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あなたが太陽  作者: よろず
本編
1/13

1

十話前後で短い予定です。

 エレンディア王国騎士団、第六番隊副隊長ダニエル・カーライルは、困惑していた。



 聞けば十人中十人が怖い顔だと言う、微笑みですら怖がられる強面の自分が、何故か拾った子供に懐かれている。

 彼の人柄を知らない者は、その顔を見ると男であっても顔を引きつらせる。ましてや女子供に好かれた事などダニエルの人生でただの一度もなかったというのにだ。

 自分の腕の中で、安心しきった顔で眠る子供の姿に、動揺が隠しきれなかった。




 事の始まりは、辺境の町からの救援要請だった。

 疫病が流行って壊滅的だという。

 その町は、馬を替えながら駆けさせても王都から一月は掛かる。

 その為救援とは名ばかりの、薬を持てるだけ持たされての生存者探しが六番隊に与えられた仕事だった。


 ダニエル達が着くと、そこは死の町だった。

 人の気配はしない。生存者の発見は絶望的だった。

 部下に遺体の処理を命じて、隊長と数人の部下と共に町を歩く。見つかるのは遺体ばかり、町にはもう、人の気配は全くなかった。

 だが、町で一番大きな屋敷の書庫に、その子供はいた。一心不乱に、何かを読んでいたのだ。

 こちらに気付くと、子供も驚いた顔をしていた。

 そして驚く事に、徐に立ち上がった子供がダニエルに駆け寄り抱き付いてくるではないか。

 ダニエルを見上げた子供は、エレンディアでは見ない黒髪に、赤と金の二色の瞳を持っていた。



 子供は言葉が話せなかった。

 だがこちらの言う事は理解して、文字でなら会話が出来るようだ。恐らく、声を失っているのだなとダニエルは考えた。

 子供はアディと名乗った。

 アディは、何故かダニエルから離れない。他の隊員に任せようとしたら酷く抵抗されてしまった。

 そして夜になると、ダニエルの腕の中で眠った。


「これは副隊長が引き取るしかないんじゃないですか?」

「この様子だと、孤児院に連れて行ったら泣かれそうですよね。」

「そうだな、ダニエル、お前が引き取れ。」


 隊員達と隊長の言葉に、ダニエルは子供を従者として引き取る事を決めた。




 アディはよく働いた。

 家の中の事も、掃除や洗濯、食事の仕度、全てをこなした。

 驚くべき事にアディは16才だった。この容姿で自分と六つしか違わないとは…ガリガリに細かった事から生活が苦しい家庭だったのだな、とダニエルは切なくなった。

 ある程度生活に慣れてから城の仕事に連れて行ってみると、ダニエルの書類仕事の間違った箇所を指摘してきた。試しに書類仕事を任せてみたら、アディはそれもそつなくこなす。

 同僚や隊長達からは、良い拾い物をしたなと羨ましがられ、ダニエル自身もそう思った。


 何故あの町のあの場所にいたのか。聞くと悲しい顔をするので、きっと家族を亡くして行き場がなかったのかもしれないと、また切なくなる。


 自分が立派な男に育ててやろうと、ダニエルは心の中で誓った。





 ダニエルがアディを引き取り共に暮らすようになってから、五ヶ月が経った。

 アディは他の隊員達とも打ち解けたようで、よく筆記で話している。

 声の出せないアディは、首から黒板を下げ、腰の袋から白墨を取り出して、書いたり消したりして会話する。

 その二つはダニエルが買ってやったもので、買った時は大層喜んでいた。


 アディは書類仕事や家の事だけでなく、剣の稽古も頑張っている。

 筋力が足りない為か、打ち合うと押されてしまうが、ちょこまかした動きは剣よりもナイフの方が向いているのかもしれないと、ダニエルは考えている。

 筋力といえば、アディは中々逞しくならなかった。

 食事もそこまで多く食べられないし、同じ年の騎士と並ぶと比べ物にならないくらい細い。

 まるで女のようだなと、ダニエルは心配していた。


「ふ、副隊長!カーライル副隊長!!」


 暑い日の訓練の後、アディを連れて水場へ向かった部下が焦った様子で駆け戻って来た。


「あ、あでぃが…アディがぁっ!」


 アディに何かあったらしい。

 呼びに来た部下に連れられて行った先では、アディはずぶ濡れで、途方に暮れた顔をして立っていた。

 両腕は何かを隠すように胸の前で交差している。


「アディ、どうした?何があった?」


 どうやら、筆記に使う道具が側になく、何も伝える事ができないようだ。

 道具を探すように、アディの視線は彷徨っている。

 すぶ濡れになって洋服が張り付いた体は丸みを帯びていて、妙に艶めかしい。

 シャツの張り付いた肩は細くて華奢で、そこから腰にかけてなだらかなカーブを描いている。そして括れた腰から続く、柔らかそうな小さな尻。

 これでは、まるで……


「副隊長は知ってたんですか?!アディが女だって!」


 ダニエルは、驚いて固まった。

 信じられなくて、アディに近づいて交差された腕を外す。

 そこには、白いシャツが濡れて張り付いた膨らみが二つ、透けていた。

 意外な存在感でそこにある物に、ダニエルは目を大きく見開いた。

 膨らみから上に視線を移すと、真っ赤な顔のアディが、赤と金の瞳を潤ませてダニエルを上目遣いで見ている。なんとも扇情的で、ダニエルの体が熱くなった。


「アディ、とりあえず着替えを。話はそれからだ。」


 腕を解放してダニエルが告げると、アディは頷いた。



 着替えたアディが書いた事によると、ダニエルや他の者達が男だと思い込んでいる事は、分かって黙っていたようだ。

 それも、ダニエルの側にいたいが為に。

 どうか捨てないでくれと泣かれてしまい、ダニエルは狼狽した。


「ダニエルよ、嫁が見つかって良かったじゃないか。」


 隊長の無責任な発言に目を丸くしているダニエルに、アディは更に驚くべき事を書いて見せた。


『ダンにだったら、何されても大丈夫。』


 ダニエルは、頭を抱えて呻いた。

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