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DD ダンジョン殺しのダンジョンマスター <第1部>  作者: 穂麦
第2章 ヴァートゥハイル大陸
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エピローグ 旅の続き

 リシュたちが異世界を脱出してから、2ヶ月が過ぎた。

 あれから、彼らの周りでは、わずかながら変化が起きている。


 ~ある村にて~


「リシュ~、お菓子買って」

「この辺りにお店はないからね。大きな街に行ったら買うことにしようか」


 リシュの右肩で元気な声で、お菓子をねだっているのはティア。

 彼女は、この村限定で姿を隠すことなくリシュと共にいる。


「えぇ~。じゃあ、お菓子ちょうだい」

「長老さんに合わないといけないから、お菓子は後にしましょう」


 リシュの左側を歩きながら、ティアをなだめているのはサクヤ。

 この3人が歩く光景はこれまでと何ら変わりはない。


「は~い」


 少し拗ねた声を出すも、ティアはすぐに笑顔を取り戻す。

 お菓子を食べられないのは残念だった。しかしこの街にいる間は、ティアが堂々と人前に出られる。

 このため、彼女の瞳に映る村の風景が輝いて見えるせいか、お菓子を諦めるのも早かった


 なぜ、この村はティアが姿を見せても大丈夫なのだろう?

 その答えは、村人にある。


「リシュちゃん、こんにちわ」

「こんにちわ」


 リシュに元気な挨拶をしたのは、1人の女の子。

 彼女は、異世界からの移住者。この世界にやって来たとき空を見上げていた少女だ。


 そう、この村は異世界からの移住者たちが住む村。

 リシュたちに深い感謝の念を抱く者たちが集まっている。


 彼らがリシュ達に害意を抱くことはないだろう。

 そう判断し他リシュは、ティアが姿を見せることを許可している。

 もちろん、リシュと共にいるという条件付きではあるが。


「__ちゃん」


 広場から少女を呼ぶ声が聞こえた。


「友達が呼んでいるよ」

「うん。じゃあねリシュちゃん。ティアちゃんも」

「じゃあね」

「バイバイ」


 友人に呼ばれて去っていく少女の背中を、3人は笑顔で見送る。

 しかし、サクヤだけは笑顔の奥に、悲しみを隠していた。

 

