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第6話 目覚めた少女

 女性が再び目を開けたとき、全てが驚くほどに変わっていた。


 周囲の景色を自身の瞳はしっかりと捉えており、鼻は今いる場所の床や壁に使われた木の臭いを捉えていた。そして何よりも──失われたハズの左手を自分の意思で動かせていることに驚いた。


 自分は本当に呪いによって失われた全てを取り戻せたのだろうか?

 それとも夢を見ているだけなのだろうか?


 色々な想いが浮かび上がっては消え、いつの間にか女性は泣いていた。


 呪いに蝕まれた頃は1人で泣いていた。


 最初は勇者として呼び出された者として周囲には彼女に同情的な者も多かった。

 しかし彼女の呪いが、ある権力者を拒んだためだと知られると、権力者の不興を買うのを恐れた周囲は、手の平を返したように彼女の元を離れて行った。


 そのことを含めて彼女は泣き続けたが、いつしか悲しみは人への恨みへと変わり、恨みは人間への失望へと変わっていった。人間に失望し、呪われた自分に絶望し、いつしか彼女は泣くことがなくなった。


 だが、再び泣いた。

 失った物を取り戻したが故の喜びの涙を流しながら──。


 ひとしきり泣き終わった後、眠る前にダンジョン・マスターが口にした言葉を思い出した。

 言葉を聞き間違えていなければ、自分は既にダンジョン・マスターの眷属となっているハはず。


 人類の敵であるダンジョン・マスターの眷属となったこと。


 そのことには全く後悔は無い。


 自分を絶望に陥れて、更に手を差し伸べようとしなかった人間に今さら未練は無かった。

 彼女は既に人間を見限っていたのだ。


 もし、自分を救ってくれたダンジョン・マスターが国を滅ぼすといったとしても、さして迷わず剣を振るうだろう。

 彼女に、そう思わせる程に自分を救ってくれたダンジョン・マスターの存在は絶対的な物となっていた。


 ところで、自分を救ってくれたダンジョン・マスターはどこにいるのだろう? と考えて周囲を見回すも誰もいない。


 ひょっとすると先程入っていった奥の部屋にいるのかもしれない。

 そう考えて奥の部屋に向かうことにした。


 だが、置くの部屋に行こうと立ち上がり、そちらを見ると何かが隠れたことに気付き足を止めた。


 視線の先には、日本でいう所の、暖簾のれんのような物が掛けられている。

 そこは台所なのだろうか、床の素材が今いる部屋とは違うようだった。


 怪訝な表情で、何かが隠れたその場所を見ていると──また、何かがコチラを覗いた。


 しかも今度は2人だろうか。

 1人は子どもで、もう1人は人形のような宙を飛ぶ小さな何か。


 残念ながら、コチラを見ていた何かはすぐに壁の陰に隠れてしまい、ハッキリとした姿を捉える事は出来なかった。


 とりあえず、何が隠れたか確かめてみようと女性は考えた。


 警戒心は抜けないが、自分はダンジョン・マスターの眷属となった。そして、ここがダンジョンの中である以上は、隠れた存在も主であるダンジョン・マスターの関係者だろうと考えて。


 そう考えて台所らしき場所に歩いて行く。

 体を緊張させた状態だと相手を緊張させてしまうかもしれないと考えて、体をリラックスさせながら──。


 先程よりも台所? に近づいた所で再び壁の陰から何かがコチラを覗いた。


 その姿を見て時が止まったような錯覚を感じた。

 目の前に現れた子どもが、あまりにも美し過ぎたためだ。


 目の前にいるのは10歳にも満たない子どもは、銀色の髪と黒い瞳をした少女だった。頬を赤らめている初々しさが、一層彼女の美しさを際立たせている。


 あまりの美しさに声を出せずにいると、少女はギコチない表情で笑う。


「天使……」


 これが、リシュに向けて、勇者サクヤが口にした初めての言葉だった。

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