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第5話 霊薬と眷族印

 包帯を全身に巻いた女性は、リシュが奥の部屋に行っている間に眠りについていた──いや、痛みで気を失ったとも考えられるがリシュにとっては、どちらでも良い話だった。


「眠っている……まあ、丁度良いか」


 そういうと、女性の顔を隠している包帯と失われた左腕の切断面を隠している包帯を解く。


「…………」


 案の定というべきか、女性の左目は失われている。

 さらに、腕の切断面や左目があったくぼみは腐敗しており異臭を放っていた。


 しばらく、その酷いありさまを見続けたが、眠っているとはいえ傷口を見続けるのは失礼だと思い、作業を続けることにした。


 女性が着た服や包帯の上から体を触りインプラントのような体に埋め込まれた物がないか調べる。

 これは、これから使う薬品による急速な回復によって、インプラントなどが無理矢理体外に排出されて激痛が走ることを避けるためだ。


「大丈夫かな?」


 手で触れただけではあったが、インプラントのような物が埋め込まれてはいないと判断したリシュ。

 今行っている確認作業をするために、先程は『丁度良いか』と彼は言った。


 このとき、若干顔を赤らめていたのは、前世も含めて女性の素肌に触れたのが、ダンスの練習で女子の手を握った程度しかないためである。


「じゃあ、始めようか」


 そう言うと、リシュは手にした赤い薬品に魔力を通す。

 ビーカーのようなガラス容器に入った薬品は、魔力が通されると水のような透明な色へと変わった。


 この薬品は霊薬エリクサー。

 特別な素材を使い、術式と呼ばれる魔法の式を込められた最上級の薬であり、魔力を通すことで使用可能となる魔法薬の一種だ。


 リシュの手元に1つしかないため、イザという時のために残しておこうと彼は考えていた。

 しかし目の前の女性が勇者であると知り、彼女を眷属として手元に置いておいた方が自身の生存率が高まると判断したため、使用することにした。


「…………」


 無言で女性の体にビーカーの中の液体を垂らしていく。

 体に触れたエリクサーのは、透明だった液体は黄金色の光を放ち始める。


 徐々に広がるエリクサーの光。


 液体を垂らす程、光は強まり続けて、やがて女性の全身が光に包まれる。

 全身が黄金の光に染め上げられてから、しばらく時間が経つと光が収まった。


 光が収まって現れたのは、年齢は16~17程度で黒い髪に白い肌をした少女。

 

 先程まであった体の腐敗などは消えており、失われた腕も取り戻していた。

 腕を取り戻したということは、おそらく左目も取り戻せたということなのだろう。


「次は眷族印か……」


 女性の回復を確認したリシュは、次の作業に入る。

 その作業は眷族印を刻印すること。


 女性の体は隷属印といういんによる呪いが原因で腐敗していた。

 このため、隷属印よりも上位に位置する印である眷族印によって上書きして呪いの効果を消そうというわけだ。


「さっき、承諾をしてくれたし大丈夫なハズだけど……」


 眷族印の刻印には、印を与える者と受け取る者、双方が同意する必要がある。


 女性は眠る前に、眷属となることを承諾していた。

 だから大丈夫だとリシュは思っていたが若干の不安は感じている。


 早めに眷族印を刻印しないと、隷属印の呪いが発動し再び体を腐敗させかねないからだ。


 リシュは人差し指を立てて指先に魔力を集中させる。

 すると指先に黒い炎が生じ──指を少女に向けた。


「我は汝を眷属として欲す。我を主として迎え入れるならば──」


 部屋に響いたのは幼い子どもの声だったが、聞く者に畏怖を抱かせるかのような神聖さと恐ろしさを兼ね備えていた。


「──我が印を受け入れよ」


 言葉の終わりと共に少女の胸元へと黒い炎が揺らいでいる指を押し付けた。


「うっ……」


 少女は呻き声を上げる。

 だが呻き声は一言で終わり、すぐさま静寂が訪れた。


「成功……か」


 眷族印の刻印は問題なく終了した。


 これで隷属印の呪いは抑えられたが、隷属印そのものが消えたわけではない。

 しかし、今のリシュには出来ることがないため、少女から隷属印が消えるのはまだ先となる。


「終わった?」

「うん」


 一通りの作業が終わるとティアが姿を現した。

 その表情には若干の怒りが見受けられる。


「なにか怒っている?」

「……お菓子」

「なに?」

「私のお菓子、買ってない!」

「あっ」


 リシュは、ティアと街でお菓子を2つ買う約束をしていたことを思い出す。

 その約束は、目の前に横たわっている少女のことで完全に忘れていた。


「これから買いに行こうか?」

「……うん」


 お菓子のことで機嫌が悪い──いや、忘れられていたことが悲しかったのかもしれない。

 今にも泣き出しそうなティアに何かを言おうと頭を働かせて思いついた言葉は──。


「お菓子は3つでいいかな?」

「うん」


 チョロイ妖精だった。

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