「………………(私だけ、挨拶されなかった)」


 美少女すぎるリシュと、妖精のティア。

 目立ち過ぎる2人に対して、勇者であるにもかかわらずサクヤは地味だ。

 よって、子どもの素直すぎる行動に、ショックを受けることも多い。


 *


 この村では、ある仕事が行われている。

 その仕事というのは、食料の貿易。


 取引相手は、かつて海底のダンジョンを共に攻略した、ラッセルたちだ。


 かつてラッセルがリシュに提案した、ダンジョン間を瞬時に移動する能力を利用した食料の運搬。

 その仕事の仲介役として、村人たちは活躍している。


 仕事内容としては──

 食料を荷物としてまとめる。

 リシュのダンジョンで採れたアイテムを売る。

 ダンジョンの管理。


 この仕事内容の中で、ダンジョンの管理というのは他の仕事とは毛色が違う。

 しかし、ダンジョンの管理は、仕事の要とも言えるダンジョンを維持するのに欠かせない。


 それに、この村はダンジョンでの運搬をするために作られた村だ。

 ダンジョンを失うことは、村の存在意義を失うことに繋がりかねないため、ダンジョンの管理は、最も重要な仕事とも言える。


「これが、今回運ぶ食料の全部です」

「はい」


 ダンジョンの出入り口に敷かれた布の上に、リシュは大量の食糧を並べた。

 リシュがアイテムBOXから取り出した食料は、取引先の村から来た顔馴染の兵士たちが漏れが無いかチェックをする。

 チェックした内容に問題が無い場合は、村人によって荷物にまとめられることになる。


「確認終了しました。では荷造りをお願いします」


 兵士による確認が終了すると、村人たちが一斉に行動を開始した。

 人間の男女や、その子ども、さらには獣人も一緒に仕事をしている。その中には魔族も混ざっていたが、今では取引先の兵士も、当たり前のこととして受け入れている。


「リシュ」

「はい」


 リシュに声をかけたのはジンライ。

 食料の買い付けをする時には、彼も一緒に行動している。


「次の取引んときは、ポーションや防具を村の方から注文させてもらいてえから、用意しておいてもらえるか?」

「ポーションは、取引が近くなったら作ることにします。防具の方はどんな物がいいでしょうか?」

「戦いに慣れていないヤツらに着せようと思っているからな。軽めのヤツが欲しい」

「防具が必要な理由を聞いてもいいですか?」

「南も騒がしくなってきてな。街ごと引っ越すことになるかもしれねえんだ。その前に街の連中を鍛えておこうと思ってな」


 ジンライ達の街は、難民が集まって出来た街だ。

 戦える者は国を守るときに命を失ったため、難民となった者の多くが戦えぬ者。

 そのような状態で、国を相手に戦えるハズもない。

 故に街ごと引っ越すという、一見すると無謀な行動も止むをえない状況にある。


「僕の要望としては、幻魔の洞窟の方へ引っ越して頂けると嬉しいのですがね」

「どうしてだ?」

「死の砂漠にはダンジョンが多いですから、実験が色々とできるんですよ」

「そうか……実験と言えば、ダンジョンで食糧を作るって言う話はどうなっている?」


 リシュは、支配下に置いたダンジョンで、様々な実験を行っている。

 行っている実験の中に、食料となる植物を育てるというものがある。


「小麦も野菜も、もうじき収穫できそうですよ」

「本当か!」

「もう少しすれば、安定して食べ物を作れるようになると思います」

「その話を、ラッセルに伝えてもいいか?」

「本格的に植物を育てるのは、まだ先になると思いますが、それでもよければ」

「問題はねえさ。うちとしては、食いもんが無いのは悩みの種だったからな。そいつが解消するかもしれねえんだ。ラッセルたちも早めに知りてえハズだ」


 ヴァートゥハイル大陸は、植物が育ちにくくなるという現象に見舞われている。

 南方ではすでに、飢餓による死者も多く出ている程だ。

 リシュの実験がうまく行けば、この問題を大きく改善させる可能性があった。


「ですが、あまり話を広めないようにお願いします」

「わあっているよ。俺もラッセルも口はかてえ方だ」


 飢餓が生じる程の食糧不足。対して、それを解消するかもしれない、ダンジョンでの食糧生産。

 このカードの存在を知られれば、大きな陰謀を招きこまれかねない。


「………………」

「俺は一応は傭兵だぜ。口はかてえぜ」


 ジト目でジンライを見る、リシュ、ティア、サクヤ。

 3人のジンライの口への信頼は薄い。


 *


「トラブルばかりで、時間が掛っているね」

「ええ。計画の半分も進めていませんからね」

「色々あったからね~」


 ダンジョンの奥で、3人は地図を眺めている。

 口から出るのは、幻魔の洞窟への旅がまだ進んでいないという事実。しかし3人の表情は明るい。


「あっ」

「どうしたんだい?」


 地図を眺めるティアは、驚いたような声を上げた。


「ここって、食べ物の街なんだって」


 ティアは、地図の一ヶ所を指さしながら答える。

 指差しているのは、ジンライがティアに教えた食の都。飢餓が南で起きているこの大陸ではあるが、そこは少し北にある街。それに海と面しているため、食べ物の輸入も行っているのだろう。


「じゃあ、寄り道していこうか」


 寄り道によって、幻魔の洞窟へ辿り着くのがまた遅くなる。

 そのことを分かっていても、リシュに迷いはない。


「2週間ほどでしょうかね?」

「そんなところだろうね」


 サクヤの言葉に答えるリシュ。


「途中で、お菓子を買うのを忘れないでね」

「大丈夫だよ」


 いつも通り、お菓子を催促するティア。

 彼女はリシュの肩に乗り、笑顔を振りまいている。


「では、次の街では、お菓子を買いながら情報を集めることにましょう」

「そうだね。そのついでに……」


 話しながら、ダンジョンの奥にある転移方陣に向かっていくリシュたち。

 彼らが去った部屋には、地図が残されていた。


 地図には、線と丸、そして×印が描かれている。


 まず目につくのは、リシュたちの旅路を表す赤い線。

 線の周辺には、支配下に置いたダンジョンの目印である、100以上の丸印。


 そして×印の少し上には、ティアが書いた幻魔の洞窟を表す可愛らしい文字。


 地図が役目を終えるまで、これらの文字は増え続ける。

 旅を終えるとき、どのような地図が完成しているのだろうか?


 残念ながら、完成した地図が日の目を浴びることなく物語は終了する。

 

 だが、このことだけは断言しておこう。

 3人の旅路は、幸せのうちに幕を閉じると──。

これにて、第一部は終了いたします。

応援ありがとうございましたm(_ _ )m

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