドで眠る事になった。

 アディが心配だったダニエルは、隣の控え室のベッドを借りて眠った。



 次の日の朝、ダニエルは驚きで固まる事となった。

 寝室から出て来たアディがドレス姿で、化粧までしていたからだ。

 アディの右目と同じ赤い色の布に、左目と同じ色の金糸で見事な刺繍が裾に施されたドレスは、まるで、アディの為に設えたようだった。

 いつもは一つにひっつめているだけの黒髪も見事に結われ、白い華奢な首筋が露出している。


『着せられちゃった。似合う?』


 はにかみながら黒板を見せてくるアディは、なんとも色っぽい。

 ダニエルは、すぐにでも腕を伸ばして囲い込んでしまいたい衝動を必死で堪えた。他の騎士達がアディの姿に見惚れているのが、酷く不快だった。

 そんな事をダニエルが考えていると、何故かアディは嬉しそうな顔になってダニエルに抱き付いてきた。

 そしてそのまま背伸びして、届いた顎に口付けをしてくる。

 呆然としているダニエルの胸に身体を寄せて、アディは満足そうに笑った。


『安心して、私が好きなのはダンだけ。』


 アディはたまに人の心を読んだような事と、返答に困る事を書く。

 髪が崩れてしまいそうで頭を撫でられず、ダニエルは困ってしまった。

 そんな二人をナナのみならず、ナナの部屋についている侍女や護衛の騎士までが、ニヤニヤと見守っていた。



 ナナは、今朝は食事を食べられたようだ。どうやらアディが毒味をしたらしい。また危険な事を、とやきもきするダニエルに、アディは笑っていた。

 紅茶は、メイドから茶器やお湯を受け取って、アディが中身を確認してから淹れている。

 紅茶を淹れ終わると、アディはナナと黒板で会話しながらまた辞書を作った。

 そして、ある程度枚数がたまった所でアディはダニエルを手招きする。


『ナナに発音を教えたいから、指差したやつを読んで?』

「あぁ、分かった。」


 途中昼食を挟んだが、午後に王太子が顔を出すまで、ナナの言葉の練習にダニエルは付き合わされた。




「アディか?」


 王太子と側近は部屋に入ると、アディの姿に目を見開いた。


「美しいな。」


 そう言って王太子は、アディの手を取って指先にキスをする。

 何故かアディは顔を顰め、ナナは顔を輝かせていた。

 アディは嫌そうにキスされた手を眺める。


「アディ、お前は顔に出過ぎだと思うぞ。」


 ナナにも同じようにキスをした後に王太子が苦笑した。

 王太子がソファに腰掛けると早速、アディは黒板に質問を書いて見せる。

 ダニエルはソファの後ろで黙って見守った。


『ナナの帰る方法は見つかりましたか?』


「いや、それはまだだ。それよりも、昨日のことは聞かないのか?」


『聞いたら解決しますか?』


「警戒にはなるんじゃないか?」


『これだけの騎士様がいらっしゃるんです。守って下さるでしょう?』


「……まぁ、そうだな。」


『それよりもナナの帰る方法です。ナナにはあちらで生活があります。』


「今魔術師達が研究している所だ。」


 王太子の返答にアディは不満そうな顔をして、黒板に書いたものをナナに見せた。


「ヤクタタズ」


 ナナが口にした言葉に、部屋が静まり返った。

 アディとナナだけが楽しそうにして、またアディが書いた文字を読んだナナが口を開く。


「ユーカイハン。カエラセロ。」


 王太子の顔が引きつる。


「アディ、これは、お前が言わせているのか?」


『ナナが口に出したいと言った言葉を教えただけです。』


 先程ダニエルが一緒に教えた言葉には、そんな言葉はなかった。


「ヤクタタズ!カエラセロ!!カエラセロ!!」


 ナナは目に涙を溜めて、それを何度も繰り返していた。

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